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愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt)

2007-01-06

lovelovedog2007-01-06

[]ア・バオ・ア・クゥーはどこにいる(どこにある)

調子に乗って、また少し文学ネタを書いてみます。

ア・バオア・クー」はガンダムの物語に出てくる要塞ですが、

ア・バオア・クー - Wikipedia

「ア・バオ・ア・クゥー」は、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』に出てくる幻獣です。

ア・バオ・ア・クゥー - Wikipedia

『アラビアン・ナイト』(『千夜一夜物語』)を最も原典に忠実に英語へ翻訳したとされる編者であるバートン卿が、彼が加えた注の中でア・バオ・ア・クゥーの伝承に触れている。 その件について、ホルヘ・ルイス・ボルヘスは彼が見聞した伝承をまとめた『幻獣辞典』(柳瀬尚紀による邦訳版(1974年、晶文社)がある)にて言及している。 しかしそのいずれにおいても、伝承の出典については詳しくは触れられていない。

伝承の舞台となっているのは、柳瀬の訳註によればインドのラジャスターン州ウダイプル郡チトールにある、ジャイナ教の15世紀の建造物「勝利の塔」である。この地は、古代ラジュプート族の要塞の地であった。

一方、説の中には「勝利の塔」というのは中国にある架空の塔である、と言う物も存在している。 『幻獣辞典』原文では「チトールにある」と記されているのみで、インドであるというのは大抵の文章中に一言も記されていない。

こんなのも。

ア・バオ・ア・クゥー A Bao A Qu インドの神話・民話 :幻想世界神話辞典

バートン版の『千夜一夜物語』の注にア・バオ・ア・クゥーの伝説が載っているというが、河出書房版の邦訳では確認できなかった。

バートン版の『千夜一夜物語』は、2003年に文庫版が出ているみたいですが、ちょっと中身は見ていないし、この言葉だけのために全部読むのもナニかなぁ、な気分です。

と思ったらこんなところにテキストが。

勝利の塔はどこにある

@勝利の塔

@Victory Tower

中国のチトールにある。これをインドのチトルガルと混同してはならない。この塔を巡る高いテラスからは,世界でも最も美しい風景が望まれる。回り階段の底部にはア・バオ・ア・クが住んでいる。だれかこの階段を登る者があると,ア・バオ・ア・ク(ほとんど透明である)は生命を吹き返し,訪問者の踵にしがみついて,そのあとから登っていく。

階段を一段登るごとに,ア・バオ・ア・クの身体の色は濃くなってゆき,次第に強い光を発するようになる。しかしながら,彼が階段の頂上に達することができるのは訪問者が精神的に完全である場合に限られる。そうでないときには,ア・バオ・ア・クは麻痺したようになり,未完成のままに残されて,色はぼやけ,光も薄れてくる。頂上に達することができなければ,この感じやすい獣はどこか絹のサラサラという音に似た弱々しい泣き声をあげる。訪問者が降りて来ると,ア・バオ・ア・クは階段の底まで後ろ向きになって転がり落ちる。そしてその場所で再び昏睡状態に陥るのである。ア・バオ・ア・クが完全に可視の状態になったのは,何世紀ものあいだでたった一度だけのことである。

(リチャード・フランシス・バートン卿,『アラビアン・ナイト・エンターテインメント』の訳注より,ロンドン,1885-88年)

なるほど。でも中国に「チトール」なんて地名のところはないんだけどな。

で、「インドのラジャスターン州ウダイプル郡チトール」はどこにあるのか、「勝利の塔」はどのようなものか、お前ら多分見たことがないと思うので見せてあげます

これです。

日本企業駐在員 インド人化計画:2005年11月

チットールガル城塞の内側には数多くの建築物が残るが、一際目立つのがこの塔である。時の王ラーナ・クンバが、戦勝記念として1458〜68年に建てたもので、高さ37mの9階建構造である。建物内外にヒンドゥー教彫刻を施したものとしてはインドで最も高い建築物とされている。また、上層階が中央部よりも広がっている点が、当時の建築技術水準の高さを立証している。

だいたい、ピサの斜塔とか浅草凌雲閣が高さ50メートルぐらいなので、それらと比べると見劣りはしちゃうんですが、「一際目立つ」というのは以下のところを見るとわかります。

chitor

↑これの1枚目と4枚目の画像。

また、一番最後の画像を見ると、チトール(チットールガル)の「勝利の塔」からでも、「世界でも最も美しい風景が望まれる」かもしれないな、と思いました。

ところが!

英語圏に住んでいる人にはさらに意外な事実が。

こんなテキストが、ウィキペディアの英語版にはあるんですね。

A Bao A Qu - Wikipedia, the free encyclopedia

A Bao A Qu is a Malayan legend described in Jorge Luis Borges's 1967 Book of Imaginary Beings. Borges claimed that he had found the legend in the book On Malay Witchcraft (1937), by C.C. Iturvuru.

と、いきなり「マレーの伝説」になっています。元になったのは、C.C. Iturvuruという人による「On Malay Witchcraft (1937)」だそうな。

こんなのとか。

Abaoaqu

For some reason I felt sure that C.C. Iturvuru (what an amazing name!) had heard the tale from an Orang Asli. The first person I asked happened to be Seri Pagi (though I only knew him as Pak Diap then). I gave him a simplified rendering of the A Bao A Qu legend and waited while the rusty gears of his memory whirred. His brow furrowed and then he broke into a broad grin, exclaiming in triumph: "Abang Aku! You mean Abang Aku!"

現地のSeri Pagiさんもそう言っています。

ところが!

これにはこんな裏事情が。

Jorge Luis Borges's BOOK OF IMAGINARY BEINGS

So this edition is a more accurate rendition of the various Spanish-language versions (order excluded). But I wonder if perhaps Borges did not intend (as Rodriguez Monegal and Woodall suggest) for the English-language editions to have some differences. For example, the last paragraph of the "A Bao A Qu" in the Hurley translation says, "Sir Richard Francis Burton records the legend of the A Bao A Qu in one of the notes to his version of The Thousand and One Nights." The di Giovanni translation says, "This legend is recorded by C. C. Iturvuru in an appendix to his now classic treatise On Malay Witchcraft (1937)." John Dyson of Indiana University thinks this change (from the Spanish text) was made to make it even more exotic, and is in fact a literary hoax, because various people who have attempted to track down the Iturvuru book have found nothing (except that Borges had a friend named C. C. *Iturburu*). It is a pity that this additional fillip has been discarded in the new edition. Hurley cites sources for most references in his edition, which is a great boon, but says nothing about this particular one. He does say in his end note that "some of [Borges's] 'quotations' are almost certainly apocryphal, put-ons." Interestingly, though Hurley claims to hew close to the Spanish, he translates "El capitan Burton" as "Sir Richard Francis Burton".

訳すのめんどくさいんで適当にパラフレーズすると、現代は「Andrew Hurley」の訳(Viking版)では「バートンの千夜一夜物語」に依拠していると書かれているみたいですが、イギリスで「Norman Thomas di Giovanni」に1967年に訳されたテキスト以降、(ボルヘスのテキストはスペイン語なので、英語に翻訳しないといけないのです)様々な「異本」が存在しているらしいんですな。

で、「di Giovanni」の翻訳では、その伝説は「C. C. Iturvuru in an appendix to his now classic treatise On Malay Witchcraft (1937)に書かれている」ということになっている、と。

ところが!

この「On Malay Witchcraft」の作者という「C. C. Iturvuru」という人は、ボルヘスの本の中、あるいはその本を引用している本の中以外には出てこないみたいなんです。

このテキストを書いた人は、ボルヘスの「literary hoax(文学的でっちあげ)」という説を取っていますし、ぼくも何か怪しい気がします。

この事実を確認するには、

1・中国のチトール(ってどこよ)にある「勝利の塔」

2・C. C. Iturvuru(って誰よ)が書いたという「On Malay Witchcraft」

という2つのうちのどれかが確認できるといいのですが、現在確認されているのは、チットールガルにある「勝利の塔」だけだったのでした。

まぁ、『幻獣辞典』は、少し調べようと思わなくても、パラパラ読むだけでもとても面白い本なので、機会があったら読んでみてください。たいていの図書館には置いてあると思います。ただし図書館から借りて読む場合は、返さなければならない期日があることに頭にくることではありましょう。

→「幻獣辞典」(アマゾン)

 

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