本を一冊出したらどれくらいの金が動くかを他の業界(不動産業界)で考えてみる

 ベストセラーじゃなくて、あくまでも「最低ライン」の線で言うと、2000円の本で5000部、というところか。漫画となるとケタが違うのでこれはまた別計算にして、1千万円東武東上線沿線のワンルーム・マンションぐらいですか(ここらへんはあまり調べないで、だいたいの感覚として言ってみる)。だいたい1軒の家やマンションを作るのに、職人が手数料としてもらうのが、まぁ多分印税と同じぐらい。1千万円の家なら100万円、というのが相場だろうか。
 これが10万部ぐらいになると、単純計算で2億円。広尾でほどほどの広さのマンションが買えます。一戸建てだったら、まぁ普通の豪邸ぐらいは、場所を選ばないと買える。つまり、そのくらいの本を作ることができる編集者は、億ションの物件を取り扱える不動産の営業と同じぐらいの能力がある、という感じ。もっとも、何を出しても○万部、○十万部、というほど売れる作家は数えるほどしかいない(たまたまベストセラーになる作家は、毎年何人かはいる)。
 世の中で、本を売る(作る)人の数より不動産を売る人の数が多いのは、なんとなくわかるような気がします。一生に一度の買い物、とは言っても、やはり不動産のほうが単価は高いわけで。本を売る(作る)人のリスクは、自動車を売る人のリスクよりかなり高いと思う。一つの商品を「万」という数で作って、全国の何千という書店、何万という書店員の手を通して売らなければならない、というリスクぶり。まぁその分、リターンも大きいんだろうな、売れさえすれば
 漫画(コミックス)の場合は、それよりひとケタ多い、と普通に考えていいんだろうか。500円で10万部。で、5000万円。これ、商売としてはすごく小さい気がする。つくばエクスプレス沿線に高層マンションひとつ作ると、○十億の売買になるんじゃないかな。まぁその「○万部」が「○十万・○百万部」になる、という可能性があるので、家を売るよりは少し面白いかもしれない。
 ただ、出版社の社員とその売上との相関関係は「売上1億につき1人(売上1000億円で1000人。そんな出版社は日本に5つはないだろう)」というのが比較的健全な状況で、社員の半数は販売・制作あるいは人事・総務といった管理部門なので、編集者の目標は、その出版社の規模が大きかろうと中・小規模であろうと「年間2億円」の売上を目標にする、というのが妥当なところか。そんなに売れる本なんてありません
 雑誌の場合はまた、広告収入とか雑費とか、出る金・入る金の計算が違うので、またの機会に考えてみるけど、ずいぶん昔に某ファッション雑誌の広告収入がゼロだったらいくらの値段で売らなければならないか、という試算の話を聞いたな。現在の販売価格は300円台なんだけど、その試算だと800円台になってしまったそうな。まぁこれから、趣味の雑誌(犬とか釣りとか)を除くと、雑誌の広告媒体としてのメリットはどんどんなくなっていくので、もっとバリバリ高い値段をつけることになるんだろうなぁ。ていうか、本(書籍)はともかく、雑誌の値段って安いと思ってるのが当たり前、というのがおかしいです。ぼくが定期購読している雑誌は3誌だけなんだけど、平気で3000円越えてしまう。ツケで処理してもらっているので、3か月も溜めてしまった日には大変なことになる。でも、これが広告収入のほとんどない雑誌の、正しい値段なんだろうと思う。