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2003年からの読書日記

思い出のアンネ・フランク (文春文庫)作者: ミープヒース,アリスン・レスリーゴールド,Miep Gies,Alison Leslie Gold,深町真理子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1994/04メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 13回この商品を含むブログ (1件) を見る

ミープ・ヒースさん・・・隠れ家で暮らすアンネ達を支援し続け、連行された後も危険をおして隠れ家に行き日記を救った人物。

以前読んだ小川洋子さんの本でもミープさんについて書かれている部分が特に印象に残っていました。

アリスン・レスリー・ゴールドさんがヒース夫妻にインタビューしたものをまとめた本書。
夫妻は最初本にすることをためらったそうですが、世に出て本当によかった!


>わたしはヒーローなどではない。たんに、あの暗い、おそろしい時代に、わたしとおなじようなことをした、あるいは、もっと多くのーはるかに多くのーことをした良きオランダ人たちの、長い、長い列の端に連なっているにすぎない。あれ以来、すでに多くの歳月が過ぎたが、あの時代のことは、つねに、その生き証人であるわたしたちの胸のなかに、ついきのうのことのように生きつづけている。あのころ起きたことについて思いださずに過ぎる日は、いまも一日たりとてない。

このプロローグがとても印象的で、ミープさんの人柄を表しているように思います。


アンネの日記』は突然プツッと終わっていてショックを受けましたが、こちらはアンネ達が連行された後、戦争が終わり、日記が出版され世界中に知られるようになる1963年頃までのことが語られています。


ミープ夫妻やアンネの父のオットーが生き延びるというのは分かっているのに読んでいるとやっぱり緊迫感がありました。



隠れ家の人々にとって支援してくれる人々の存在はかなり大きかったはず。
食料や生活必需品はもちろん、書物や花、誕生日プレゼント、心温まるイベントを考えるなど物質面以上に精神的な支えになっていたのだと思います。

いくつもの危険を潜り抜けて隠れ家の人々を支援し続けることには相当のプレッシャーがあったでしょう。
戦況が厳しい時期は物資も乏しく、食料を調達する労力は相当だったはず。
それに加えて大人達の話し相手や相談相手になることも多く、皆から信頼されている方だったのが感じられました。
たとえ疲れ切っていようとも隠れ家に行く時はみんなの手前、快活にふるまい続けたこと、これはとても強い精神力が必要だったと思います。



ミープさんはオーストリアのウィーン生まれですが、体が弱かったため11歳の時に肉親と離れオランダの養父母に育てられます。

>すでに五人の子持ちで、しかもけっして裕福ではなかったのに、この夫婦はつねに、七人が食べてゆけるのなら、八人でもなんとかなる、という態度をくずさず、徐々にこの、ウィーンからきた小さな飢えた女の子に栄養をつけさせ、体力を回復させていった。


ミープ夫妻はアンネ達を支援していた以外に自宅にも大学生をかくまっていたのですが、ここを読んだ時、危険を顧みずギリギリのところで多くの人達を支援した気持ちや理由が理解できたような気がしました。



またアンネ達が連行され日記を回収し保存していた時、読みたがった事務所の人達に答えた言葉も印象的です。

>「いいえ、それはいけないわ。たとえ子供の書いたものでも、あれは彼女のものだし、彼女だけの秘密よ。返すのは、彼女にじかに手わたすときだけ。それも彼女の手だけに」


ミープさん自身も十代の終わり頃に自分の思いをノートに書いていたそうです。

>胸の奥底の思いを、延々とノートに書きつづるようになった。こういったことはみんな、わたしひとりだけの秘密だった。他人と話しあうようなことではなかった。人生の意味を理解することに、わたしは深いあこがれをいだいていた。


結局このノートは処分してしまったそうですが、ミープさんはアンネが日記に夢中になる姿を見て自分の少女時代と重ねていたのかもしれないと思いました。



>わたしの物語は、異常な狂気の時代を生きた、ごく平凡な市民の物語である。このような時代が、二度とけっしてこないことを、わたしは衷心から希望する。それが二度とこないように心がけること、それこそがわたしたち世界じゅうの平凡な市民たちの務めなのである。


平和への切なる願いがひしひしと伝わってきます。
ミープさんがおっしゃる”平凡な市民たち”から学ぶことはまだまだたくさんあると思いました。
これからは日本人として恥ずかしくないよう日本の戦争についての本も少しずつ読んでいかなくては。


アンネの日記』を読んだことはもちろん、そこからつながってこの本に出合えたことは幸運でした。
アンネの日記』だけで終わらずこの本も多くの人々に手に取って欲しいです。