江戸時代、海辺の漁村に起こる悲劇。ゾ〜ットしながら一気に読んでしまった、さすが吉村昭!このブログでも7作品目の紹介だ。
戸数十七戸の孤立する漁村。土地は痩せ、満足な作物が育たず、あとは僅かな魚がとれるだけ。常に飢えと背中合わせの暮らしをしている。飢えから家族を守るのは、家族が身を売ること。主として売られるのは娘だが、戸主である男も身売りをする。
主人公の伊作は九歳、母と三人の弟妹と暮らしている。父は三年間の年季奉公で回船問屋に売られているのだ。
ある日、伊作は、「村おさ」の命令で塩焼きに出る。「塩焼き」というのは、単に塩を生産するだけでなく、夜遅くその明かりにひきよせられ岩礁で破船する船の船員を殺し、積荷を奪うためなのだ。この船の到来を願う祭事が「お船様」なのだ。
「お船様」には、米、醤油、砂糖、嗜好品、蝋燭、繊維類などが詰まれており、村はそれで何とか飢餓から逃れている。「お船様」は続けてくるときもあるが、数年来ないときもある。そしてこの恐るべき行為は、孤立したこの村だけの秘密とされ、脈々と続いている儀式で、他村には絶対もらしていけないのだ!
ある年、大量の米を積んだ船が破船し、三百余りの俵は家々に分配された。それは数年間を支える米になった。村人は、狂喜乱舞した!そして次の年、二冬続いた「お船様」の到来!!!
しかし…、みな船員は、なぜか、皆赤い衣を身にまとい、死に絶えており、そして不思議な赤い斑点が…。それが村の悲劇のはじまりだった…。果たして、この出来事は、死者からの仕返しなのか…。神のしっぺ返しなのか…。
最後に一人残る伊作は、道の向こうから三年の年季奉公を終えて帰る父が歩いている姿を見て、絶叫する…。(>_<)
僅か数百年前には、こんなふうに必死に生きる先人たちがいたのだろう。それに比べると私たちは豊かだ、豊か過ぎる。
そして家族を思う心、愛情というのはいつの時代も変らないということを改めて思った。重くて、悲惨だけど、感動する作品だ。