午後2時半
上り坂の天気に誘われて、
愛するスオメンリンナ島へ

緑に覆われた、城塞
海に向かって据えられた大砲


人の世は、成熟して退廃する
それを繰り返してゆくだけなのか、という
梨木香歩の小説のなかの言葉を、思いだす
ギリシア人のディミィトリスの台詞

遠くて近い、マンチェスターを思う
こんな世のなかになるなんて
10年前、この島の図書館でよく勉強していたわたしは
まだ想像もしていなかった


城壁の上を
強い風に煽られながら、歩く
海も空も、すこし離れたヘルシンキの街も
いつかのように、青かった




閉まりかけのカフェに、かろうじて駆け込み
苺のタルトとコーヒーを、買う
海の見えるベンチに腰掛け
頭をからっぽにして、お茶の時間


二、三羽の鳥が
近づいてきたり、ちょっと遠ざかってみたり、
さえずりながら、わたしの様子をうかがっている
お皿のタルトの欠片を、狙っているのだった

からっぽになったお皿を置いて、ぼんやりしていると
一羽が、ついに縁にのぼって、欠片をつつきだした
全然わたしがこわくないみたいね、と
ちいさな硝子玉のような鳥の目を、のぞいた




ヘルシンキでは、実は
よい出会いは、多くなかった

だけど、そんなときもある
焦ってもしかたがないし、
今、ここにあるものをキチンと見なければ
そもそもわたしの仕事は、どうしようもない

また変わったこの街に
やっぱり、来られてよかったよ



きょうで、この旅も最終夜
いやいや、めまぐるしく、忙しい二週間だった

書けないことのほうが、ずっと多いけれど
とにかく、よく仕事をした
そんななかで、沢山の人としっかり話ができたことは
わたしの大きな自信になった

たとえば、ああしたい、こうはしたくない、とか
色々なことを、ずっと考えることもできたし
希望をみつけられたような気がしている


日本に帰ったら、さらに
忙しい日々が待っているけれど

穏やかに、緩やかに
たのしいことができたらいいなと、思う