さて、6年ぶりのオスロ



飛行機での時間は、いつも、読書で過ぎる
映画をほとんど観ず、こういうとき眠れるタイプでもない
わたしの味方は、本だけだ

最初の二時間で、さっそく
エイミー・ベンダー『私自身の見えない徴』を読み終える
途中で止まったら竦んでしまうタイプの本で
食事の時間も、ほとんどわき目もふらず読みつづけた

その残像のなか、二冊目の本
トーマス・マンの亡命中の日記について、時代背景を解説し、
考察を加えた、『闘う文豪とナチス・ドイツ』(池内紀氏の新刊だ)
こういうときには、淡々と新書を読むのがいい

それでも、エイミー・ベンダーのけむりのような恐怖は振り払えず
結局、きょうはずっとそれを連れて歩いていた
自分と物語の境界が、溶けてしまうような感覚だった



この数年ですっかり大きくなり、行列ができるようになった
ヘルシンキ・ヴァンター空港
徹底して均質化された免税店の表面を、
他人ごとのように、なぞる

空港らしい小さな本屋のベストセラーの棚から、
Sofi Oksanen“Norma”を買い、さっそく読みはじめる
美しい髪に囚われる、現代のラプンツェルのような女性の話


また本か、と、自分でも思うけれど
このところ、ここまでまとまった時間は読書に使えていなかったから
たぶん飢えていたんだろう

それに、わたしの味方は
いつだって、本なのだった



雨上がりの匂いがする、オスロ
すっかり知らない街になった、駅前で
スーツケースを転がす

目が覚めたら、さっそく仕事の予定
どんな一日が待っているのか
きちんと期待して、眠る