テムズ川を越え、ガトウィック空港を越え
近距離鉄道の延長線を、南へ

ブライトンまで、1時間半
なかなか見ない、テムズの南の風景を
本の向こうに、ぼんやりと愉しむ


ブライトンに近づくにつれて
濃い灰色の雲が迫り、雨粒がガラスにつきはじめる
仕事なので、日は選べないのだけど
それでも、せっかくのブライトンなのにと、口惜しい

結局、小雨は降り止むことなく
休む時間も、ほとんど取れなかったというのに
たった10分の散歩では、凄まじい風にもみくちゃにされた
荒く砕ける波に、唖然としながら
遊歩道で、霧吹きから出ているような雨を浴びた


それでも、仕事は、なかなかの収穫で
やはり、今回も行ってよかったなと、思う
ブライトンをほんとうに愛しているので、
あわよくば散歩をしたいという邪な気持ちは、勿論あるけれど
そうでなくても、行く必要のある町なのだった

しかし、ねえ
めちゃくちゃ今さらなことを言うけれど、
小さくでも経営をしていくっていうのは、大変なことです
うまくいった日ほど、不安になる

そうは言ってもわたしの店は、有難いことに
駆け出しにしては、とても順調だと言えるし
言語やらとおんなじで、まずは、時間が要るのだろうな



ロンドンへ戻り
担いでいた荷物を置いて、大学前の本屋へ出かける
結局、空腹そっちのけで、閉店まで
フィクションの棚を、見て歩いた

探していた、クルコフの“Penguin Lost”は
新刊でもないのに、さらりとサインが入っていた
きっと、今年“The Bickford Fuse”がペーパーバックで出た機会に
この店を訪れ、それ以外の本にもサインをしたんだろう

雨の憂鬱も吹っ飛ぶ、思わぬ幸運
よい一日だった、と、ウキウキ夜道を歩く
自分のこの単純さよ


時間をめいっぱい使って
秋と冬に読む本を、集める

本を選んでいるときは、
仕事のことは、すっかり、頭からなくなっているから
わたしはやっぱり、“本屋”ではないのかもしれない