いつもの散歩道は
新緑と水の匂い


魚がかぷかぷと水面に顔を出し
枯葉の上を、とかげが滑るように這っていく

重なった葉の濃淡と
蜂の飛びまわる藤の花

そういう、ひとつひとつに
凝り固まった胸の奥が、ほぐれる


散歩が好きだ
眼前のささやかな動きや、かすかな音、
空気の手触りに、集中できる

気持ちを濾過して
いまの自分に、なにが要らないのか
なにが、固まって溶けてゆかず、苦しいのか
すこし、理解できたりも、する



今週は
気持ちを平らにしておくことが、難しくて
とにかく、しんどかった


どんな人か見てやろう、というような
無遠慮な好奇心というのは、伝わる
わたしが持っているかもしれない何かしらの情報、
あるいは、“面白そうな人”にしか興味がない、というのも
案外、すぐにわかってしまう

もちろん、わたしにどんな目線を向ける方でも、
お客さんにはかわりないので
心を砕いて、やってきたつもりだけれど
それでも、わたしは、本来の仕事を超えたところで
頻繁に誰かに査定をされるような状況に、
耐えられる人間では、もともと、ない


そういう方というのは、多くないし
二度三度来られるということも、ほぼない
わたしの顔を見て、聞きたいことを聞いたら、
それでいいと思われるからなんだろうけれど
やっぱり、わたしは、そのたびとても疲れてしまうし
そのうえ、がっかりされていたりしたらいやだなあ、と
余計なことまで考えてしまうのだった

お客さんとのあいだには
毎日、たくさんの、温かい会話があって
わたしがお客さんに、新しい世界を見せてもらえたりもするのに
こういうことで、気持ちが塞ぐのは、どうしてもいやで

けれど、今週はとくにそういうことが多かったから
しんどいことも起こる、ということから目を背け続けていたら、
自分でも気づかぬうちに、限界を超えてしまって
ほんとうにつらかったな

そんなことに
歩きながら、ぼんやりと気がつけて、よかったと思う
そもそも、なんでこんなにつらかったのか、
ぜんぜんわかっていなかったもの



すこし、荷は下りたような気がしているけれど
まだ、疲れはとれないまま

木曜には、また
すっきりとした気持ちで、楽しく立たなくては
きっと、それも、伝わってしまうものだと思うから

あしたは、きのうやり残した仕事があるけれど
すこしでも長く、休めるといい