極大と無矛盾は冗長表現ではなかった
辞書的に使っている『情報科学における論理』を調べてみたら、「極大無矛盾」の定義に関して、僕が誤解していたようだ。(誤解していたのではなくて、用語法が2種類以上あるのかもしれない。)
まず、矛盾(無矛盾)の用法を並べる:
- 公理系Aが矛盾する:A|- false
- 公理系Aが矛盾する:A|- f かつ A|- ¬f
- セオリーTが矛盾する:T = L (Lはすべての論理式)
- セオリーTが矛盾する:false∈T
- 公理系or証明系が矛盾する:{証明可能論理式}∩{反証可能論理式}≠空
- 論理式の集合Aが矛盾する:Aはモデルを持たない。
1番目と2番目は、false≡f∧¬f なら区別する必要はない、単に言い方の違いに過ぎない。3番目と4番目も「false∈T ⇒ T = L(Lは全体)」のもとで同じこと。5番目は、2番目を外延的表現で言い換えたもの。最後の矛盾概念は異質で、モデル論的な概念(構文論/証明論だけでは定義不可能な概念)。
さて、A、B⊆Lがあるとき、対(A, B)が無矛盾、またはAがBに対して無矛盾であることを次のように定義する(この定義は、『情報科学における論理』のものと少し違う。)
- 任意のb∈Bに対して、A |- b ではない。(Bのどんな論理式もAから証明できない。)
まず、「A |- b でない(bはAから証明できない)」ならば、「<A> |- b ではない」となるので、Aは、必要があればセオリーに拡張(またはセオリーと仮定)しても問題はない。
B={¬f | f∈A}(BはAに属する式の否定の全体)とすれば、AがBに対して無矛盾なら「f∈A ならば、A |- ¬f ではない」となる。これから、「f∈A かつ A |- ¬f」となるfの存在を否定できる。よって、特にAがセオリーなら普通の(肯定/否定が共に証明できることはない、という)意味で無矛盾となる。
B={false}とすれば、セオリーAがBに対して無矛盾なことはfalse!∈Aと同じことで、これもセオリーAが無矛盾であることの表現になっている。
今度は、B={f | f!∈A}と置く(!は否定)。このケースでは、「f!∈A ならば、A |- f ではない」となり、単にAがセオリーであること(の対偶)になる。
AがBに対して無矛盾であり、A∪B = L (Lは全体)のとき、無矛盾な対(A, B)は極大と呼ぶ。セオリーAとその補集合の対は極大無矛盾な対となる。セオリーAとAの論理式の否定を集めたBが極大無矛盾になるとは限らない。これが極大になるとき、Aは構文論的に完全(決定性を持つ)で、これまた通常の意味でAは極大。
AcはAの補集合、A¬をAの否定を集めた集合と約束して、以上をまとめると:
- Aは任意、(A、Ac)が無矛盾 ⇔ Aがセオリー
- Aはセオリー、(A、A¬)が無矛盾 ⇔ A|-fかつA|-¬fでないので、Aは無矛盾セオリー
- Aはセオリー、(A、{false})が無矛盾 ⇔ false !∈A で、Aは無矛盾セオリー
- Aはセオリー、(A、A¬)が極大無矛盾 ⇔ Aは決定性を持ち、通常の意味で極大。
セオリーAのBに相対的な無矛盾性は、Bの取り方で色々な概念を導けるといえる。(A, B)が極大無矛盾のとき、A∩Bは空(そうでないと無矛盾にならない)であり、対の極大性はAが決定性を持つ(構文的完全である)ことと同じである。
[追記]
「AがBに対して無矛盾」を形式的に書けば ∀b. b∈B→¬(A |- b)。あるいは、書き換えて ∀b. ¬(b∈B)∨¬(A |- b)。
BがL(全体)のときはb∈Bが常にtrueだから、∀b. false∨¬(A |- b)、∀b. ¬(A |- b) となる。つまり、「Aが全体に対して無矛盾」のときは「Aは何も証明できない」。つまりはAが空であることを意味する。
Bが空の時はb∈Bが常にfalseだから、∀b. true∨¬(A |- b)。つまり、「Aが空に対して無矛盾」は恒真である。いかなるAも空に対しては無矛盾。
[/追記]
「飽和」(saturate)という言葉もあったようが気がするが、正確な定義は憶えてないなぁ。極大と同じだったような気もするが、構成的なんだっけ? 今はあんまり使わないのかな、飽和ってのは。