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2017-02-20 (月)

上空にいる足し算の親玉を捕まえる

| 13:43 | 上空にいる足し算の親玉を捕まえるを含むブックマーク

足し算を持つような圏Cに対して、その圏Cの自己関手圏End(C)内に棲んでいる代数系が、Cの足し算構造を牛耳っている様子を観察します。実は蒸し返しだけど。

内容:

  1. 足し算を持つ圏
  2. 自己関手圏内の代数系
  3. 自己関手圏のモノイド構造
  4. 足し算の親玉
  5. 何が面白いの?

足し算を持つ圏

足し算を持つ圏というと、半加法圏(semiadditive category)と加法圏(additive category)があります。その定義は、nLabやWikipadiaを参照してください。

半加法圏も加法圏も双積(biproduct)¥oplusを持ち、双積¥oplusをベースにして足し算が定義されます。より具体的に言うと、対角を ΔA:A→A¥oplusA 、余対角を ∇B:B¥oplusB→B とすると、f, g:A→B に対して、次のようにして足し算を定義できます。

  • f + g := ΔA;(f¥oplusg);∇B : A→B

半加法圏の場合は、必ずしも引き算が出来るとは限りません。加法圏の場合は、引き算が自由に出来ることが保証されます。

上記の「足し算の定義」を見れば分かるように、足し算よりもっと基本的なものとして、自然変換Δ, ∇があります。他に、iA:0→A, !A:A→0 という自然変換も重要です。ここで、0は零対象、すなわち始対象かつ終対象です。加法圏の場合は、x|→(-x) (ベクトルを反対向きにする演算)に相当する ΜA:A→A があります(どうでもいいけど、Μはエムではなくて、大文字ミューです)。

自己関手圏内の代数系

足し算を持つ圏(=半加法圏または加法圏)をCとすると、前節で出てきたΔ, ∇, i, !, Μ(Μは加法圏のみ)などは、Cの自己関手と自然変換からなる圏End(C)の射です。つまり、足し算の原材料と足し算を統制する法則は圏End(C)に棲んでいることになります。

Cの足し算を牛耳っている親玉は、Cより上位の世界(メタレベル)にいるのですが、上位の世界でどんな姿をしているのでしょうか。実は、割とお馴染みの代数系の構造を持つのです。

  • (Δ, !)は、End(C)において余可換コモノイドとなる。
  • (∇, i)は、End(C)において可換モノイドとなる。
  • (∇, i, Δ, !)は、End(C)において双可換双モノイドとなる(双可換は可換かつ余可換の意味)。
  • Cが加法圏のとき、(∇, i, Δ, !, Μ)は、End(C)において双可換ホップ・モノイドとなる(Μが対蹠)。

この事実に気づいて「ほーっ」と思ったんですが、2011年に同じことを書いていました(苦笑)。

というわけで、この記事の内容は蒸し返しです。書き始めの時点で蒸し返しのつもりじゃなかったのですが、関連記事を検索してみたら同じ内容の記事が出てきちゃった、ってことです。

関連する内容は次の記事にもあります。

自己関手圏のモノイド構造

過去記事を参照してるだけでは芸がないので、足し算の親玉が棲んでいる自己関手圏について少し詳しく述べます。

自己関手圏End(C)内のモノイドというと、モナドを思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし、モノイド(∇, i)はモナドとは全く別物です。そもそも、自己関手圏End(C)に入れるモノイド構造が全然違うのです。

  • モナドを定義するときのEnd(C)のモノイド積は、関手の結合と自然変換の横結合を使う。このモノイド積は非対称な厳密モノイド積である。
  • (∇, i)などを定義するときのEnd(C)のモノイド積は、Cの双積¥oplusから作られたモノイド積を使う。このモノイド積は対称な非厳密モノイド積である。

Cの自己関手圏」とはいいながら、モノイド構造まで考えると、モナドと(∇, i)などは別な世界に棲んでいるのです。

Cを、双積をモノイド積とするモノイド圏として詳しく書けば、C = (C, ¥oplus, 0, σ, α, λ, ρ) となります。イコールの右辺のCは単なる圏としてのCです(記号の乱用)。0は(特定された)零対称、σは対称、α, λ, ρは、非厳密モノイド圏としての結合律子, 左単位律子, 右単位律子です。

(∇, i)などが棲む上位の世界もまた対称非厳密モノイド圏です。その圏を (End(C), □, Z, σ, α, λ, ρ) と書きましょう。Cと混同しないように、構成素の文字やフォントを変えています。□がモノイド積、Zが単位対象、σが対称、α, λ, ρが律子です。

では、上位の世界=メタレベルのモノイド圏を定義していきます。

  • End(C)の2つの対象、つまり F, G:CC に対して、F□G := ΔC;(F×G);(¥oplus) : CC。ここで、ΔC:CC×C は圏の対角埋め込み(Cの対角とは違う)、(¥oplus)は双積を定義する二項関手 C×CC。別な書き方をすると:
    • (F□G)(A) := F(A)¥oplusG(A)
    • (F□G)(f:A→B) := (F(f:A→B)¥oplusG(f:A→B) : F(A)¥oplusG(A)→F(B)¥oplusG(B))
  • End(C)の2つの射、つまり自然変換 φ::F⇒F':CC, ψ::G⇒G':CC に対して、
    • (φ□ψ)A := φA¥oplusψA : F(A)¥oplusG(A)→F'(A)¥oplusG'(A)
  • Z:CC は、Z := Const0。ここで、Constは定数関手、
    • Z(A) := 0
    • Z(f:A→B) := id0
  • End(C)の2つの対象 F, G:CC に対して、σF,G:F□G→G□F は、C上の関手のあいだの自然変換なので、A∈|C| の成分ごとに、(σF,G)A:(F□G)(A)→(G□F)(A) を決めればよい。
    • (σF,G)A := σF(A),G(A)
    • σF(A),G(A):F(A)¥oplusG(A)→G(A)¥oplusG(A) だが、F(A)¥oplusG(A) = (F□G)(A), G(A)¥oplusF(A) = (G□F)(A) だから、σF(A),G(A):(F□G)(A)→(G□F)(A)。
  • 結合律子αは、Cの自己関手F, G, Hに対する αF,G,H:(F□G)□H→F□(G□H) in End(C) の族だが、関手と自然変換として書けば αF,G,H::(F□G)□H⇒F□(G□H):CC なので、A∈|C| の成分ごとに定義すればよい。
    • (αF,G,H)A := αF(A),G(A),H(A) : (F(A)¥oplusG(A))¥oplusH(A)→F(A)(¥oplus(G(A)¥oplusH(A)) in C
  • λ, ραと同様に定義する。

以上の定義は素材を準備しただけなので、これらの素材が対称非厳密モノイド圏の公理を満たすことを確認する必要があります。Cのモノイド構造が、End(C)へと持ち上がる感じなので、めんどくさいけど難しくはないと思います。

半加法圏/加法圏Cから上記の手順で作った“関手圏にモノイド構造を載せた圏”をなんて呼んだらいいか分からないのですが、足し算(sum, addition)に関連したメタレベルの圏ということで、Cメタ和圏(meta-sum category)とでも呼んで、MetaSum(C)と書くことにします。

足し算の親玉

モノイド圏では、そのなかでモノイドやコモノイドを定義できます。さらに対称性があれば、可換性/余可換性が定義できます。Cが半加法圏または加法圏のとき、MetaSum(C) = (End(C), □, Z, σ, α, λ, ρ) は対称モノイド圏になるので、MetaSum(C)内ではモノイド/コモノイド、その可換性/余可換性などを云々できます。

C上の自然変換Δ, ∇, !, i, Μは、MetaSum(C)の射としては以下のプロファイルを持ちます。IdはCの恒等自然変換です。念のため注意しておくと、IdはMetaSum(C)の単位対象ではありません。単位対象は定数値関手Zです。モナドとは状況が違います。

  • Δ:Id→Id□Id
  • ∇:Id□Id→Id
  • !:Id→Z
  • i:Z→Id
  • M:Id→Id

出現するMetaSum(C)の対象(自己関手)はIdだけです。これらの射を組み合わせることにより、MetaSum(C)内の代数系を構成できます。

  • (∇, i)は、台対象Id上の可換モノイド
  • (Δ, !)は、台対象Id上の余可換コモノイド
  • (∇, i, Δ, !)は、台対象Id上の双可換(可換かつ余可換)双モノイド
  • (∇, i, Δ, !, M)は、台対象Id上の双可換ホップ・モノイド

Cが半加法圏の場合は、MetaSum(C)内の双可換双モノイド(∇, i, Δ, !)が足し算の親玉で、Cが加法圏の場合は、双可換ホップ・モノイド(∇, i, Δ, !, Μ)が足し算の親玉です。

雰囲気的に言うと、地上の圏Cの足し算構造を、上空にあるメタ圏内のただひとつの代数系が支配していることになります。

何が面白いの?

Cが持つ足し算構造を、MetaSum(C)内の代数系(双可換双モノイド、または双可換ホップ・モノイド)で表すと何かいいことあるのでしょうか?

とりあえず、メタ圏MetaSum(C)の構成の手間はかかりますが、足し算構造がただひとつの代数系に集約されるので、記述がコンパクトになるメリットがあります。

CDが足し算構造を持つとき、その足し算構造を保存するような関手、つまり(半)加法関手 Φ:CD を定義できます。このような関手Φは、MetaSum(C)内の親玉とMetaSum(D)内の親玉を対応付けているはずです。その対応はどんな形をしているのでしょう? この問題は自明とも言えません。対応のメカニズムとして新しい(僕が知らなかった)構造が出てきそうです。

今回作ったモノイド圏(End(C, □, Z, σ, α, λ, ρ)は、モナドを作るときに使う厳密モノイド圏(End(C), *, Id)とは別物です。しかし、台圏(underlying category)End(C)は同じです。であるなら、2つのモノイド構造を一緒にEnd(C)に載せると何が出来るのでしょうか? これは、2つのモノイド積を持つ圏の事例になるでしょう。非可換環の類似物ではないでしょうか?

というわけで、足し算の親玉とその生息地であるメタ圏を調べるのは無意味ではない気がします。

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2017-02-17 (金)

カリー/ハワード対応への障壁

| 15:25 | カリー/ハワード対応への障壁を含むブックマーク

「カリー/ハワード対応を小一時間で説明してみようか」と思ったのですが、すぐさま、この企ては諦めました。無理だよな。もちろん、ある程度の準備が必要という事情がありますが、分かりやすい対応を作る際に障害物・障壁があるんですよね、… ったくもう。愚痴を書きます。

内容:

  1. 何と何を対応させるのか
  2. シーケント計算を考慮する
  3. 邪魔だが無視できない存在としての自然演繹
  4. 悩む!

何と何を対応させるのか

カリー/ハワード“対応”なんで、何かと何かを対応させるのでしょうが、何を対応させるの? オーソドックスな答は「論理型付きラムダ計算を対応させる」でしょう。はい、それでいいです、文句ありません。

型付きラムダ計算は、方言があるとはいえ、比較的安定した構文を持ちます。で、論理側の対応物は何にしましょう? 自然演繹とシーケント計算が候補になるでしょう。僕は、自然演繹は一切使わないで、シーケント計算とラムダ計算の対応を取ったほうがスッキリすると思っています。しかし、自然演繹を使うほうが多数派です。僕自身も、2009年のセミナーでは自然演繹を使っています。

なお、上記の記事からリンクされているKuwataさん記事 http://return0.dyndns.org/log/2009/03/20#s_2、superstring04さん記事 http://d.hatena.ne.jp/superstring04/20090328/1238211198 は現在でも残っています。リンク切れにならずにヨカッタ。

僕が(たぶん多くの人も)自然演繹を採用したのは、シーケント計算には抵抗感がある人が多いみたいだからです。僕の知る範囲では、いきなりシーケント計算を出されても「何してるかサッパリわからん!」という反応です。それに比べれば、「ソクラテスは死ぬ」とかどうでもいい例と一緒に自然演繹を出したほうがマシなようです。

という次第で、標準的(=多数派の)選択としては、「カリー/ハワード対応は、自然演繹と型付きラムダ計算を対応させる」となるのでしょう。

シーケント計算を考慮する

いきなりシーケントを出してアレルギーを引き起こすのもなんだから、自然演繹を使うことにしたわけですが、僕が内心「シーケントのほうがいい」と思っている理由は、セマンティクスとの相性の問題です。自然演繹はセマンティクスと相性が悪い、つうか、セマンティクスと距離があるんですよ。一方、シーケントはセマンティクスに繋げるのが容易です。

シーケントとは、型理論で言えば型判断 x1:A1, ..., xn:An ⇒ E:B です。ここで、xiは変数、AiとBは型、Eは式です。変数と式を除いてしまえば、A1, ..., An ⇒ B なので、論理のシーケントです。逆に言うと、論理のシーケントに変数と式で註釈を追加すれば、型理論の型判断が出来上がるのです。

シーケント計算の証明図が、ラムダ式へ型付けしていく過程(型推論)をそのまま表現しているので、「論理の証明図←→ラムダ式の型付けの過程」という対応としてカリー/ハワード対応を提示できます。

シーケント=型判断は、セマンティクスであるデカルト閉圏の射に対応します。この対応を使うと、シーケント論理/型理論デカルト閉圏(より一般にはモノイド閉圏)との対応を調べることが出来ます。

構文(シーケント計算/ラムダ計算)からセマンティクスであるデカルト閉圏への対応をスムーズに進めるために、僕は「大きなラムダ式」というものを導入しました。「大きなラムダ式/大きなラムダ計算」は以下の記事で触れています。

「自然演繹の構文←→ラムダ計算の構文」のような構文のあいだの相互変換よりは、「構文→セマンティクス」のほうが重要だと僕は思っています。なので、大きなラムダ式を仲介として、「ラムダ計算の構文→デカルト閉圏」という対応を優先させたいのです。立場としては、セマンティクス重視、セマンティクス駆動な立場と言えます。

セマンティック駆動な立場については次の記事で述べています。

「ラムダ計算の構文→デカルト閉圏」が理解できて、「シーケント計算の構文→デカルト閉圏」も理解できれば、どちらもデカルト閉圏をモデルに持つのだから「ラムダ計算もシーケント計算も同じようなもんだ」と納得できるでしょう。僕の主観に過ぎませんが、構文のあいだの相互変換が在る事より、同じ意味(セマンティクス、モデル)を持つ事のほうが、類似性・同形性が腑に落ちる気がします。これは、心理的・心情的な納得感の問題だ、ともう一度断っておきますけどね。

邪魔だが無視できない存在としての自然演繹

冒頭で「愚痴を書きます」と記したのですが、今日の愚痴は自然演繹に関してです。「型付きラムダ計算と型判断」「シーケント計算」「デカルト閉圏(またはモノイド閉圏)」という三者は、(少なくとも僕にとっては)きれいなトリニティを形成しています。

ところが、かつての僕も含めて多数派の選択では、自然演繹を話題に取り上げます。自然演繹を入れると、きれいなトリニティが乱されるのでイヤだなー、と感じるのですが、まったく触れないのもドーヨ? と不安になったりもします。

そもそも僕は、自然演繹には不満タラタラなんです。

自然演繹、シーケント計算、型付きラムダ計算の対応をまとめてみると:

自然演繹 シーケント計算 型付きラムダ計算
命題 命題
証明図 シーケント 型判断
推論図 公理シーケント 公理(自明と認める)型判断
証明図書き換えの規則 推論図 型付けの規則
証明図書き換えの過程 証明図 型付けの過程

「推論図」、「証明図」といった言葉が、自然演繹とシーケントではズレているんです。シーケントのほうがメタな記述になっているから「メタな分だけズレる」と言えば、そりゃそうなんだけど混乱を招きます。僕としては、自然演繹の証明図は縦書きシーケントとでも呼びたい。

自然演繹の証明図とシーケント計算の証明図は全然対応してなくて、自然演繹における証明過程(リーズニング)を表しているのは、証明図の時間方向での書き換え(アニメーション)です。「ちっとも自然じゃない」と悪態をついた主たる理由は、アニメーションを断片的静的図(スチル)で代用するという無茶をしているからです。

アニメーションをスチル1,2枚で代用するのはやめろよ! と、「自然演繹はちっとも自然じゃない -- 圏論による再考」で主張しています。

自然演繹、シーケント計算、型付きラムダ計算は出自が違うので、それぞれに異なった歴史と伝統を持ちます。見た目がまったく異なるものが実は同一だった、と分かれば感動するかも知れません。が、見た目が異なっているのは歴史的(たぶんに偶発的)事情だとするなら、感動にいたる労力の多くは歴史的・文化的差異の理解に費やされるわけで、それって意味あんのかよ? と疑問に感じるのです。

悩む!

現時点で、カリー/ハワード対応を小一時間、いや出来るだけ短時間で話すなら次のようにするでしょう。

  1. 非形式的に型付きラムダ式の構文を導入する。タプリングは最初から入れる。組み込みの関数(例えば整数の足し算)がないとかえって分かりにくいので、関数記号(指数型の定数記号)とデルタ変換(オラクル)も入れる。
  2. 変数(関数変数もあり)の型宣言があれば、式の型を決められるだろう、という話をする。
  3. 変数の型宣言のもとで、式の型を決定する規則を型判断(=シーケント)の形で書く。
  4. ラムダ式の構文解析木に、型註釈を付けていくことにより、型付け(型推論)過程をツリー(一般にはグラフ)状に描くことができる。
  5. 型付け過程のグラフから、変数や式を消して型だけを残したグラフを作る。
  6. これって、命題の論理的証明の過程を描いたグラフじゃん。← って無理があるか?

最後のところが納得感があるかどうか疑問です。やっぱり自然演繹入れたほうがいいのか? あー、悩む!

過去に書いた、手を変え品を変えの説明↓

いまだベストと思える説明に届かず。

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2017-02-15 (水)

@名古屋からスペースハイブのプレTQFTへ

| 16:04 | @名古屋からスペースハイブのプレTQFTへを含むブックマーク

量子と古典の物理と幾何@名古屋」の関連ネタですが、当日にしゃべった内容は前提せずに書きます。割と直感的な方法で2次元TQFT(Topological Quantum Field Theory)のオモチャを構成できそうだよ、ってこと。

内容:

  1. だいたいTQFT
  2. ゾンビとハイブ
  3. スペースハイブとスペースゾンビ
  4. 計算的解釈とプレTQFT
  5. フロベニウス代数によるプレTQFT関手のエンコード

だいたいTQFT

なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」において:

ネタ元(つうか、間接的なネタ元)がFHK論文であるので、2次元TQFT(Topological Quantum Field Theory)を多少は意識しています。しかし、ハイブの形状を平面領域(と同相な図形)から境界を許す2次元コンパクト多様体に一般化して、その上のTQFTモドキを作ろうと思うと、意外と面倒です。

その後少し調べたり考えたりしたら、2次元TQFTっぽく仕立てることは出来そうです。もちろん、手間は増えますが、さほどのことでもない気がします。

TQFTとは言ってもアティヤ(Atiyah)の公理そのままではありませんが、「だいたいTQFT」とは言える関手は構成できそう。TQFT関手(と呼んでしまう)の定義域であるコボルディズム圏はちゃんと定義します(今はしないけど)。このコボルディズム圏は、3-射まで持つという意味で3-圏ですが、モノイド積も持つので、単対象の4-圏とも言えます。

TQFT関手が値を取る圏は関係圏Relを想定しますが、Relに固定せずある程度一般的なセッティングで考えます。Rel以外に関手の余域となる圏(値を取る圏)の具体例としては、有限次元ヒルベルト空間の圏FdHilbがあります。

ゾンビとハイブ

なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に現れる用語「ゾンビ」「ハイブ」などは、実際に研究会に参加した方以外には意味不明でしょう。このような概念・用語を採用した背景には、強いエモーショナルな動機があります。しかし、エモーションをすべて捨て去れば、「ゾンビ」は実在するゾンビ(実在しねーか?)である必要はありません。ネズミでもゴキブリでも自走するロボットオモチャでもかまいません。なにかしら動くモノならいいのです。そのような動くモノを象徴的に「ゾンビ」と呼びます。テクニカルタームですから、語源の詮索はやめましょう。

ハイブは三角形の部屋からなる建物(実験施設)です。ハイブを構成する建材(ユニット)はただ一種で、ドア付き壁パネルです。三角部屋は3枚のドア付き壁パネルで囲まれた空間です。別な言い方をすると、三角部屋の三方にはドアがあります。このドアは一方通行です。部屋のドア付き壁が外壁になっている場合があります。その場合は、ドアはハイブへの入口ドア、またはハイブからの出口ドアとなります。

ハイブへの入口ドアが付いた壁パネルの連なりを入口側外壁、ハイブからの出口ドアが付いた壁パネルの連なりを出口側外壁と呼びます。

ハイブの部屋割りレイアウトは、2次元の図面で表現できます。この図面のこともハイブと呼びます。部屋は三角なので、ハイブの建築面(2次元領域)を三角形に分割した図になります。また、ドアが一方通行なので、ドアの方向も図面に書き込んでおきます。三角形分割と各ドアの方向が、ハイブの設計情報の全てです。

ゾンビとハイブがどう関係するかというと、何個体(「人」か「匹」か分からないので「個体」)かのゾンビがハイブの外にいる状態から、ゾンビをハイブの入口ドアから突入させて、ハイブ内部を走り回らせる実験を繰り返すのです。この実験(の一回の試行)をゾンビランと呼びます。

ハイブの部屋割りレイアウト(ドアの方向指定を含む)を適切に制約すると、入ったゾンビは必ずハイブの外に出てきます。ゾンビラン開始から十分な時間がたてば、出てきたゾンビの個体数は最初と同じで、行方不明のゾンビは出ないはずです。

スペースハイブとスペースゾンビ

前節の説明では、ハイブは平面内の敷地に建造(建ぺい率は気にしないでいいです)することを想定します。床や天井は平らな平面の一部であるる形状です。地表面に建造する前提ではこの制約を逃れるのは難しいので、宇宙空間にハイブを浮かべることにします。宇宙に浮かんだハイブをスペースハイブと呼ぶことにします。

スペースハイブは任意の“向き付け可能でなめらかな2次元コンパクト多様体”(以下「曲面」と呼ぶ)の形状をしています。三角部屋を3次元空間として実現するなら、曲面Mに厚みを付けた M×[0, h] の形です。ここで実数hは床から天井までの高さ。部屋割りレイアウトは、曲面の三角形分割で、ドアの向きは“壁=辺への法線ベクトル”*1で指定できるので、スペースハイブの設計情報はやはり2次元で済みます。なので、以下、厚み(部屋の高さ)は考えないで、曲面として考えます

スペースハイブでゾンビラン実験をするには、ゾンビ達も宇宙空間で活動可能である必要があります。スペースゾンビですね*2

地上でのハイブとゾンビランと同様に、スペースハイブ(のレイアウト/ドア方向)に制約を付けて、スペースゾンビを使ったゾンビランを繰り返して結果を集計すると、スペースハイブの圏SHiveから関係圏Relへの関手を作れます。

一般に、関手 F:SHiveRel はたくさんありますが、そのなかで「スペースハイブの内部構造(内部の部屋割りとドアの向き)に依存しない」ものを探すのが、宇宙空間でのハイブ&ゾンビ問題です。内部構造と言っているのは、外から観測可能な外壁(入口側外壁と出口側外壁)構造には依存してもいい、いやむしろ、積極的に依存させるからです。

ちなみに、単なる動くモノとしてのゾンビを使ったゾンビランからは、内部構造非依存な関手は作れません。内部構造に依存してしまうのです。ゾンビに荷電(符号、極性)を持たせて、ドアでの通過個体数を正負の整数としてカウントすると内部構造非依存な関手になります。ハイブの境界分割状況とハイブ全体の位相にだけ依存するので、ある種の不変量が作れます -- この事実を示すのがハイブ&ゾンビ問題の動機です。

計算的解釈とプレTQFT

曲面上に三角形分割を与えて、その三角形分割に基いて関手を構成するのは、FHK(Fukuma-Hosono-Kawai)スタイルのTQFT構成(「なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に挙げた参考文献を参照)に類似ですが、ゾンビランによる構成ではTQFT構成と異なる点があります。

TQFT構成では、曲面内部(境界ではない部分)の三角形分割に依存しないだけでなく、境界での区間分割(1次元の単体分割)にも依存しない関手を作ります。スペースハイブでは、境界(外壁)での区間分割には依存して、境界区間分割を固定したときに内部三角形分割に依存しない関手を探します。

どうしてこうするかと言うと、ハイブ&ゾンビ問題は計算的解釈をしているからです。つまり、境界(外壁=入口側外壁と出口側外壁)は外部から観測可能で、入力・出力のインターフェイスを与えていると考えます。内部の部屋割りレイアウト(ドア方向指定を含む)は、計算機構を実装するアルゴリズムと考えます。アルゴリズムはフローチャート(=双対グラフ=ストリング図)で表現されます。内部構造=アルゴリズムの変更は“リファクタリング”です。「リファクタリングによって計算セマンティクスが影響されてはいけない」というテーゼは、リスコフの置換原理みたいなものです。

FHKスタイルのTQFT構成でも、第1段階では境界区間分割に依存する関手を構成します。その後で境界区間分割にも依存しないように細工します。境界区間分割に依存/内部三角形分割には依存しない関手は、TQFT関手の手前まで来ている関手なのです。なので、プレTQFT関手と呼ぶことにします。

スペースハイブとゾンビランを計算的に解釈することは、スペースハイブの圏SHive上のプレTQFT関手を求めることです。

フロベニウス代数によるプレTQFT関手のエンコード

スペースハイブの圏SHive、またはSHiveと圏同値なストリング図の圏は、up-to-isoで有限生成です。有限個の生成射と生成射のあいだの関係を表す射(これも一種の生成射)で圏全体の構造を記述可能です。これを利用すると、SHiveからモノイド圏Cへの関手 F:SHiveC は有限(高次)グラフΣ(指標とも呼ぶ)からCへの写像で表現できます。

指標ΣからCへの写像(指標Σが生成する自由圏からの関手に拡張可能)とは、C内のΣ代数です。Fがスペースハイブの内部構造(部屋割りレイアウト)に依存しないという制約は、Σ代数の代数法則を規定して、Σ代数はフロベニウス代数(の変種)になります。つまり、プレTQFT関手はフロベニウス代数でエンコード(パラメトライズ)されます。

ラウダ/ファイファー(Aaron D. Lauda, Hendryk Pfeiffer)の2次元開閉TQFT(open-closed Topological Quantum Field Theories、「なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に挙げた参考文献を参照)では、2次元コボルディズムの境界に色(black or non-black color)という概念を導入しています。色付き境界を導入すると、ドアのない外壁パネルを使うことが許されて、ハイブ形状がより自由になるし、フロベニウス代数の単位/余単位の問題も解決しそうです。

色付き境界の導入には、曲面に境界だけでなく角〈かど〉も許すことになります。角付き多様体を使ったTQFTは拡張TQFT(Extended TQFT)と呼ぶので、我々の関手はプレ拡張TQFT関手と呼べるでしょう。

プレ拡張TQFT関手が値を取る圏Cは、単なるモノイド圏だと味気ないので、条件を付けたほうがいいでしょう。例えば、ダガー・コンパクト閉・対称モノイド圏とか(名前が長い!)。強い条件を付ければ、一般性を失いますが、その分細かい議論が出来ます。

まとめると、スペースハイブの圏SHiveを2次元コボルディズム圏としてチャンと定義すれば、その上のC値プレ拡張TQFT関手は、モノイド圏C内のフロベニウス代数(の変種)と1:1対応するだろう、ということです。

この筋書きはたぶん間違ってないと思いますが、細部を述べるかどうかは、僕の気分と気力次第で、なんとも言えません。もし詳細を書くことがあるなら、この記事からリンクを追加します。

*1:法線と言ってますが、直交概念は必要ないです。辺上の一点で、辺に沿っていない接ベクトルを指定すればOK。曲面全体に向き(orientation)があるなら、法線ベクトルは辺の向き(direction)で代替できます。

*2:『スペース・ゾンビ』という映画作品がありますが、舞台は宇宙ではなくて農園のようです。

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2017-02-14 (火)

英語版無料PDFか、それとも日本語版商業出版物か:圏論と測度論

| 11:21 | 英語版無料PDFか、それとも日本語版商業出版物か:圏論と測度論を含むブックマーク

トム・レンスターの『ベーシック圏論

2017年 圏論に関する参考文献の案内(無料オンライン版含む)」で、書籍"Basic Category Theory"が無料PDFとして公開されたことを紹介しました。

※ 書籍の表紙画像が表示されないときは、このページをリロードしてみてください。

日本語翻訳版が今年(2017年)1月末に丸善出版から発売されました。

ベーシック圏論 普遍性からの速習コース

ベーシック圏論 普遍性からの速習コース

入門書であって(タイトルが「入門」や「基礎」ってことじゃなくて!)、キチンと書かれた日本語の本というのは、今まで見あたらなかったので、これは朗報です。英語やPDFに抵抗がある方にはおすすめです。

テレンス・タオの『ルベーグ積分入門』

無料で入手できる本格的(紙なら高額)な理数系専門書15選」で紹介した"An introduction to measure theory"ですが:

これも、去年(2016年)12月に翻訳本が朝倉書店から出ました。

テレンス・タオ ルベーグ積分入門

テレンス・タオ ルベーグ積分入門

超天才であるだけでなく、懇切丁寧で行き届いた講義をすると言われるタオの教科書です。同種の話題を扱った書籍はアマタありますが、この本を手に取る価値は確実にあると思います。

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2017-02-13 (月)

なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋

| 13:49 | なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋を含むブックマーク

量子と古典の物理と幾何@名古屋」世話人/参加者の皆様、ありがとうございました。

僕の話は、案の定、省略や言い残しがイッパイありますね。たぶんこうなるだろうと予測してたので事後資料は準備してあります。でも、事後資料を読むのは面倒でしょうから、今の時点で思い浮かぶ補足を幾つか手短に書いておきます。

内容:

  1. 資料、訂正と結論
  2. ネタ元とか参考文献とか
  3. ハイブについて
  4. フロベニウス代数とその亜種
  5. ハイブの圏はなぜ3次元なのか
  6. よく分からんけど

資料、訂正と結論

当日使った資料は、次のURLからアクセス可能です。

  1. ハンドアウト http://www.chimaira.org/misc/story.md.html
  2. チートシート http://www.chimaira.org/misc/cheatsheet.md.html

ハンドアウトの「セクション3 項目6」に間違いがありましたが、今は訂正しています。訂正後の内容を丁寧に書くと次のようです; 圏Set内の可換群(普通の可換群)を圏Rel内の可換群だと思い、関係の転置(域と余域の取り替え)により余二項演算を導入すると、二項演算と余二項演算を備えた代数系は、結合律、余結合律、フロベニウス律、星状律、余星状律を満たす。従って、三角形分割非依存なRel値関手を定義する。(各種の法則の絵はチートシートに描いてあります。)

可換群があれば、それから三角形分割非依存な関手を作れるわけです。特別な場合として、整数加法群 (Z, + , 0) から三角形分割非依存な関手を作れます。これが荷電ゾンビ(charged zombies)を使った非決定性ゾンビフロー計算の意味関手 Z:HiveRel です。プレーンゾンビを使っていた場合は、観測値(ドアにおける通過個体数カウント)全体が群ではないので、ハイブの内部構造=三角形分割に影響されてしまいました。荷電=符号を考慮したカウントならば、内部構造を漏らすことはなくなります。

[追記]

Z:HiveRel の具体的な記述:

  • Z(1-射であるドア付き壁パネル) = Z(整数の全体)
  • Z(2-射である「入るドア2, 出るドア1」の三角部屋) = (足し算:Z2Z)
  • Z(2-射である「入るドア1, 出るドア2」の三角部屋) = (余足し算:ZZ2)
    余足し算は、足し算の転置で、入力の整数を2つの整数に加法的に分解する(非決定性)。

基本ビルディングブロックでの値が決まれば、後はハイブの部屋割りレイアウトに沿って、横結合(¥otimes)と縦結合(;)の公式から計算できます。計算は双対グラフ上で行ったほうが楽です。

  • Z(a¥otimesb) = Z(a)¥otimesZ(b) 外壁(折れ線)の横結合、Relでの¥otimesは直積
  • Z(A¥otimesB) = Z(A)¥otimesZ(B) ハイブの横結合、Relでの¥otimesは関係の直積(タプルの組み換えあり)
  • Z(A;B) = Z(A);Z(B) ハイブの縦結合

[/追記]

ネタ元とか参考文献とか

ほぼ10年前、「結合律の図形的解釈」とか「フロベニウス律と特殊律を満たすなら星状細分に対して不変」だとか、メモを書いているので、“このテの話題”をうっすらとは知っていたのでしょう。

何で“このテの話題”に興味を持ったのかは記憶にありません。“このテの話題”の有名な論文というと、FHK(Fukuma, Hosono, Kawai)です。

でも、この論文は物理的内容を物理的記法で書いてあるので、僕にはまったくサッパリ分かりません。ジョン・バエズがFHK論文を高く評価してるんですよね。"This Week's Finds in Mathematical Physics"で紹介しています。

僕は、バエズの紹介記事を読んでうっすらと分かった気になっていた、というのが10年前の状況だったんじゃないのかな、たぶん。

ラウダ/ファイファー(Aaron D. Lauda, Hendryk Pfeiffer)が、FHKのモダンな拡張を構成しています。

  • Title: State sum construction of two-dimensional open-closed Topological Quantum Field Theories
  • Authors: Aaron D. Lauda, Hendryk Pfeiffer
  • Pages: 33
  • URL: https://arxiv.org/abs/math/0602047

↑をざっと眺めれば(読まなくても)、絵算/絵等式/三角形分割などが使われているのが分かります。もっと詳しい内容はラウダの学位論文にあります。

ハイブについて

ハイブ(三角ハイブ)は、ユークリッド平面内のまっすぐな辺を持つ三角形の集まりとして導入しました。双対グラフで考えたほうが楽なので、ハイブに関する制約を双対グラフの性質として記述しました。その後なしくずしに、ハイブの圏Hiveは、制約付き有向グラフ(ストリング図)の圏Daftogと圏同値であるかのように扱っています。これはマヤカシっぽい話の展開なので、少し補足しておきます。

次元0, 1, 2に対して標準アフィン単体を次のように定義します。

  • Δ0 = {x∈R | x = 1} = {1}
  • Δ1 = {(x1, x2)∈R2 | x1 + x2 = 1 かつ x1 ≧ 0 かつ x2 ≧ 0}
  • Δ2 = {(x1, x2, x3)∈R3 | x1 + x2 + x3 = 1 かつ x1 ≧ 0 かつ x2 ≧ 0 かつ x3 ≧ 0}

標準アフィン単体Δkから適当な次元のユークリッド空間RNへのアフィン写像 σ:ΔkRn で単射なものを(RN内の)アフィン単体と呼びましょう。点集合だと考えたいのなら、σの像だけに注目してもかまいません。RNのなかでアフィン単体を素材とした複合図形をアフィン単体複体と呼ぶことにします。

最初の段階でハイブは、R2内のアフィン単体複体に辺(1次元単体)の向き(=ドアの向き=ゾンビの進行方向)を付けたものとして定義(?)しました。ハイブの条件は、双対グラフに関する次の性質(制約)で記述されます。

形容詞 グラフの性質 ハイブの性質
Directed 辺は向きを持つ。 ドアは一方通行。
Acyclic サイクルを持たない。 ゾンビは永久に走り回らない。
Fluent グラフを流路と見て、吸い込みも湧き出しも持たない。 ゾンビは閉じ込められないし、湧いてこない。
Trivalent 1つのノードに出入りする辺の総数は3本。 部屋の形は三角形、三方にドア。
Open 開放端を持つ。開放端は辺の端点だがノードとは違う。 入口ドアと出口ドアがある。

上記の条件DAFTOを満たすグラフをDAFTOG(DAFT Graph)と呼び、開放端を繋ぐ結合操作(composition)によりDAFTOGの全体は圏をなします。DAFTOGを射とする圏Daftogの対象は有限個の開放端点(絵では並んだドット)です。問題になるのは端点の個数だけなので、対象の集合は自然数全体Nだとしてもかまいません。さらに、端点のドット列とDAFTOGを横(図の描き方に依存するが)に並べる操作をモノイド積(テンソル積)として、Daftogはモノイド圏になります。

モノイド圏Daftogの幾何的実現がハイブの圏なので、ハイブの圏HiveDaftogと同じ構造を持つよね、という筋書きですが、R2内のアフィン単体複体によりDAFTOGの幾何的実現が出来るのか? というと、それは無理です。

アフィンである、つまり三角形の辺がまっすぐであるということが邪魔になります。Daftog側で結合可能(composable)な2つの射が、アフィンな双対ではうまく結合できないのです。次がその例です。

この問題を解決するには、単体の定義のなかのアフィン写像を単なる連続写像とかなめらかな(C写像に置き換えます。そうやって定義し直した単体を曲がった単体(curved simplex)と呼びましょう*1。曲がった単体から作られる複体は曲がった単体複体(curved simplicial complex)です。そして、曲がった単体複体を幾何的ベースにしたハイブは曲がった(三角)ハイブ(curved (triangular) hive)と呼びます。

曲がったハイブなら柔軟性・自由度が高いので、Daftogの結合を幾何的に実現できます。

アフィンハイブの絵ばっかり描いていたのですが、ちゃんと圏の構造を持たせるには曲がったハイブまで含めてハイブの全体を考える必要があります。つまり、Hive := AffineHive ではなくて、Hive := CurvedHive と定義すべきです。

フロベニウス代数とその亜種

フロベニウス代数は、任意のモノイド圏で定義可能で、次の公理を満たす代数系 (W, m, e, c, i) です。idWを単にWと書きます。律子〈りつし〉は省略します。チートシートの絵等式も参照してください。

  1. 結合律 (m¥otimesW);m = (W¥otimesm);m
  2. 左右の単位律 (e¥otimesW);m = W, (W¥otimese);m = W
  3. 余結合律 c;(c¥otimesW) = c;(W¥otimesc)
  4. 左右の余単位律 c;(i¥otimesW) = W, c;(W¥otimesi) = W
  5. フロベニウス律 c;m = (c¥otimesW);(W¥otimesm), c;m = (W¥otimesc);(m¥otimesW)

三角形分割または三価(ノードに集まる辺が3本の)グラフを使う限り、単位律/余単位律を表現する手段がありません。そこで、単位律/余単位律を外したものを非単位的フロベニウス代数(non-unital Frobenius algebra)と呼ぶことにします。通常のフロベニウス代数が単位/余単位を持つことを強調したいときは単位的フロベニウス代数ということにします。

パッヒナル移動(Pachner move)の星状細分(stellar subdivision)に対応する代数法則を(名前がないので)仮に星状律(stellar law)/余星状律(costellar law)と呼ぶことにします。チートシートに星状律/余星状律の絵があります。

単位的フロベニウス代数であれば、特殊律(これもチートシート)から星状律/余星状律が出ます(逆も真です)が、非単位的フロベニウス代数の場合は、星状律/余星状律を特殊律に置きかえることが出来ないので、そのまま星状律/余星状律を使います。星状律/余星状律を満たすことを単に「星状」という形容詞で表すことにすると、「パッヒナル移動不変な関手←→非単位的星状フロベニウス代数」という対応があります。

当記事冒頭「資料、訂正と結論」で述べたように、集合圏Setの可換群があれば、関係圏Relの非単位的星状フロベニウス代数が作れます。すべての非単位的星状フロベニウス代数が可換群に由来するかどうかは、僕は分かりません。また、単位的と非単位的なフロベニウス代数のあいだにどれほどの隔たりがあるかも分かりません。

ハイブの圏はなぜ3次元なのか

ハイブの圏Hiveには、次のような射(セル)があります。

  • 点(建物としては柱)が0次元の射=対象。
  • 折れ線(建物としては幾つかのドアを持つ外壁)が1次元の射、折れ線の始点が域(ドメイン)、終点が余域(コドメイン)。
  • ハイブが2次元の射。入口側外壁(折れ線)が域、出口側外壁(折れ線)が余域。
  • ハイブのあいだの、三角形分割を保つ同相写像(とか、なめらか同相写像)と、パッヒナル移動を組み合わせた変形が3次元の射。変形前のハイブが域、変形後のハイブが余域。

0, 1, 2次元までは、圏の射としての次元と図形としての幾何的次元が一致しています。これは分かりやすい反面、誤解を招くかもしれません。圏としての次元と幾何的次元が一致している必要は全然ないのです。ハイブの圏ではたまたま一致しているだけです。

例えば、(1+1)次元コボルディズム圏では、1次元のコンパクト閉多様体が0次元の射=対象で、2次元のコンパクト多様体が1次元の射です。2次元のコンパクト多様体のあいだの境界を固定してのなめらかな同相写像を2次元の射とすることもあります。要するに、図形としての次元と射としての次元は一致してません。別にかまいません。

圏としての次元は絶対的なものではなくて、用途により適当にズラシてもいいのです。いや、ズラシたほうがいいときがあります。例えば、既存のモノイド圏に、ダミーの0次元射=対象を1個だけ追加して、それまでの対象を“ダミー対象を域・余域とする1次元射”に格上げします。射の次元も1だけ格上げすれば、圏全体の次元も1上がります。あるいは、n-射までしかない圏で、n-射のあいだの恒等(n+1)-射を追加すれば、(n+1)-射を持つことになり、これまた圏全体の次元は1上がります。

ハイブの圏Hiveの次元が3なのは、「次元が高めの射を入れたかった」という事情です。若干作為的な感じは否めません。Hiveの横結合は、一点(対象=0-射)で繋ぐ(貼り合わせる)連接ですが、糊しろ(貼り合わる場所)を持たない併置を横結合にしても大差ありません。糊しろが空な貼り合わとは直和なので、直和をモノイド積とするモノイド2-圏(次元は1だけ落とす)をHiveとしても同じことです。

ネタ元(つうか、間接的なネタ元)がFHK論文であるので、2次元TQFT(Topological Quantum Field Theory)を多少は意識しています。しかし、ハイブの形状を平面領域(と同相な図形)から境界を許す2次元コンパクト多様体に一般化して、その上のTQFTモドキを作ろうと思うと、意外と面倒です。

分割の基本図形を三角形に限るのは辛くなるので、一角形、二角形も入れたほうがいいでしょう。対象である1次元コンパクト閉多様体に対応する恒等コボルディズムの構成のとき、線分(区間)と直積すると、三角形ではなくて四角形が現れたりするので、それの処理も面倒です。HiveAKB12とほぼ同じ)がそうであるように、次元が退化した1次元図形もコボルディズムとして認めたほうがいいかも知れません。

どうするのがいいのかよく分かりません。ハイブはオモチャなので、あーでもないこーでもないと手でいじって遊べば、それでいいと思います。

よく分からんけど

僕は、物理に関する知識も素養も全くないので、聞きかじりとイイカゲンな類推で言うのですが: ゾンビフロー計算のセマンティクス(ディノテーション)をどうやって求めるかというと、事前に準備したゾンビ達を入口ドアに突入させて、ハイブ内部でワチャワチャ走らせて、十分に長い時間待ったときの、出口ドアへの散らばり具合を集計するわけです。

これって、S行列とかいうモノと似てんじゃないの? よく知らんけど。それで、ゾンビフローのプロパゲーターがあって、離散時間(ステップ)で積み上げると長時間後のゾンビ配置パターン、出口からの出方のパターンが求まるような?

双対グラフが三価(2-in 1-out か 1-in 2-out)ではなくてニ価(1-in 1-out)でノード以外に開放端点・分岐点・合流点を持つなら、ノードの計算機能を成分とする行列Uを作って、Unまたは(I + U)nを計算すれば、遷移する系≒オートマトンの時間発展を追えます。ハイブは、対応する計算回路が三価グラフ(trivalent graph)なので、単なる行列ってわけにはいかないでしょう、たぶん。

単位時間(1ステップ)の時間発展を記述するには、マルチ射(オペラッドの射)、いや、ポリー射(多圏の射)みたいな計算デバイスが必要なのかな、よく分からんけど。

*1:単射(埋め込み)であることは引き続き仮定しているので、特異単体まで一般化はしてません。

salmonsnaresalmonsnare 2017/02/13 13:54 当日、聴講しており、スライドの導入部から数学的な話に持っていく過程を楽しく聴いていました。ありがとうございました。

m-hiyamam-hiyama 2017/02/13 16:01 salmonsnareさん、
ご参加ありがとうございます。
(独白) 導入に使ったスライドは、話の流れ上は重要ですが、画像著作権問題あり過ぎで公開は難しいですねぇ。

salmonsnaresalmonsnare 2017/02/13 16:18 まあ、あの画像は大変難しいでしょうね。30 分の区切りに画像をカットインする手法はプレゼンの方法として勉強になりました。 (m-hiyama さんの発表は、内容はもちろんですが、プレゼンの技法に関して学ぶことが多かったです。)

ところで、個人的にはグラフを使ったことがあったので、三角形のタイル張りの dual graph を見た際に、 Voronoi diagram を思い出しました。(例えば [PDF] https://www.jaist.ac.jp/~uehara/course/2014/i481f/pdf/ppt-6.pdf)あの界隈の議論と圏論の関係でご存知のことあったりしますか。

m-hiyamam-hiyama 2017/02/13 19:08 > dual graph を見た際に、 Voronoi diagram を思い出しました。
双対図形の画像を探しているとき、ボロノイ図とドロネー三角形分割がやたらに引っかかりました。
スライドに使った図もボロノイ/ドロネーの説明から拝借したものです。
双対な図形を具体的に描くには便利な方法ですが、圏論との直接的関係は分かりません。

salmonsnaresalmonsnare 2017/02/13 19:30 ご返信ありがとうございます。

> 双対な図形を具体的に描くには便利な方法ですが、圏論との直接的関係は分かりません。
承知しました。

質問の動機としては、planar graph の duality (cutset とcircuit) は圏論でいう duality とどういう関係があるのかというところでした。継続して既存の文献を調べてみます。

(独白) 発表後のお昼休みに「10 年くらいブログ読んでます。」とだけ声かけたのが実はぼくです。

m-hiyamam-hiyama 2017/02/14 09:38 > お昼休みに「10 年くらいブログ読んでます。」とだけ声かけたのが実はぼくです。
おう、そうでしたか。ありがとうございます。

2017-02-09 (木)

事後の準備はOK、当日の準備がどうも -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋

| 13:06 | 事後の準備はOK、当日の準備がどうも -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋を含むブックマーク

タイトルに「toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋」と付けた一連の記事を書いた動機は、自分の考えを整理するため、それと、事後資料を準備するためです。「事後資料」というのは、「僕が省略してしまった事、詳細が不明な事、周辺や背後の情報」などを後から知りたくなったときに参考になるような資料という意味です。事後資料は、こんなもんでまーいいかな、と思います。

  1. PROと代数系
  2. 高次圏の次元について
  3. 従順な複体から作られる3次元の圏
  4. 関係圏
  5. ストリンググラフのレベル関数と全順序
  6. 3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手
  7. 登場する圏と関手の概要

で、当日使う資料はと言うと、あんま準備できてませんね。基本、口頭+ホワイトボードだから、そんなに資料は要らないとは思いますが …

いずれにしても、このシリーズは終了です。ただし、事後資料に対してさらに敷衍したり、関連する話題を追加することはあるでしょう。高次圏と論理の関係とか、高次圏における計算方法とかは興味ある話題ですから。

2017-02-08 (水)

登場する圏と関手の概要 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋

| 12:43 | 登場する圏と関手の概要 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋を含むブックマーク

ストリンググラフのレベル関数と全順序 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋」にて:

ストーリーを組み立てるためのピースはあと2つ; とある代数系の話と高次関手の構成法です。

「高次関手の構成法」については「3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手」で述べました。残るは「とある代数系の話」です。

この「とある代数系」とはフロベニウス代数(Frobenius algebra)です。でも、今ここでフロベニウス代数の話をするのはやめて、代わりに、使う圏(高次圏)に関して全般的な話をします。そのほうが後々の参考になるでしょう。あと、フロベニウス代数よく知らんし、調べる余裕もなかったし(ごめんなさい)。

内容:

  1. 3つの圏
  2. 関手の構成問題
  3. 関手と代数系
  4. 組み合わせ的/幾何的な議論
  5. 1進数表記とか

3つの圏

関係圏」でも触れたように関係圏Relは登場します。Relを一般のモノイド圏Cに置き換えても議論はほとんど変わりません。関係圏は具体的だし何かと便利なので採用したのですが、関係圏でなくてはならない理由はありません。有限次元ベクトル空間にテンソル積を一緒にしたモノイド圏Vectも良い例です。が、ベクトル空間のテンソル積に馴染みがない人もいるかも、と関係圏Relにした次第です。

[追記]研究会に参加した方への注記:

以下のHHiveSDaftogのことです。この時点で固有名詞を決定してなかったので、当たり障りのないアルファバット1文字を使っていました。S = Daftog の2-射は、グラフの移動(変形、書き換え)です。D:HS はハイブ(H = Hive の2-射)に双対グラフ(Daftogの1-射)を対応付ける関手です。最後の1進数の足し算は、Daftogの対象に対するモノイド積の話です。

[/追記]

主役となるのは関係圏Relではありません。組み合わせ幾何的に定義される2つの圏が中心です。仮にHSという固有名詞を付けておきます。Hは、「従順な複体から作られる3次元の圏」で説明したAKB12とよく似た圏です。|H|0, |H|h1, |H|hv2 は、AKB12のそれと同じです。t-方向の射がAKB12とは違います。

もうひとつの圏Sはモノイド積を持つ厳密2-圏です。その2-射はすべて可逆です。Sの0次元と1次元の部分だけを取り出すとPRO(「PROと代数系」参照)になっています。また、Sの各ホムセットには可逆2-射による同型で同値関係(合同)が入ります。この同値関係(の集まり)で割って商圏(quotient category)を作ったモノもまたPROです。

関手の構成問題

H, S, Relの3つの圏を使って何をするのか? HからRelへの関手を構成するのが目的です。できれば、すべての関手を構成したい、ということです。HからRelへの関手の全体をFunctor(H, Rel)と書くことにすれば、「Functor(H, Rel)について知りたい」と言っても同じです。

「関手」と言いましたが、Hは3次元の圏なので、単なる関手ではなくて、3次元の圏構造を保存する関手となります。関手のターゲット(余域)であるRelはモノイド圏ですが、適当な方法で弱3-圏とみなしての3-関手を考えます。詳しくは「3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手」を参照してください。

Hは組み合わせ幾何的に定義されるので、扱いがそれほど楽ではありません。そこで登場するのがSです。Sは、PRO+αなので明快な構造を持ちます。HSのあいだには、D:HS という関手があります。Dにより、HSは圏同値です。とはいっても、通常の圏同値ではなくて、3-圏としての圏同値(3-同値?)なので、同値性の定義でさえ難しい問題です。

形式的には難しい話でも、実際上、HSが同じ構造を持つのは(直感的には)明らかで、H上の関手の代わりにS上の関手を考えてもよいことが分かります。つまり、Functor(H, Rel) ¥stackrel{¥sim}{=} Functor(S, Rel)。Functor(S, Rel)→Functor(H, Rel) という向きの対応は、関手Dによる引き戻しにより与えられます。

関手と代数系

前節の議論から、Functor(H, Rel)の代わりにFunctor(S, Rel)を考えればいいことになります。Sはモノイド構造を持つ厳密2-圏ですが、可逆である2-射を“等式”とみなすと、等式的仕様(Σ, E)により定義されるPROとみなせます(「PROと代数系」参照)。

重要なことは、Sの構造を決める等式的仕様(Σ, E)が有限なことです。指標Σには有限個のオペレーションが含まれ、等式の集合Eも有限です。このため、(Σ, E)を完全に書き下すことが出来ます。PROからのモノイド圏への関手は、ターゲットのモノイド圏内の代数系と1:1対応するので、Functor(S, Rel)はRel内の代数系によりエンコード(パラメトライズ)されます。この事実は、「すべての関手を構成したい」に対して、ある程度の解答を与えています -- 「すべての(ある種類の)代数系を構成すればよい」。

Sが有限生成であることから、Sと“同値”であるHも有限生成であるとみなせます。これは、文字通りの有限生成ではありませんが、(高次)圏論的に有限生成と区別が付かないことです。“本質的に有限生成”とでも呼ぶべき性質です。巨大な圏であっても、それが“本質的に有限生成”であれば、その構造は簡単だと言っていいでしょう。

組み合わせ的/幾何的な議論

先に、D:HS という“同値”を与える関手がある、と言いました。この関手Dの存在は自明というわけではなくて、構成しなくてはなりません。構成した上で、それが望ましい性質を持つことを確認しなくてはなりません。

Dの構成と調査はけっこうめんどくさい作業です。HAKB12類似の3-圏)はもともと組み合わせ幾何的なものだし、PROであるSも組み合わせ的な性格を持ちます。そのため、議論は場合分けと数学的帰納法を多用する組み合わせ的なものになります。

そのような組み合わせ的議論の一部を「ストリンググラフのレベル関数と全順序」で述べています。地味/地道な話ですね。

1進数表記とか

鳥瞰的なオーバービューから、いきなり茫漠とした、あるいは瑣末な話題へと変わるのですが、HSというのは、原始的な算術概念の現代的な定式化のような気がします。

ネアンデルタール算術」において、「原初的な数概念」という言葉を使ったのですが、そのような数の表記法として1進数があるでしょう。1進数は数字(digit)が1つしかない表記法です。タリー(tally)表現と呼ぶこともあります。タリー表現については、「圏のクリーネスター構成 -- エフイチに触発されて」「Make言語で算術演算 <-- バカ!」で触れています。

1進数=タリー表現は棒を並べるだけですが、ここでは棒の代わりに点(ドット)を使ってみます。

  • 0 = ()
  • 1 = (・)
  • 2 = (・・)
  • 3 = (・・・)

1進数での足し算は併置が相応しいでしょう。2 + 3 = (・・)(・・・) = (・・・・・)。0 = () は併置に対して単位元になっています。

点の代わりに両端を持つ横棒にすると:

  • 0 = (・)
  • 1 = (・−・)
  • 2 = (・−−・)
  • 3 = (・−−−・)
  • 2 + 3 = (・−−・)(・−−−・) = (・−−−−−・)

HSという計算デバイスは、上記のような原初的・素朴な計算を発展させたもので、ネアンデルタール算術の圏化(categorification)とみなせそうです。

置換の圏から代入の圏へ」で述べたアミダ図の圏や置換の圏は、「モノを入れ替える」という原初的・素朴な操作の定式化です。アミダ図の圏から置換の圏の構成法は、可逆2-射や等式的仕様を使ってPROを作る場合と同じ発想です。

並べる、入れ替える、動かす(変形する)、比べる、重ねる(同一視する)などの操作をシリアスに再考し、最定式化するのは大事なことだなー、と思います。

2017-02-06 (月)

ブログコンサルとかなんとか

| 09:07 | ブログコンサルとかなんとかを含むブックマーク

「ブログで儲けよう」とか「ブログのコンサルします」とか謳う“プロブロガー”なる人がいるのは知ってますし、そういう方のお名前(固有名詞)も2,3人なら出せます。

僕でも知っているような有名プロブロガーではないですが、ブログコンサルらしきことを行っている現場に偶然出くわしました。昨日・日曜の夕刻、僕は待ち時間が生じて渋谷警察署近くのカフェ・ド・クリエ渋谷3丁目店の奧まった席に座りました。隣に向かい合わせで座っていた男女; 女性がコンサルを受ける側、男性がコンサルをする側でのコンサルティング中のようです。わたしゃ、聞き耳を立ててしまいましたよ。

女性はおそらく20代のブログ初心者。雑記ブログを始めたばかりで3記事投稿(ブログサービス/システムは不明)。男性は20代後半か30代。50人ほどを相手にブログコンサルの経験があり、彼に会いに九州から上京するファンもいるそうです(本人談)。

さて、彼のアドバイスの内容ですが、お白湯にゴハン粒を数粒入れて、お粥だよと出されたような薄さでした。実質的内容は:

  1. 継続しないとダメだよ。
  2. 文章の書き方は気を使ったほうがいいよ。
  3. SEOは習ったほうがいいよ。
  4. デザインは最初から凝る必要はないよ(彼女の不安に応えて)。

僕が耳にしたのは全体の一部なので、「その範囲内では」と断りを入れますが; どうしたら継続できるのか、文章に関する具体的な指摘、今すぐできるSEOは何かなどはまったく含まれません。代わりに、ナントカさんのセミナーに行ったとか、カントカさんと知り合いだとか、人名がイッパイ出てきました。僕が知っている人は一人もいませんでした(僕が無知なので、著名な方が含まれていたのかも知れません)。それと、20世紀由来のカタカナ語が頻出:「マーケティング」、「マネジメント」、「コラボレーション」、「パートナー」とかね。もちろん、「コンサル」も。

プログのコンサルでもその他のコンサルでも、別に反対はしません。反対する根拠は何もないですから。でもねー、ああいうのじゃ中身なさ過ぎ! -- お茶を飲みながらそのテの話題で楽しくオシャベリしていただけかも知れませんから、余計なお世話ではありますが。

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2017-01-27 (金)

3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋

| 17:26 | 3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋を含むブックマーク

ストリンググラフのレベル関数と全順序 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋」にて:

ストーリーを組み立てるためのピースはあと2つ; とある代数系の話と高次関手の構成法です。

「高次関手の構成法」を話題にします。一般に高次圏のあいだの高次関手の記述や構成は難しい問題ですが、色々な条件を付けて特別に単純なケースを考えることにします。

内容:

  1. 悩みのタネ:文字・記号が足りない!
  2. 3-圏の記述
  3. 断片構造
  4. 3-圏としてのモノイド圏の記述
  5. 3-圏からモノイド圏への関手:状況
  6. 3-圏からモノイド圏への関手:定義

悩みのタネ:文字・記号が足りない!

高次圏の難しさ(のひとつ)は、最初の一歩を踏み出すのに労力が矢鱈かかることでしょう。高次圏を定義する/記述する/構成することは大変です。扱うモノを定義して例を出す、という最初のところで疲れます。定義や例の構成が難しいので、それが目的となることもしばしばあります。

射(セル)の種類がたくさんあるので、文字や記号がすぐに不足します。かといって、オーバーロード(文字・記号の多義的使用)は、やり過ぎると誤解や混乱のもとになります。できるだけ整合的でスッキリした記号法にしようと思っても、従来からの伝統や常識があるので、あまり新奇な記号法は使えません。伝統・常識的な記法は、律儀に守ろうとすると不整合や不具合で破綻したりします。

もう、どうすりゃいいの!? という気分ですが、トライ・アンド・エラーで試しては改善していくしかないのでしょう。この記事で使っている記法もトライアル的なものです。

3-圏の記述

AKB12(「従順な複体から作られる3次元の圏」参照)のような3-圏を考えます。ただし、AKB12そのものでなくてもいいので、主題とする3-圏をKと書きます。Kは固有名詞ではなく、次の性質を持つ3-圏一般を指します。主たる事例は、もちろんAKB12です。

  1. h(横/水平)、v(縦/垂直)、t(横断的)の3つの方向を持つ。
  2. 射の種類は、0, h1, hv2, t1, ht2, 3で識別される6種類である。
  3. P, Q∈|K|0 に対して、PからQへのt1-射は高々ひとつしかない。

3番目の仮定から、t1-射は極端に単純なので、特別に扱います。PからSへのt1-射が存在するならば、それは1つしかないので、(P>Q)と書くことにします。

話を簡単にするために、h, v, tのすべての方向で結合演算(3種類ある)は“厳密に結合的かつ単位的”(strictly associative, strictly unital)であるとします。つまり、厳密3-圏を考えます。AKB12では、h-方向、v-方向の結合をコファイバー和(貼り合わせ)で定義しているので、演算法則は厳密ではありません。しかし、厳密(on-the-nose)だと思っても実際上の問題は起きないので、厳密性の仮定は許容できるでしょう。

6種類の射(セル)は、次のような表記で区別することにします。「グレード」は射の種類のことです(「高次圏の次元について」を参照してください)。

グレード 表記 備考
0 P, Q アルファベットの後のほうの大文字
h1 a, b アルファベットの最初のほうの小文字
hv2 A, B アルファベットの最初のほうの大文字
t1 (無名) 名前を付けずに(P>Q)と書く
ht2 f, g アルファベットの中ほどの小文字
3 α, β ギリシャ小文字

各種の「dom/cod, ;, id」は次のような記号を使うことにします。

グレード h-方向 v-方向 t-方向
h1 left/right, *, unit
hv2 left/right, *, Unittop/bottom, #, triv
t1 dom/cod, id, ;
ht2 left/right, *, unit dom/cod, id, ;
3 left/right, *, Unittop/bottom, #, triv dom/cod, id, ;

id写像(低い次元の射を恒等/単位として高い次元の射とみなす写像)だけを図示すると次のようになります。id写像の値は、二項演算'*', '#', ';'に対する恒等/単位となります。大文字で始まるUnitは次元を2あげるものです。

次のような表現が意味を持つことになります。

  • 0-射: P, Q, left[a], right[a], left[A], right[A], dom[(P>Q)], cod[(P>Q)]
  • h1-射: a, b, a*b, unit[P], top[A], bottom[A], dom[f], cod[f]
  • hv2-射: A, B, A*B, A#B, Unit[P], triv[a], dom[α], cod[α]
  • t1-射: (P>Q), (P>Q);(Q>R), id[P], left(f), right(f), left(α), right(α)
  • ht2-射: f, g, f*g, f;g, unit[(P>Q)], id[a], top[α], bottom[α]
  • 3-射: α, β, α*β, α#β, α;β, id[A], Unit[(P>Q)], triv[f]

これらの表現は、次の図を見ながら書き出しました。先のid写像の図と基本的に同じですが、二重線の部分に「dom/cod, id」構造があります。二重線に付記している記号は、そこの「dom/cod, id」構造に載る二項演算です。

この図から、3-圏のなかに1-圏構造、2-圏構造が入れ子になって織り込まれていることが分かります。

断片構造

前節の最後で言ったように、1つの3-圏の内部に1-圏(通常の圏)がいくつも織り込まれています。高次圏のなかに埋め込まれて存在する通常の圏を断片圏(fragment category)と呼ぶことにします。断片圏は、もとの高次圏より扱いやすいので、高次圏を調べる道具になります。ときには、断片圏の情報で十分なこともあります。

断片圏を表すために、射と対象となる構成素の種類(グレード)と結合の方向で示すことにします。具体例を出します。

  • K1-cat0, h1 / h = (|K|0, |K|h1, left, right, unit, *)
  • K1-cat0, t1 / t = (|K|0, |K|t1, dom, cod, id, ;)
  • K1-cathv2, 3 / t = (|K|hv2, |K|3, dom, cod, id, ;)

同様にして、断片2-圏(fragment 2-category)を取り出すこともできます。今回の例で注目すべき断片2-圏は次の2-圏です。

  • K2-cat0, h1, hv2 / h, v = (|K|0, |K|h1, |K|hv2, left, righ, unit, *, top, bottom, triv, #)

断片構造として二重圏(double category)も存在します。次が断片二重圏(fragment double category)の例です。

  • Kd-cat0, h1, t1, ht2 / h, t = (|K|0, |K|h1, |K|t1, |K|ht2, left, righ, unit, *, dom, cod, id, ;)

これらの断片構造とホム構造(ホム集合、ホム圏、ホム2-圏など)を組み合わせると、さらに多彩な構造を高次圏から抽出できそうですが、そのための計算法を整備する必要があります。

3-圏としてのモノイド圏の記述

Kを今まで述べたような3-圏として、Kからモノイド圏Cへの関手を考えたいのです。このためには、モノイド圏を3-圏とみなして、3-関手を考えることになります。しかし、モノイド圏は安定した定義と定着した記法を持つので、これらの定義・記法を変更したくありません。

そこで、折衷案として、モノイド圏概念は変更せず、モノイド圏Cに付加的構造を追加することにします。C = (C, ¥otimes, I, α, λ, ρ) をモノイド圏とします。α, λ, ρは律子ですが、省略することもあります。台圏(underlying category)としてのCは、通常通り「dom, cod, id, ;」で定義されているとします。

|C|0 = |C| = Obj(C), |C|1 = Mor(C) という記法を使います。他に、集合 |C|-1, |C|2 を定義します。

  • |C|-1 = {0}
  • |C|2 = {Id[f] | f∈Mor(C) }

|C|-1は単元集合で、その要素は何でもいいです。|C|2は、|C|1と同型な集合で、その同型写像は Id:|C|1→|C|2 で与えられます。他に、left, right, unit, dom, cod, IdId, Dom, Codを次のように定義します。

  • left:|C|0→|C|-1 left[X]= 0
  • right:|C|0→|C|-1 right[X] = 0
  • unit:|C|-1→|C|0 unit[0] = I
  • dom:|C|2→|C|0 dom[Id[f]] = dom[f]
  • cod:|C|2→|C|0 cod[Id[f]] = cod[f]
  • IdId:|C|0→|C|2 IdId[X] = Id[id[X]]
  • left:|C|2→|C|-1 left[Id[f]] = 0
  • right:|C|2→|C|-1 right[Id[f]] = 0
  • Dom:|C|2→|C|1 Dom[Id[f]] = f
  • Cod:|C|2|C|1 Cod[Id[f]] = f

これで、グレードの値の集合が{-1, 0, 1, 2}であるような3-圏とみなせます。|C|2は3次元の射の集合ですが、グレードは2です。グレード/次元は「モノの見方」で変わるので、このあたりのズレは致し方ないです。

|C|2上には3つの二項演算¥otimes, ;, ;; が存在します。2-射(|C|2の要素)をξ, ηなどで示します。

方向 演算 定義可能条件 定義
¥otimes right[ξ] = left[η] Id[f]¥otimesId[g] := Id[f¥otimesg]
; cod[ξ] = dom[η] Id[f];Id[g] := Id[f;g]
横断的 ;; Cod[ξ] = Dom[η] Id[f];;Id[f] := Id[f]

上記の表で、条件「right[ξ] = left[η]」は常に成立します。条件「Cod[ξ] = Dom[η]」は ξ = η = Id[f] を意味します。横断的方向への結合演算;;は自明な演算です。

もともとあった|C|0, |C|1に対してダミー対象の単元集合|C|-1と、恒等2-射の集合|C|2を付け加え、自明な3-圏(次元はズレている)の構造を定義しました。

以上で、モノイド圏Cを3-圏とみなすことができました。ただし、形の上で3-圏にしただけで、新しい構造・情報は何もありません。名ばかり/形ばかりの3-圏です。

3-圏からモノイド圏への関手:状況

Kを先に記述した3-圏とします。Cをモノイド圏として、必要があれば前節の方法で3-圏とみなします。KからCへの関手を構成したいのですが、そもそも関手とはなんであって、どう定義するかを決めなくてはなりません。

A, Bが通常の圏として、そのあいだの関手は2つの写像 F0:|A|0→|B|0とF1:|A|1→|B|1により定義されます。F0, F1が、dom, cod, id, ; と協調(整合)するという条件が付きます。高次圏でも同様に、射の種別(グレード)ごとに写像を設定し、それらの写像達が圏の構造と協調するという条件を付ければいいでしょう。3-圏Kとモノイド圏Cの場合に、具体的に見ていきましょう。

関手Fを構成する写像は次のとおりとします。

  1. F0:|K|0→|C|-1
  2. Fh1:|K|h1→|C|0
  3. Fhv2:|K|hv2→|C|1
  4. Ft1:|K|t1→|C|0
  5. Fht2:|K|ht2→|C|1
  6. F3:|K|3→|C|2

3-圏Kを構成する射の種類(グレード)ごとに場合分けして、6個の写像を使用します。関手の行き先であるモノイド圏Cは、あまり自由度がないので、Cへの関手は強い制限を受けます。この制限のために、6個の写像のうちの幾つかは自明になります。

  1. |C|-1 = {0} なので、F0の値は0に固定される。F0について考える必要はない。
  2. |C|2 の要素は恒等2-射なので、F3(α) は、Fhv2(dom[α]) の値だけで決まる。F3の存在は、Fhv2の性質として記述できる(後述)。
  3. F3(α)の値が恒等2-射なので、Fht2(top(α))の値は恒等1-射となる。
  4. Ft1の値はモノイド単位Iに固定される。Ft1について考える必要はない。

以上の事情から、F0とFt1について考える必要はなく、F3とFht2は、Fhv2から自動的に決まります。よって、関手として定義すべき写像は Fh1:|K|h1→|C|0 と Fhv2:|K|hv2→|C|1 の2つだけになります。

この状況を大ざっぱに図示すると次のようになります。シリンダー状のKの3-射が、Cの射のあいだの恒等(等式)に写されます。

3-圏からモノイド圏への関手:定義

前節で述べた状況を踏まえて、関手 F:KC を改めて定義しましょう。

関手Fを構成するのは2つの写像です。(Fh1をF1、Fhv2をF2と略記した。)

  • F1:|K|h1→|C|0
  • F2:|K|hv2→|C|1

F1, F2は次を満たします。

  1. a, b∈|K|h1 が横結合可能なら、F1(a*b) ¥stackrel{¥sim}{=} F1(a)¥otimesF1(b)
  2. 任意のP∈|K|0 に対して、F1(unit[P]) ¥stackrel{¥sim}{=} I
  3. A, B∈|K|hv2 が横結合可能なら、F2(A*B) ¥stackrel{¥sim}{=} F2(A)¥otimesF2(B)
  4. 任意のP∈|K|0 に対して、F2(Unit[P]) ¥stackrel{¥sim}{=} id[I]
  5. A∈|K|hv2 に対して、F(top[A]) = dom[F(A)], F(bottom[A]) = cod[F(A)]
  6. A, B∈|K|hv2 が縦結合可能なら、F2(A#B) ¥stackrel{¥sim}{=} F2(A);F2(B)
  7. 任意の a∈|K|h1 に対して、F2(triv[a]) = id[F1(a)]

さらに、Kの3-射に対してCの恒等2-射を割当て可能とするために、次の条件も課します。

  • 任意の α∈|K|3 に対して、dom[α] = A, cod[α] = B ならば、F2(A) = F2(B)

この条件に別な解釈を与えておきましょう。Kの3-射 α:::A≡>B は、2-射AとBのあいだの同値を与えるものだと解釈します。その同値関係を'〜'とすると:

  • A〜B ⇔ α:::A≡>B または β:::B≡>A という3-射が存在する

これだけだと、'〜'が推移律を満たすことが保証できないので、推移的閉包を取ります。別な言い方をすると、Kの3-射はすべて可逆であると考えた場合の同型関係が'〜'です。'〜'をチャンと構成するのはけっこう面倒ですが、これ以上は踏み込まないことにします。

同値関係'〜'を使って先の条件を書き換えると:

  • 任意の A, B∈|K|hv2 に対して、A〜B ならば、F2(A) = F2(B)

Fは、Kの2-射のあいだの同値性をCの等式に写すことになります。関手Fが満たすべき性質を同値性の観点からもう一度述べてみると:

  1. Fは、Kの1-射の横結合を、Cの対象のモノイド積に写す。
  2. Fは、Kの2-射の横結合を、Cの射のモノイド積に写す。
  3. Fは、Kの2-射の縦結合を、Cの射の結合に写す。
  4. Fは、Kの3-射による2-射間の同値関係を、Cの射の等式(等値関係)に写す。

もっと手短に言うと:

  1. Fは、Kの横結合を、Cのモノイド積に写す。
  2. Fは、Kの縦結合を、Cの結合に写す。
  3. Fは、Kの同値関係を、Cの等式に写す。