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2010-07-30

[][]鬼頭莫宏のりりん』の表現力(或いは言語化能力)には惚れ惚れする

先日、鬼頭莫宏さんの新作『のりりん』を買いました。


のりりん(1) (イブニングKC)

のりりん(1) (イブニングKC)


主役の丸子一典は何らかの理由(1巻の時点で理由は明かされていません)で自転車・ならびに自転車乗りを嫌っており、普段は車を利用しています。

そんなある日、一典はとあるアクシデントをきっかけにラーメン屋を営んでいる一家(自転車大好き)と接点を持つこととなり、またその夜にこれまた別のトラブルが原因で免許取消となってしまいます。

そんな訳で車を使えなくなった一典は、周りの雰囲気にも呑まれるようなかたちで少しずつ自転車に乗り始めるのだが・・・という展開です。


実を言うと、鬼頭莫宏さんの作品を買うのは初めてです。『なるたる』も『ぼくらの』も、名作ではあるだろうというのは予想してはいるのですが、どうにも「死ぬ」ということを表現手段として使い過ぎているなぁという偏見がありまして、手を出してこなかったという経緯があります。

しかし今作は自転車が題材。それならそう簡単には命は落とすまいという考えもあり、買ってみたという訳です。


まぁ第一話の時点で「やっぱり今回も鬱展開なのか!?」と邪推してしまう場面もあったのですが、ヒロイン(或いはヒロインその1)の織田輪が華麗に死亡フラグを回避したこともあり、現時点では安心して読むことができています。


で、読んでみて思ったのが、この作品の表現力の見事さです。*1

とりわけ素晴らしいと感じたのが、感覚的なものを言語化する能力です。


とりわけ判りやすい例がこちらでしょうか。


f:id:m-kikuchi:20100730023248j:image

(鬼頭莫宏『のりりん』1巻42ページ。)


輪と輪の母親が自転車を乗ることをあの手この手で勧めるものの、一典がそれを拒否する場面です。この場面での一典の台詞が素晴らしいので、少々引用させて戴きます。


自転車乗ってるヤツが

嫌いなんです


とにかく気持ち悪い

というか


そのナルシストっぽいところがイヤだし

日常の中で汗臭い感じがイヤだし

スポーツだか移動手段だかはっきりしないのもイヤだし

非日常を無理矢理日常の中に持ち込んでるそのガキっぽさがイヤだし

マゾだかサドだかはっきりしないところもイヤだし

なんだか盲信的で自分達こそ最高みたいなかんじもイヤだし


興味のない人間にも強引に勧めようとするのも

イヤだし


(同書42〜43ページ。)


この容赦のない批判、惚れ惚れしますね。(´ω`)

いや別に僕は自転車嫌いではないですよ。ただ仮に自転車が嫌いな人がいたとすれば、この台詞を読んで「よくぞ言ってくれた!」と溜飲を下げるのではないかという気はします。直感的に抱くレベルの不快感(繰り返しになりますが、もし嫌いな人がいたならば、という話ですよ)を、これ以上ないというかたちで言語に置き換えた内容、といいますか。


こういう視点の設置というのは案外珍しいかもしれない、と思います。

スポーツ(或いはそれに近いもの)を題材にした作品というのは、やはり作者さんがその題材に対して深い思い入れがある場合が往々にしてあると思います。そうなると、批判的な視点が(作者さんがそれを持ち合わせていない故に)導入しづらい。自転車で言えば、最近だと『弱虫ペダル』が非常に熱い展開を見せていますが、やはりこの作品にも「自転車乗りそのものが嫌い」という視点はありません。*2


だからと言って鬼頭莫宏さんが悪意を持ってこの作品を描いているのかというと、まったく逆だと思う訳でして。

第7〜8話で、免許取消の原因にもなった女性(ヒロインその2?)の杏真理子と一緒に、ラーメン屋までサイクリング(?)をすることになるのですが、その際の一典のモノローグ(とりわけ216〜220ページあたり)は相当に自転車が好きで、且つ実際に乗り込んでないと書くことができない内容だと思いました。

実際、カバー折り返しに自前のレーサーパンツを掲載しているくらいですからね。


この、自転車好きの視点と自転車嫌いの視点のバランスが、この作品を一味違ったものにしている気がしました。

また、一典は本心から嫌っている訳ではなく、何らかの理由で無理にでも自転車を嫌おうとしている節がある。上の引用箇所は、嫌いであり続けるために理論武装した結果のような印象ですね。単なるインパクト重視ではなく、ストーリーに密接に組み込んであるのがいいですね。


今後の展開が気になる作品です。





さてここから少々余談。憶測・妄想混じりでもあります。

鬼頭莫宏さんは今時ではない、昔気質(という言い方は好みではないのですが)のオタクなのだろうなぁと。上記の理論武装に、その匂いみたいなものを感じたりする訳です。鬼頭莫宏さんは1966年生まれとのことなので、「オタク」が相当に白眼視されていた時期を体験している筈なのですね。

この時期のオタクの方々*3は少なからず客観的に(痛い点を含めて)自分の嗜好を語ることができる傾向がある、という印象があります。『のりりん』における視点に近いものを感じたりもする訳です。


例えば42〜43ページの引用箇所、「自転車乗ってるヤツ」を「オタク」に、「スポーツだか移動手段だか」を「趣味だか生き甲斐だか」とかに換えてみると・・・


・・・何だか心が痛くなってきたので、今回の更新はこのあたりに留めておきます。

(´ω`;)

*1:他の作品でもそうなのかもしれませんが、あまり熱心に読んでこなかったので比較ができないのです。その点ご容赦を。

*2:これは良い悪いという問題ではなく、作者さんが何をどのように描きたいか・描こうとしているかということだと思います、念のため。

*3:いわゆる世代論で言うと第一〜第二世代。

paopao 2010/07/31 10:36 はじめまして。興味深く読ませていただきました。
今まで鬼頭作品に手を出しずらかった人も「のりりん」ならキャッチーで読みやすいと思うので、新規開拓に一役買ってくれてるのかな?と感じました。

もし気に入られたのであれば短編集の「残暑」なんかいかでしょうか?
死人はちょっとしか出ないので読みやすいと思いますよ(笑)

m-kikuchim-kikuchi 2010/08/01 01:10 >paoさん

初めまして。そしてコメントありがとうございます!
自分もやはり『のりりん』は読みやすそうだ、という思いがあって買ったので、新規開拓或いは入門編としては絶好の作品かなと思いました。

短編集も、ちょっとしか死人が出ないならいけるかもしれませんね。
そして少しずつ免疫を付けて最終的に『なるたる』へ・・・頑張ります!(´ω`;)

zingibercolorzingibercolor 2010/08/01 20:42 死人が出ないものなら『終わりと始まりのマイルス』もいいですよ。
『殼都市の夢』も素敵なんですが、よく見たら全七話中二話で人が死んでいて、一話はゾンビが主人公でした……。
まあ気が向いたら是非読んで見てくださいませ。

zingibercolorzingibercolor 2010/08/01 20:46 あああすみません!三重にコメントしてしまいました!
申し訳ありませんが削除してください、本当にすみませんでした。

m-kikuchim-kikuchi 2010/08/02 00:15 >zingibercolorさん

最初いきなりコメント数が増えていて、はて誰かの逆鱗に触れるようなことを書いたかな?とか思ってしまいました。(´ω`)
それはそれとして、コメントありがとうございます!

『終わりと始まりのマイルス』も気になっていた作品ですが、例によってそれ以前の印象があって内容を図りかねていたといったところです。
時間と金銭的余裕を見て買ってみたいところです。あとゾンビは大丈夫です!( ゜∀゜)

チェレスてチェレスて 2010/08/02 21:29 初めまして、私はオタクでロードバイク(自転車)乗りなのですが、上記にある「自転車乗ってるヤツが嫌い」な理由があまりに的を得過ぎていて、マンガ読んでてニヤニヤしてしまった口です。


確かにヒルクライム(山登り)など究極のマゾですし、山頂に着くと自分たちこそ最高と言う瞬間が多々感じられる時あります。

最近は自転車ブームで、公道を「量販店で買った」チャチなクロスバイクで「ヘルメット無し(自殺行為)」で走り「自分たちこそ最高」と勘違いしたデブなニワカ(自転車乗りにデブはいない)が増え、間違ってもデブでないにせよ、自分たちも勘違いされると嫌だなぁとナルシストっぽく語ってみた。

※ヘルメットの重要性を書いた鬼頭さんは偉い(ちゃんとしたロード乗りは被るもんです)

m-kikuchim-kikuchi 2010/08/11 20:45 >チェレスてさん

返信遅くなり申し訳ないです。
やはりロードバイク乗りの方にとっても、あのくだりは的を射たものだと感じる内容なのですね。(´ω`)

まぁあまり熱く語り過ぎると「自転車脳」とか書かれる恐れがあるようなので、お互い注意しつつ趣味に邁進していきましょう。( ゜∀゜)

しっぽなしっぽな 2012/08/29 01:15 通りすがりでお邪魔します。

あのくだりを読んで、ピンと来ない人はチャリ海苔ではないですよね(笑)
私も自転車(ロード・クロス)と自動二輪、自動車すべて乗りますが・・・
あの自転車のマゾ的な自己陶酔はペダルを回さないと解からない。
自分でも気持ち悪いです。(家族にも言われる)

とりわけ私はマナー啓蒙に関して、屈託のない鬼頭莫宏さんの表現がとても好きです。もっと広い層に読んでほしいと思います。
残暑続きますが、身体を壊さないよう乗りましょう(笑)

bathyscaphe2bathyscaphe2 2012/09/10 13:06 「のりりん」をひとに薦める際にこちらのページをシェアさせていただいてます。
はじめまして。

鬼頭さんの作品で他のものですと、「終りと始まりのマイルス」をお勧めします。
不定期連載中なのでコミックスはまだ1冊しか出てませんが、特異な世界観にリリックかつダイナミックな物語が乗っている、なかなか他にはない逸品です。
ぜひ。

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