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2013-06-21

[]文字には力がある。津田雅美『ヒノコ』の世界と文字表現

ネット上だとあまり名前を見掛けない印象もあるのですが、津田雅美さんの『ヒノコ』ってどのくらいの方が読まれているのでしょうか?


ヒノコ 第1巻 (花とゆめCOMICS)

ヒノコ 第1巻 (花とゆめCOMICS)

ヒノコ 2 (花とゆめCOMICS)

ヒノコ 2 (花とゆめCOMICS)


津田雅美さんの最も有名な作品となりますと、やはりアニメ化もされた名作『彼氏彼女の事情』になるかと思いますが、それ以降も、互いの認識のズレが2つの視点からコミカルに描かれる『eensy-weensy モンスター』、江戸時代が現代(西暦2000年以降)まで続いているという設定の『ちょっと江戸まで』と、秀作を続けて描かれています。

そして現在「LaLa」で連載中の作品が、上に挙げた『ヒノコ』です。


この作品、ストーリー的にも表現的にも実に面白い作品なので、今回ちょっと取り上げてみようかと。以下、ネタバレ描写も若干含みますので読み進める際にはご注意を。





『ヒノコ』は、古代日本をモティーフにした世界(弥生時代〜平安時代を混ぜたような世界観)が舞台の、オリエンタルファンタジーです。この地には、不思議な能力を持つ「巫女」が存在しており、異形の存在も実際にいる。

ある日、「宝物」を都へ運ぼうとしていた悪徳商人が、盗人に襲われます。

宝物の噂を聞きつけて襲った盗人の首謀者は、近くの町に暮らす浮浪児の少年・シン。首尾よく「宝物」を手に入れたシンが、その中身を確認すると、


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(津田雅美『ヒノコ』1巻16ページ。)


中に入っていたのは、身動きの取れない状態にされ、激しく暴行を加えられた女性。

シンはその女性・マユラを介抱してやります。そしてマユラを奪われた商人は、都の役人を引き連れて町へと戻ってくる。

町を訪れた役人は、盗賊行為が町ぐるみで行われていたと判断し、全員を捕縛しようとします。その様子を見たマユラは、紙と筆を手にして役人・商人の前に姿を現す。


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(同書1巻40〜41ページ。)


「巫女」としての力を示したマユラ。

彼女は「書いた文字の意味を具現化させる能力」を持っています。上のコマは、見開きの関係上見えづらいかもしれませんが、「縛」の文字を書いて役人と商人を縛り付けている場面ですね。


役人の手を逃れ、更には枯れ果てていた土地を元の姿に戻したマユラと、彼女に付いて行くことに決めたシンは、当てのない旅路へと就きます。そしてマユラの能力を危険視した役人・クランドはマユラたちを追い始める・・・。



と、ここまでが第1話。

ここからは、言わばロードムービー的な物語展開となります。マユラを追うクランド、追っ手から逃れようと旅を続けるシンとマユラ、訪れた村での村人たちの交流や危機。

この国では、巫女を手にした町・村は栄えるという伝承がまことしやかに伝わっています。実際、巫女の不思議な力(巫女によって能力は色々)を巧く使って栄えることができる。その一方で、国は「巫女狩り」を進めており、巫女としての能力を持つ者は王朝へと集められます(力=権力の集中みたいなものですかな)。巫女を手許に置いておきたい人物・或いは村や町は、巫女を巧妙に隠し持つ。栄えるために巫女を攫うことも行われる。

マユラとシンも、数々の思惑に巻き込まれながら、能力を用いて危機を切り抜けたり、時には人助けをしながら、旅路を重ねていきます。更には王朝建国時の伝説や予言も絡み合い、物語の規模は徐々に大きくなってきているところです。


そしてこの作品の白眉とも言えるのが、マユラの「力」の表現ではないかと。

文字の意味を具現化する、と書きましたが、『ヒノコ』において用いられる文字は多岐にわたります。古代の文字も使われる。

使われている(或いは、これから使われるであろう)字体を幾つか挙げますと、甲骨文字・金文・篆文・隷書・草書・行書・楷書等々。これらの中でも、とりわけ甲骨文字〜篆文にかけては、初期の象形文字ということもありましょうか、キャラクター性を備えています。それを実に巧く、作品の表現に取り込んでいると思う訳です。


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(同書1巻142ページ。)


もっとも判り易いと思われるのがこちらでしょうか。

楷書か行書で書かれた「見」の文字が動き出し、隷書(もしかすると篆文かも)に変化した段階で紙から立ち上がり、更には金文に変化して「目」と「人」になってキャラクター化し、感情すら持つようになっています。目玉だけなのに何とも可愛らしいですな。

そしてこういった表現、実にマンガ(やアニメーション)ならではの面白さがあると思う訳です。嘗て手塚治虫が「マンガとはメタモルフォーゼです」的な内容の発言をしたことがあったかと思うのですが、それを地で行く表現かな、という気も。


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(同書2巻98ページ。)


他にも、こちらは『ヒノコ』の舞台となる国の図ですが、大王の支配下にある国「白𥄢(ハクソウ)」「緑法淵螢腑カ)」「赤承(セキショウ)」の3つの国の名前・文字にも明確な意図が込められています。あまりネタバレが過ぎるのも問題なので、ご興味のある方は是非単行本を。



物語の展開的にも「文字」が不可分に組み込まれており、尚且つ表現としても面白い。より多くの方に読まれて欲しい作品だと思います。

といったところで、ひとまずはこのくらいで。

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