お盆

 まぁ、世の中というのは不条理かつ不平等ですよね。結婚したは良いけど中々子宝に恵まれなくて、念願叶ってやっと生まれた子供が30歳を迎えた時に、その子が自分の子じゃなくて自分と結婚する前から関係を持っていた不倫相手の子で、それが判明したのが奥さんにDVをでっち上げられて骨の髄まで慰謝料を搾り取られて離婚した後だった男も居るんですから。その男は離婚後すぐ末期癌が判明し、絶望を抱えたままこの世を去ってしまいました。そんな男でもお盆には我が家に帰ってくるのでしょうか。僕の家系の男はどうやら呪われているようです。僕は血縁じゃないですけど(育ての親の位牌を握りしめながら)

(5)元彼の話

 彼と出会ったのは本当に偶然だったんです。僕は仕事柄、色々な場所に行くのですが、その帰り道に偶然別れたN子を見掛けたのです。あっちは僕に気付いてないようでしたが、実家に戻ると言ってやっぱりまだこっちに居るじゃねぇかと思い、そのままその日は終わったのですが、後日同じ場所で仕事があって、またN子と会ったりしてなんて自嘲気味に思ってたら本当に会ってしまい、今度はあのキスしてた男と一緒に手を繋いで歩いていたので思わず鼻で笑ってしまいました。実際に見る彼は僕なんかよりも全然カッコ良くて背が高くて、そりゃ僕なんか捨てて彼と付き合うだろうなあの女なら、と思いながら見てたらすぐ近くのマンションに入って行くのが見えました。比較的新しいマンションで立地も良く、賃貸にしろ分譲にしろ経済的にも僕は彼より劣っているのは明白で、ましてや僕の至らない愚息が原因で別れたのですから、彼に勝てる要素は僕には一つも無いのがこれで証明されてしまったのです。季節は師走、冷えた身体が一層冷たくなるのを感じながら僕は一つのイタズラを思い付きました。


マンションはオートロックでしたが新聞屋に勤めてた時に教わった技で、文房具屋で買ってきた下敷きを自動ドアの隙間に差し込んでセンサーに反応させると開けられるのを覚えてたのでそれを実行して中に入り、上から順に表札を見ていったら、しっかりと彼とN子の名字が並んでる部屋を見つけました。このまま直接彼らに接触しても僕が不利にしかならないので、見つからないようにマンションを後にし、下敷きと一緒に買った年賀状にマンションの住所と部屋番号を書き記して、別れるきっかけとなったN子の友達のM美さんから送られてきたLineに記されていた今までの簡単な経緯という名の彼女の人生の汚点を年賀状の裏に書き殴り、それをポストに投函しました。こんな事した所で、僕の書いたことを裏付ける証拠は何一つ無いので、N子の演技力を持ってすれば簡単にはぐらかせるのは目に見えてますが、今日は僕の誕生日、そんな日にこんなクソッたれな再会を演出してくれた神様に心からファッキューしつつ、こんな些細な復讐くらい大目に見ろよなと思いながら家路に着きました。


それから年が明けて数週間後、N子とテレビの中でまた再会しました。ワイドショーはN子とその彼氏のK君の話題で持ちきりでした。N子もやっと本当に実家に戻ったようです、無言の帰宅ですが、はは。

(4)男の話

 あの女と知り合ったのは1年半前、新しく会社に入って来た派遣社員が居るのは聞いてて、部署が違うし接する機会も無かったから全然気にもしてなかったんだけど、その年の忘年会でたまたまトイレ行った時に鉢合わせて話したのがきっかけで盛り上がって、一次会終わる頃にはすっかり打ち解けて、二次会行かずに二人で抜け出してそのまま流れでホテル行って、恥ずかしい話その時の激しさに骨抜きにされちゃって俺から告白したら、一緒に暮らしてる彼氏が居るって言われて呆然としたけど、逆になんか燃えちゃって絶対に彼氏からこの女奪ってやるって思って、猛烈にアピールしたら彼氏と別れてそのまま俺の家に転がり込んできて、それから俺とN子の生活が始まったんだわ。


最初は本当に幸せだったんだよ、料理も上手いし綺麗好きで部屋の掃除も行き届いてるし相変わらずアッチも凄いし、一緒に暮らし始めた年の夏休みにはN子の両親にも挨拶して、あとはうちの両親に挨拶して結婚かなって思ってた年の年末に、N子が女友達と忘年会してくるって言って、そのまま朝まで帰って来なかったんだよ。Line送っても返信も無ければ既読すらなってなくて、あんだけ毎日ラブラブに過ごしてきたからまさか浮気なんてするわけないよな、なんて思う反面俺と最初出会ったきっかけも浮気だったしもしや、って思ったりして朝まで眠れなかったんだけど、結局帰って来たのは昼過ぎで理由聞いたら、外で飲んだ後に友達の家で飲んでたら泥酔しちゃってそのまま寝ちゃってた、携帯は電池が切れちゃってた、本当にごめんって謝って来たから、俺は前の彼女に浮気されたから、もうあんな思い二度としたくないし、今回は許すけど次やったら殺すよって言ってその場は収まったんだ。私も疑われるようなことしたから、電話番号もLineも全部変えるねって言って新しい携帯に買い替えてくれたしね。


でもそれから数日後の年が明けて元旦にさ、N子は実家に帰ってるから俺一人で家でゴロゴロ過ごして、夕方ぐらいにコンビニ行った帰りのついでにポスト見たら年賀状が届いてたから、N子宛と俺宛てとで分けてたら、N子宛の年賀状にやけにビッシリ文章書き連ねてるやつがあったから、何だこれって思って興味本位で見てみたらさ、本当に信じられなかったよ。何の嫌がらせだよこれ、こんな嘘書きやがって、誰が送って来たんだよと思って裏表見ても差出人の名前書いてないし、でも嘘にしてもわざわざこんな手の込んだ嫌がらせされるなんて、あの女なにしたんだよとか、もう頭の中ぐっちゃぐちゃになったね。今すぐ電話して問い詰めてやろうかと思ったけど、とりあえず俺も冷静になりたかったし、N子が実家から帰ってきてからにしようって思って、あの女が帰ってくるまで地獄のような日々を過ごして、ようやくN子が帰ってきたその日の夜に俺は何回も深呼吸した後に恐る恐る聞いたんだ。


「なぁ、N子宛にこんな年賀状届いてたんだけど、ここに書いてある事、本当の事か?」


N子は怪訝な顔して俺の手から年賀状を取って文を読んでたんだけど、どんどん顔が青ざめていった、ように俺には見えた。そりゃそうだろうな


「N子は過去にギャンブルが原因で数百万の借金をして、それを返済する為に風俗に身を落とし、そこで知り合った客と付き合って妊娠して堕胎した事を隠しながら、今も浮気を繰り返して同棲相手を騙して暮らしてるんですね。貴女の年明けが今年で最後になる事を痛切に望みます、明けましておめでとうございます」


こんな事書いてあんだもん。N子も裏表何回もひっくり返しながら差出人の名前探してたけど、書いてないんだよな。最初は、え、何これ、は?意味わかんない、とかブツブツ言ってたけど明らかに声が震えてるし動揺してんのが丸わかりなんだよ。取り繕うのに必死だなぁ、なんて思いながらも、もう一回N子にこれが事実なのか聞いたら、こんな怪文書みたいな話を信じるのか、私の事を信じてくれないなんて酷い、そんな人だとは思わなかった別れる、ってまぁ怒る怒る。でもさ、俺、N子が帰ってくる前に、N子去年、携帯買い替えてたじゃん、N子が前に使ってた携帯、悪いとは思いつつも、N子の携帯の暗証番号こっそり見て知ってたし、探して充電してさ、見てさ、Lineの履歴とか残っててさ、ハメ撮りもあったしさ、だから、俺、去年の年末に言ったじゃん、昔浮気されて、あんな、思い、したくないって、殺すって、言ったじゃん、だからさ、予め、ポケットに潜ませてたナイフでさ、あいつが、俺と付き合ってから寝た浮気野郎の、人数分だけ刺したらさ、死んじまったんだ。スゲー穴だらけだったよ、41人だもん、逆にスゲーわ、全然気付かなかった、今まで、本当に、スゲーわ。



刑事さんも、そー思いません?死んで当然ですよね、あんな糞女。

(3)友達の話

 彼女と知り合ったのは10年くらい前にやってた居酒屋のバイトで、彼女はそこの先輩でした。とても明るくサバサバした性格で私はこの先輩がすぐに好きになったのですが、ただ一つ嫌な所は先輩は男遊びが激しく、毎週毎週違う男に連絡しては夜を共にする生活をしており、学生から中年、独身から既婚者までそれはそれは幅広い、性の交友関係を築いており、それを私に何時も自慢げに話してました。


 そんな男遊びが激しい先輩も過去にちゃんとお付き合いをした人も居て、過去に何人か紹介をして貰って三人で飲んだ事があるのですが、Sさんもその内の一人でした。


Sさんは先輩の5歳上で離婚歴もあるらしく、その話を聞いた時は正直な話、先輩にお似合いだななんてほくそ笑んでたものですが、一緒に飲んで話す内にその考えは間違いだった事に気付きました。


Sさんの話はとても面白く頭の回転が早い聡明な人物だって事、先輩が席を空けた時に私にこっそりと先輩が大好きで守って行きたいから、もし自分に非がある様な事を先輩の口から聞いたら遠慮なく自分を叱って欲しいと言ってきた事、随所に見られる優しさと気遣い、何故こんな人が離婚したのだろうかと思ってたら前の奥さんに浮気されたからと聞いて大いに納得すると同時に先輩に対してどす黒い感情が湧き上がりました。


なぜならこの時先輩は私の知る限りでも、既に10人近くの男と浮気をしていたからです。


最初は言おうかどうか悩みました。先輩は男遊びさえなければ本当に良い先輩だったし、何より仕事でも私生活でもお世話になってるから、Sさんには申し訳ないけど先輩が幸せなら私の中でこの事は収めておこう、そう思っていたのですが、ある日Lineに来た先輩のこのメッセージを見て、覚悟を決めました。


「M美ー、イイ男見つけたからこっちに乗り換える事にしたw Sはアソコ小さいしやっぱ男は器もアソコも大きくなきゃねwwww」


この文と共に送られてきた知らない男とキスしてる先輩の写メを見て、私はSさんに全てを話そうと思い、SさんのLineに今までの簡単な経緯と、さっき送られてきた文と写メを転送しました。すぐに既読が付いたのですがそれからしばらく返信はなく、数日後に一言


「ありがとう、女を信じた俺がバカだった」


それ以来、Sさんとは連絡を取ってません。数週間後にSさんがLineを退会してるのを見て大体察しました。そして先輩ともSさんに全てを打ち明けた日にLineをブロックして連絡を絶ちました。


今まで先輩がどんなに男遊びしようが、二股三股しようが先輩は先輩、私は私と一線を引いてたのに何故Sさんにだけ全てを打ち明けようと思ったのかわかりません。Sさんの事を好きになりかけてたのかもしれないですし、いい加減先輩に愛想が尽きたのかもしれませんし、その両方かもしれませんが、今となってはもう終わった事だからどうでもいいです。ただ一つ言えるのは、Sさんと先輩の事をきっかけに私も既婚者との不倫関係を清算したのは間違いないです。

(2)彼の話

知り合ったきっかけは、元嫁の浮気で離婚して自暴自棄になってキャバクラ遊びに狂ってた時に、たまたま寄った知り合いがマスターを務めてる立ち飲みバーに居たお客のうちの一人が彼女でした。サバサバした豪快な性格で明るく話も面白く、大いに盛り上がってそのまま流れでその日の内に抱けたから、簡単な女だな、やっぱり女なんてこんなものか、何回か抱いて自然消滅だろうななんて思ってたら、僕の顔が彼女の好みだったらしく、僕も彼女の夜の手練手管に魅了されてたのもあって、自然と二人で一緒にいる事が多くなり、彼女のアパートの更新月の時に一緒に暮らそうかという話になって、同棲する事になりました。


僕の仕事は所謂ガテン系と呼ばれる業種で朝が早く、現場によって色々な場所に行くし、夜も帰りが遅いのでご飯は全て外食で済ませてたのですが、彼女と暮らし始めて最初に驚いたのが、豪快な性格とは裏腹に炊事洗濯掃除とマメであり、そんな食生活の僕を慮って朝昼とお弁当を持たせてくれ、しかもその料理の悉くが美味しいという素晴らしさで、僕は益々彼女に惹かれたのですが、ただ一つ辛かったのは現場仕事は体力勝負なので早めに就寝したかったのに、毎日彼女が夜になると僕を求めてくる事です。それも2度3度と求めてくるので、最初の内は喜んでた僕も次第に身体が持たなくなり、同棲を始めてから半年後くらいに傷付けないように遠まわしに回数を減らすように提案したら、少し残念そうな顔をしながらそれでも笑顔で受け入れてくれたので安心しました。


が、今にして思えばそれが始まりだったのかもしれません。


同棲当初から生理前はイライラする時があった彼女ですが、それ以来あからさまに八つ当たりするようになってきて、何度お願いしてもPMSだから仕方がない、理解してくれないなんて器が小さいと一蹴され、その内に生理前で無くても僕との会話を拒むようになり、同棲が始まって1年も経つ頃には、家事は疎かになり会話もほぼ無くなった冷え切った関係になってしまいました。


何度も改善しようと話し合いを求めても一言も話さず黙ったままの彼女を見て、段々と僕も諦めてしまい現実逃避にスマホゲームに没頭するようになってしまいました。彼女は彼女で週末は殆ど友達と飲みに出掛けて朝帰りするようになってました。そんな日が続いたある日、以前彼女と彼女の友達と3人で飲んだ時があって、その時にその彼女の友達と社交辞令でLineを交換してずっと連絡無かったのに、初めてその子からLineが入ってたので見てみたら、彼女が知らない男とキスをしてる写メが添付されてました。その後に彼女は今まで色んな男と浮気をしてた事、それを知ってたけど黙ってた事、彼女が僕のアソコは小さくて満足できなかったと言ってた事、その他にも色々と彼女について書き記されており最後に今まで黙ってて申し訳なかったと謝罪が記されてました。


またか、また騙されたのか、最早怒りも無く悲しみも無く、僕の胸に去来したのはただただ圧倒的な虚無感だけでした。それから数日間は何をしていたのかも覚えてません。彼女に問い詰める気力もなかったように思います。数日経った週末、その子のLineにお礼を記して、何時ものように朝帰りしてきた彼女に別れを告げました。彼女はあっさりと了承し自分の荷物を纏めてあっという間に出て行きました。実家に戻ると言っていましたが、間違いなくあのキスをしていた男の所に行ったのでしょう。母親にも彼女を紹介しており、やっと貴方も幸せになれるねと目を赤くしながら喜んでくれた母親に僕はどうやって打ち明けたら良いのか。


彼女とは別れたよ、もう幸せを求めるのは諦めたよ、と。

(1)彼女の話

 彼と知り合ったのは2年前の夏、友達と花火大会に行った帰りに寄った行きつけの立ち飲みバーで飲んでる時に、マスターに久しぶりと声を掛けながら入って来たのが彼でした。最初は顔は凄く好みだったけど、少し軽薄な感じがしたので早々に切り上げて帰ろうとしたのですが、頭の回転が早いのか会話のリズムが非常に心地良く、ついつい引き込まれてしまい、酔いも手伝ってその日の内に彼と一夜を共にしてしまい後悔しましたが、お互いが住んでる家が近い事もあり、自然と遊ぶ機会も増え、それと同時に彼の優しさや実直さに惹かれ始め、何時しか一緒に居る事が当たり前のようになった頃、私のアパートの更新月になったのをきっかけに彼が一緒に暮さないかと言ってくれたので、思いきって同棲をする事にしたのです。


私は愛されてる実感がないと不安になってしまうくせに、素直にその気持ちを話す事が出来ない面倒な性格なのですが、彼は外国の恋愛映画に出てくるような人で、毎日のように私に愛してると囁き、毎日のように私を求めてくれ、休日になると色んな所に出掛け、色々な思い出を作り、お互いの両親にも会わせ、今までの人生で一番充実した時間を過ごせたように思えました。


しかし、その幸せも長くは続きませんでした。


同棲を始めた頃は共働きなので家事は分担しようと決めてたのに、1年も経つ頃には仕事が忙しくて疲れてるからと家事を私に押し付け、その癖自分はソファーに寝転がりながらコソコソと携帯で何かをやるようになりました。今思い返してみると、恐らくこの時既に他に女が居て、連絡を取り合ってたのかもしれません。疲れているからと会話も程ほどに愛を囁く事も無く早々に寝てしまうし、勿論夜の営みも全くありません。愛されていないのかな、毎日が不安の連続でした。


そんな時、会社の忘年会があり、今まで会話した事の無い違う部署のK君と話す機会があり、お酒の力もあって初めて話したのにも拘らずついつい彼の愚痴を零してしまったら、K君も私と同じで愛されてる実感がないと不安になってしまう性格のようで、彼の愚痴で意気投合し一次会終わる間際に連絡先を交換して彼との事について何時でも相談してねと言ってくれたのが嬉しくて、それと同時に今まで抑えてきた不安が爆発してしまい、思わず涙が出てしまいました。すぐに涙を拭いたのですがK君には気付かれてしまい、気にしないでと取り繕って次に二次会に行く準備をしていたら、周りに見えない位置でそっと手を握られて


「俺達は似た者同士だから、多分君の一番の理解者になれるよ」


と言われ、全身を貫かれるような衝撃に襲われました。何故なら私も同じ様に思ってたからです。私達はそのまま二次会に行かずそっと抜けて、その日に愛し合いました。今までの私がしてきた行為は何だったのだろうと思うほどK君との営みは快感で、心も隅々まで満たされました。正直、彼との行為は物足りなく何時も何回も求めてしまってましたが、K君とは一度だけで全身の力が抜けてしまい立てなくなるほどでした。K君もそれは同じだったようで、そのまま二人して朝まで寝てしまいました。


ただ私はまだ彼と同棲中で、これはれっきとした浮気であり、私のした事は最低なことなのは理解してます。それでも私を一番理解してくれるのは彼じゃなくK君だ、そう思うようになってからはもう気持ちが止まりませんでした。幸い彼も他の女とのやり取りで忙しいのか携帯に夢中で、私の事なんて気にもしてなかったので、毎週会っては愛し合う日々を過ごしてたのですが、K君も彼と別れて一緒に暮らそうと言ってくれたので、このままではいけないと思い覚悟を決めて彼に別れを告げようと家に帰ったら、彼の方から別れを切り出してきました。きっと、彼も私と同じ様に新しい子と幸せになる道を選んだんだろうなと、同じ日に同じ決意をするなんてやっぱり恋人だったんだなと、何とも言えない複雑な気持ちになりました。今までありがとう、貴方と過ごした2年はとても大切な日々でした。お互いに幸せになって、いつかまた最初に出会った時のように笑い合えたらなと思います。



その日まで、さようならS君。

ガールズバーにて

 「僕、手フェチでね。手が綺麗な人が好みでさ。昔は良くこういう夜のお店で遊んでたんだけど、ある時に僕の人生で出会った中で一番手が綺麗な子と付き合う事になって、彼女が出来てから一切夜遊びを止めて彼女一筋で過ごしてたんだ。でも彼女は僕一筋じゃなくて他の男と浮気しててさ、当時同棲してた家に早めに仕事終わって帰ったら、漫画みたいに彼女と浮気相手がヤってる最中に遭遇して、彼女の綺麗な手が浮気相手のアレを握りながら咥えてる所でさ、丁度その時仕事で使ってたシャベルを持って帰宅してたから、そのシャベルで彼女の頭ごと浮気相手のアレを叩き潰したまでは良かったんだけど、このままだと殺人罪で捕まるでしょ?だからアレを潰されて口から泡吹いて死にかけてる浮気相手と頭潰されて息絶えた彼女を彼女の車まで運んで乗せて、その日僕が仕事で行ってた建築現場まで運んで、車ごと基礎工事で掘削した所に落として、会社の生コンを流して埋めたんだ。こんな事してもどうせすぐバレるだろうなって思ったけど、杜撰な管理で有名なゼネコンだったからなのか、何事も無く工事は進んでいっててね、今でも信じられないなとは思うけど、これが今の建築業界なんだなってほっとしたような、がっかりしたような複雑な気分になったのは覚えてるよ。で、埋めた後に家に帰って飛び散った血とかを掃除しようと思ったら、ベッドの隅に彼女の右手首が落ちててさ、あの時は夢中だったけどそういえば死体を捨てる時に彼女の右手無かったな、なんて思い出して、あー、これの処理どうしようかなって思いながら彼女の右手を見てたら、生気を失っても彼女の手の美しさは変わらなくて、それからは文字通り彼女は僕の右手の恋人として、僕の性の滾りを慰めてくれてたんだけど、どんなに防腐処理を施しても結局は2週間くらいが限度で、腐り始めて使い物にならなくなったから、細かく砕いて捨てたんだ。その時の悲しみと言ったら彼女の浮気現場を目撃した時より何倍も辛くて、暫くは家に閉じこもってたんだけど、何時までも落ち込んでる訳にもいかないから、気分転換に久しぶりに飲みに行こうかなって思って、今日この店に来たんだけど、君の手、とても綺麗だよね」