放射線の専門家が吠えた!「福島県民を混乱させる報道に腹が立つ」

産経新聞8月15日(月)から転載

いまだに半径20キロ圏内の一般人立ち入り禁止が続く東京電力福島第1原発の事故。菅直人首相が4月に「10〜20年、原発周辺には住めない」と発言したとされ批判を浴びたが、週刊誌などでは同様の主張が展開され続けている。この状況に、世界の核被災地を現地調査した放射線防護の専門家が「一部メディアによる福島県の人たちを混乱させ、心配させる報道には腹が立つ。ただ火のないところに煙は立たない。火をたいているのは日本政府だ」と声を上げた。

 都内で7月末に開かれた「福島支援シンポジウム」。東日本大震災後、何度も福島入りして調査にあたり、報告書「福島 嘘と真実」(医療科学社)も発行している札幌医科大の高田純教授が「東日本放射線衛生調査の報告」と題して基調講演に立った。

 「福島県民に放射線による健康被害はない、福島は必ず復興できる、というのが最初に報告したい調査結果です」と、まず結論を提示。続けて、政府の被災地に対する調査のずさんさに触れ、同県飯舘村民を半強制的に避難させた根拠は非常に怪しいと指摘し、「私はあの避難は“無計画的避難だ”と菅政権を非難しております」とボルテージを上げた。

 ビキニ水爆実験や旧ソ連の核実験、チェルノブイリ原発事故などによる数々の核被災地を現地調査してきた高田教授は、4月上旬に検査機器一式を抱えて札幌から福島に向かった。致死線量まで計測可能な個人線量計を持っての、覚悟を決めての調査だったが、原発周辺まで近づいても放射線量は予想外に低かった。「原発の門の前まで行ったが、累積被曝線量はたったの0・1ミリシーベルトと意外な結果だった。防護服を着る必要すらなかった」と報告する。

 日本では年間数千人が交通事故で亡くなっている。「だけど日本で、自動車産業を訴えたり、車に乗るのを止めようという人はいない。『脱原発』を訴えている人たちも車には乗っているはずだ」。チェルノブイリでは数十人が死亡。そして米国のスリーマイル島原発事故と、日本の福島第1原発事故では放射線による死者はゼロだ。「こうした災害の規模を冷静に認識する必要がある」と客観的に比較してみることの重要性を訴えた。

 その上で「広島、長崎も見事に復興している。福島の復興もできるはずだ」として、福島県内の放射線量の高い地域については表土を数センチ除去し、住民には個人線量計を配布することで、安全に住めるようになると提言。「私たちは福島県産の食品を買い、観光にも行って、福島を支援しましょう」と呼びかけた。

 続くパネルディスカッションには高田教授に加え、現在は福島県郡山市の防災対策アドバイザーを務めている根本匠・元首相補佐官、同市出身の田母神俊雄航空幕僚長、「飯舘村を勝手に応援する会」を立ち上げた拓殖大の荒木和博教授らが出席した。田母神氏が「危ない危ないと言われるが、実際そんなに福島の放射線は危なくない。原発の上を飛ぶカラスが落ちましたか。原発近くの海で魚がどんどん浮きましたか。危なくないということがだんだん実証されてきている」と一気にまくしたてると、会場は爆笑の渦に。

 高田教授は「今後は現地の酪農家の皆さんを救うべく、検査をしながら食べることを実証していきたい」と決意表明。荒木教授が「高田さんのように考えている専門家は多いが、実際に発言される人は少ない。正面切ってものを言ってくださる方を皆でサポートしていきたい」と援護射撃した。

 原発に対する考え方については、出席者の間でも「脱原発依存で、再生エネルギーに力を入れていきたい」(根本氏)、「私は原発推進派。一流の国を目指す上で原発は必要」(田母神氏)と見解が割れた。それぞれの意見に拍手が起こったが、高田教授が「福島の場合はチェルノブイリのような核の暴走は起きておらず、それは世界が評価しているはず。ピンチとチャンスは裏表で、今こそ日本が最高の原発技術を開発できるチャンス。ピンチだといってへこたれていてはダメだ」と話すと、会場からひときわ大きな拍手が送られた。

 シンポジウムの最後に、会場の参加者が発言を求めた。「福島県二本松市から来たが、きょうのこの話を地元に持ち帰ってもなかなか信じてもらえないと思う。このようなシンポをもう一度、福島県民の前で開催してほしい」。再び、満場の拍手がわき上がった。(溝上健良)