育鵬社教科書採択の武蔵村山市教育長「心理的圧力感じた」 自宅に不採択要望書 

2011.8.16 MSN産経ニュース から転載

育鵬社の教科書採択について語る武蔵村山市の持田浩志教育長

 全国各地で来春から使う中学校教科書の採択が進む中、「日本教育再生機構」のメンバーらが執筆した育鵬社の歴史教科書の採択が相次ぐ一方、「戦争賛美」などと批判して不採択を求める運動も過熱している。採択の現場はどうなっているのか。東京都の区市町村大田区とともに初めて育鵬社の採択を決めた武蔵村山市の持田浩志教育長が産経新聞の取材に応じ、組織的な不採択運動について「心理的な圧力を感じ、採択が教育の視点ではなく労働運動や政治闘争になっている」と指摘した。

 8月5日、同市教委の臨時会。傍聴席を満席に埋めた約70人が見守る中、歴史と公民で育鵬社教科書の採択が全員一致で決まると、反対派とみられる人たちから「えー」という大きな声が上がり、委員らに「ひどい」「勉強し直せ」といったヤジも浴びせた。

 同市教委によると、6月ごろから教科書採択に関する要望書が寄せられ始め、その数は採択までに計397通に上った。9割以上が歴史教科書に関するもので、うち7割が育鵬社教科書の不採択を求めており、採択に当たる5人の教育委員の自宅にも数十通ずつ送りつけられたという。

 持田氏は「なぜ公表していない委員の自宅に届くのか。怖いと感じた委員やその家族もいた。静かな環境の中で教科書を判断する状況にはほど遠く、心理的に圧力を感じた」と打ち明ける。
 要望書の発送者は、共産党系の団体や労働組合、弁護士の団体などで、それぞれ同じ文面を印刷したものが大半。不採択を求める理由については「戦争賛美」「憲法敵視」などと書かれていた。

育鵬社の教科書採択について語る武蔵村山市の持田浩志教育長

 持田氏はこうした主張に「すべての教科書については文部科学省の検定をパスしている」とし、採択の理由について「国や郷土を愛する態度を育てることを重視した新学習指導要領の趣旨にもっとも合っていたことが大きい」と説明。組織的な不採択運動については「採択が教育の視点ではなく、労働運動や政治闘争になっている面もあると感じる」と語った。

 そもそも教科書採択は、地方教育行政法により、首長から独立した教育委員会の職務権限と規定されているが、東京都内の元教育委員は「実態は教育委員の任命権者である首長の意向が反映される側面もある」とし、「結局、事なかれ主義で、賛否のあるものを避ける雰囲気がある」と振り返る。

 持田氏は「武蔵村山市では、市長が『教育委員会の議論の結果を尊重する』との立場。反対派から圧力を感じながらも、適正な議論に基づいて判断することができた」とした上で「一番重要なのは子供たちにとって、もっとも必要な教科書は何かという教育的視点だ」と話していた。
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 自虐的な歴史教科書を批判して発行されてきた扶桑社の歴史・公民教科書を継承した育鵬社の教科書は、栃木県大田原市や神奈川県藤沢市横浜市、東京都大田区のほか、都立中高一貫校10校の中学課程や神奈川県立平塚中等教育学校などで採択された。

 10万人以上の生徒が使用する全国最大採択区の横浜市では、育鵬社不採択を求める集会や街頭活動が繰り返され、採択当日には審議中の会議室の外で男性が騒ぎ続けたため、警察官が駆け付けるトラブルが発生。採択後も市教委に抗議が殺到している。 沖縄県石垣市など3市町からなる八重山採択地区協議会では、地元教育長経験者や地元メディアなどが「戦争美化の教科書を採択させるな」と反対運動を展開。県教委が採択の延期や委員の追加を求めるなど「不当介入」した問題が国会で取り上げられた。