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2009-01-28

仕組まれた無知の連鎖――後退する中東報道(1)

| 14:43 | 仕組まれた無知の連鎖――後退する中東報道(1)を含むブックマーク

 毎日新聞論説委員バグ取り。パレスチナ報道に関しては、読売・朝日・毎日・産経東京の五紙の中でいちばんまともなのは、毎日か産経だよなーと思っていたのも束の間。国連UNRWA本部攻撃をスルーしたあたりから、毎日は彗星のごとく転落し、朝日が不気味な浮上を開始したのであった(しかし朝日はここではスルー)。

 この論説の内容はざっくり言って、

  1. 米国は「人権」と「人道」の国のはずなのに、なぜイスラエルをとめられないのか?
  2. それはイスラエル・ロビーのせいだが、ロビイングは有権者の正当な権利である。
  3. しかし米国単独主義は問題である。このままではガザとイスラエルの「過激」と「過剰」の争いはエスカレートするだけだ。
  4. ハマスには非現実的な夢を追わない勇気が必要である。

というもの。もちろん記事の中にはうなずけるところもあるけれど、基本はマトリョーシカのような嘘の入れ子構造なので、結論は悲惨なことになっている。たとえば、

  1. マイクロソフトは「超優良」企業のはずなのに、なぜVistaをリリースしたのか?
  2. それはOffice 2003のSAの有効期限切れが迫っていたからだが、SAの導入は企業の正当な権利である。
  3. しかしマイクロソフトの独占体制は問題である。このままではVistaLeopardの薄汚いシェア争いはエスカレートするだけだ。
  4. アップルユーザは身の程を知った方がよい。

みたいな。お前は何様だ?

 タイトルは、記事の煽り文句、「「過激」と「過剰」の連鎖――後退する中東和平」より。

ガザ攻撃―――黙認された罪なき人々の犠牲 米国が掲げる人道はどこへ (2009.01.27 毎日新聞 8面)

 http://mainichi.jp/select/world/news/20090127ddm007030030000c.html

 イスラエル軍パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃は後味の悪い出来事だ。子供を含めパレスチナ側に1300人もの犠牲者が出たのに、米国は最後までイスラエルの「自衛権」に重きを置いた。なぜなのか、と首をかしげる人も多いだろう。米国は「人権」や「人道」を重んじるはずの国なのに、と。

 「後味の悪い出来事」って表現がすごいな。『ボディ・ジャック』の観賞会じゃないんだから、もっと他にいくらでも言いようがあるだろう。

 「米国は「人権」や「人道」を重んじる」という「永遠の嘘」(©id:toledさん)は、少なくとも米国の歴史全般に対する「無知への逃避」を要求する。たとえば、

 「インディアンが、その土地から力によって排除されたのは、明白単純な歴史的事実である。インディアンは、辛くもゼノサイド(皆殺し)をまぬがれた敗者であり、白人は勝者である。しかし、インディアンが、それは詐欺と欺瞞によって行われたとして責めて止まぬとすれば、ここでは、アメリカ建国の道義的意義が正面から問われているといわねばなるまい」

 「アフリカからアメリカに向う奴隷船に全く貨物同然につめこまれた黒人たちが暑気と窒息のために死んだ数は約一〇〇〇万と推定されている」

 「フィリピン方面の米軍最高司令官マッカーサー将軍は一九〇〇年つぎのような声明を行った。我々に親しいマッカーサーの父親である。「正規の組織を持つ軍隊の一部分として連続的に作戦に従事することなく、断続的に敵対行為に参加し、その間には家庭にもどり仕事をする者達は兵士としての資格に欠け、したがって、もし捕虜となった場合、戦争における兵士の特権を享けるに値しない」。くだいていえば、配下のジェイコブ・スミス将軍の簡潔な命令に要約される。「一〇歳以上すべて殺すこと」」

アメリカ・インディアン悲史 (朝日選書 21)

アメリカ・インディアン悲史 (朝日選書 21)

 「ベルリンの壁が崩壊してから二週間も経たないうちに、米国は、世界平和の新時代が訪れた喜びを表明するためにパナマに侵攻し、ワシントンの爆撃狂はふたたび爆撃を開始した。(中略)数日間にわたった米軍パナマ軍の戦闘で、五〇〇名ほどのパナマ人が命を落としたというのが公式見解である。すなわち、米国米国が据えたパナマ新政府の見解である。別の証拠を検討した他の情報源では、死者は数千人に達すると述べている」

 「カストロは、一九五九年初頭に政権を握った。その年の三月一〇日には、米国国家安全保障委員会が、「キューバに別の政権を」据える可能性を議題に含めた。その後の四〇年間に、テロ攻撃や爆撃、全面軍事介入、経済制裁、封鎖、孤立化、暗殺等々が企てられた。キューバは、許しがたい革命を実行し、ラテンアメリカで「良い例」を示す極めて深刻な脅威となったのである」

 「サンディニスタが一九八〇年、ソモサ独裁政権を追放したとき、長いこと恐れていた「第二のキューバ」となるであろうことはワシントンの目に明らかだった。(中略)八年という恐ろしく長い期間、ニカラグアの人々は、ワシントンの代理軍隊である反革命軍コントラの攻撃にさらされた。コントラは、ソモサ独裁時代の残忍な国家防衛隊員とソモサ支持者から創設された。この全面戦争は、サンディニスタ政府による進歩的な社会経済プログラムを破壊することを目的とし、学校や診療所を焼き払い、強姦や拷問を加え、港に機雷を設置し、人々に爆撃と機銃掃射を加えるものであった」

アメリカの国家犯罪全書

アメリカの国家犯罪全書

 このリストはその気になればいくらでも引き伸ばせるし、ここに広島長崎を加えることもできるだろう。けれども、米国は、オバマ政権のもと、ブッシュを「例外的」大統領として切り捨てることで、「永遠の嘘」を塗り固めようとしている。折りよくグアンタナモ刑務所の閉鎖も決まったし、「ああ、やっぱりアメリカ合衆国は世界のモラル・リーダーなんだ!人権が最も尊重される自由の国なんだ!これこそ国民が信ずる変革だ!USA!USA!」というわけだ。もちろん実際には、「オバマ、声が変わっただけで、言ってることは前任者と似すぎていないか?」というわけで・・・。

 ガザの惨状を見ながら、98年暮れのクリントン大統領(当時)の訪問を思い出した。大統領は、ガザ国際空港ヘリコプターで降り立ち、車でガザ市中心部へ向かった。そして、今思えば信じがたいことに、パレスチナの人々は、お年寄りから子供まで、沿道で星条旗を振って大統領を迎えた。ガザにもつかの間、幸せな時間があったのだ。

 クリントンに限らず、米国大統領がどこかを訪問するのは、たいていの場合、不吉な出来事の前兆である。

 「はっきりと西岸地区の土地の一部をイスラエルに併合する現在のラインが出てきたのは、2000年クリントン大統領が強引にイスラエル労働党政権のバラクとパレスチナ自治政府アラファトのあいだで「和平合意」を結ばせようとしたときで、そのときには、すでに地図としてほぼいまの壁のラインに沿う、事実上のグリーンラインの変更による国境線の確定が示されていました」

 パレスチナ情報センター:「壁報道の不思議」

 http://palestine-heiwa.org/note2/200411271958.htm

 00年には米国クリントン大統領と当時のバラク・イスラエル首相アラファトパレスチナ自治政府議長による中東和平3首脳会談が続いた。和平が現実味を帯びた歴史のひとコマだが、3首脳会談は決裂し、バラク首相は体面を失った。そのバラク氏が今回、国防相として仮借のないガザ攻撃を指揮したのは象徴的である。

 バラクが「対面を失った」のは、クリントンが「東エルサレムとその周囲のユダヤ人入植地、グリーンライン近くの主要入植地をイスラエル側に併合することを認めよという、合法性も正当性もない横暴な要求」をアラファトに受け入れさせようとしたからだ。まあ要するに、電車の中でセクハラ行為に及んで、相手に拒否されたら、「対面を失った」とかわめいている痴漢とたいして変わらない。

 10年前に比べ、和平交渉で進歩より後退が目立つのは悲しい現実だ。イスラエル軍のガザ撤退(05年)は大きな動きだが、その後も閉鎖空間のガザの窮乏は変わっていない。

 イスラエル軍の「ガザ撤退」については、こちらの解説が必見。目次を見るだけで勉強になりますわな。

 P-navi info:「「撤退」の煙幕を取り払うためのファクト・シート」

 http://0000000000.net/p-navi/info/news/200508201456.htm

 次回へ続くねん。