火薬と鋼

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2008-03-25

[] 図書館外部の人向け。待遇が悪くて困るの巻

 先に話題にした図書館業界の話は、この世界に強い興味関心がある人、特に図書館アウトソーシング業を介して図書館に勤めたい人に向けてのものだったので、図書館業界に対する知識や経験の程度によっては理解しがたい内容もあったと思う。はてなブックマークでもちょっとその種のコメントがあった。分からないのも当たり前で、読者を限定した話だったからだ。今回はもう少し一般寄りに図書館アウトソーシングで待遇が悪化してどのように困った事態になっているか、という部分を説明しよう。

 さて、大学図書館でも研究所の図書館でも公共図書館でも、非正規職員や図書館アウトソーシング業が雇う派遣・請負によってサービスを行うところは多い。物凄く大雑把に言えば、「サービスを低下させずに(時には向上させつつ)人件費を下げる」ことができるという論理でこの種の形態が広がった。「単純な業務は外部委託でバイト・パートにやらせて、専任職員は高度で専門的な業務に集中すればよい」という理屈だ*1。しかし実際にはそうそううまくはいっていない。知識だけではなく経験がないと全く使い物にならないような業務も、パートやバイトにやらせるようになっているのが実情だ。また、単純な業務を行うだけのスタッフであっても高度な知識を要求する業務との連携が求められることがあり、結局人材の育成には時間がかかる。

 また、他業種と違って図書館業界というのは非常にパイが小さいためか研修体制やマニュアル化、システムの発達が進んでいない。コンビニやファストフード、レンタルビデオ店のような業種とは、比べ物にならないほど未熟なシステムなのだ。必然的にアルバイトでも前もって図書館業務に対する知識が求められ*2、更にその図書館固有の事情やシステムに適応するために育成に時間がかかっているというわけだ。

 外部委託化が進むにつれ、より高度な業務*3もアルバイトやパートに求められるようになったため、更に人材育成にコストがかかるようになった。が、入札価格の問題もあってパートやバイトの待遇はあまり良くない。当然辞める人間は出てくる。同じスタッフで何年も続くことは少なく、1年で半分以上入れ替わった、という例もある。

 更に「図書館業務の研修をどう行うか」という問題がある。実は、「その図書館の同じ業務をしている人間に教わる」以外にないのだ。派遣や請負の会社が行う研修は、概要や一般的な部分が中心で、特定の図書館の業務は結局その図書館で働いている人間に教わることが多い。辞める人間が多くなればなるほど教える側の人間(職員や同じ会社のパート・アルバイト)の負担が増加する。さて、もし5人体制の図書館で2人の人間が辞め、新人が2人来たらどうなるだろうか?受け持つ業務にもよるが、特に対人サービスだと新人はしばらくは単独で業務をさせられない。正常に業務が回らなくなるのだ。スタッフの出入りが激しくなると、その図書館は利用者にとっても内部の人間にとってもストレスの溜まるものとなる。

 こうした状況と待遇の問題のため、今はこの種のパート・アルバイトは経験・知識のある人材がなかなか集まらない。その結果、無資格・未経験でも外国人でも雇う例が出てきている。他でもない研修やマニュアル化、システムが未熟なこの業界で、である。つくづく「サービスを低下させずに人件費を下げる」というのは、この流れでは難しいのだと思う。うまくいっている例として紹介されている図書館が、実は特定の有能な職員やスタッフが大きな負担を抱えていることで結果的にうまく回っているだけということもある。それでもサービスがうまく行われていればまだ良いのだが、その特定の人間がいなくなったらまずいことになるだろう。

 最終的に図書館業界の労働状況の問題は、サービスの低下*4というかたちで利用者に見えるようになる。低下を見えないように繕っていることも現にあるらしいが…そんな噂が信じられるくらいの状況だ。ここまで来ると待遇の悪い当事者だけでなく利用者も図書館も企業も困るのである。

(3/27追記)

 比較的研修やマニュアルが発達している大学図書館の一部業務の話は、一般向けではないので書いていない。「研修とマニュアルはあるが運用に問題がある」話になってややこしいことになるし。

*1:最近の傾向では金額だけが重要で高度とか単純とかはあまり関係ないかもしれない。

*2:例外はある。本の配架など極度に限定した仕事をバイトにさせている場合がそう。

*3:専任職員と同等という例もある。

*4:これは既に発生している個人情報の流出などの問題も含む。

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