火薬と鋼

2009-05-16

[] 学校図書館と検閲の事例 (1) (追記あり)

化け物を殺すのは人だけ - 北沢かえるの働けば自由になる日記

小学校の図書室から『ぼくらの七日間戦争』をはじめとした『ぼくら』シリーズが撤去されたという話があった。

この話題に関連して、過去の学校図書館と検閲の事例を紹介しよう。

アメリカの事例を出そうと思ったが、情報整理に時間がかかるので日本の例から。

参考文献は日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会編『学校図書館と図書館の自由』日本図書館協会(図書館と自由 第5集)


日本の事例 愛知県立高校図書館

学校図書館は、教育的配慮に基づいた自主規制が行われる可能性をもつ。学校図書館においても幅広い資料を提供することで生徒が多様な情報を入手できるようにすべきであるが、実際にはそうはなっていない。

例えば、全国学校図書館協議会|全国SLA制定の各種基準|全国学校図書館協議会図書選定基準を基準としてもかなり一面的・一方的な情報の統制は可能だ。

実際に学校図書館で起きた禁書まがいの行為について、表沙汰になった事例はいくつかある。有名な事例には、1981年に明るみに出た愛知県立高校図書館の選書介入がある。

1981年、愛知県高等学校教職員組合において、新設校(1970年代に開校し、徹底的な管理強化を行った県立校)で図書館の購入図書に校長が介入する事実が問題視された。

そこで愛知県立の高校図書館(調査対象137校・回答81校)を調査した結果、学校管理職により購入禁止された図書が多数あることを確認し、これを公表した。

公開された禁書リストとその購入禁止理由がなかなか壮絶なので一部を抜粋してみよう。


早乙女勝元『東京が燃えた日』岩波書店(岩波ジュニア新書) 理由「戦争を扱っているからいけない」

もろさわ・ようこ編『女たちの明日』平凡社(ドキュメント女の百年6) 理由「"女"はいけない」

水田洋『自由主義の夜明け スミス伝』国土社(世界を動かした人々6」 理由「"自由"はいけない」

松田道弘『トランプのたのしみ』筑摩書房(ちくま少年図書館) 理由「"遊び"はいけない」

木島始『地球に生きるうた 若い世代への詩集』偕成社 理由「"生きる"はいけない」

谷藤正三・谷藤正典『住みよい町づくり』森北出版 理由「"町づくり"はいけない」

渋谷陽一『ロックミュージック進化論』日本放送協会出版協会 理由「"ロック"はいけない」

大江健三郎同時代ゲーム』新潮社 理由「著者がアカだから」

田村豊幸『奇形児はなぜ』農山漁村文化協会 理由「"公害"はいけない」

大江志乃夫『徴兵制』岩波書店 理由「戦争を扱っているから」


リストに掲載された禁止図書は58点にのぼる。

管理職(校長)が一定の先入観から書名・著者名・出版社を見て左翼的・娯楽的とみなした資料が購入禁止されていた事実が浮かびあがった。

この調査公表後、図書館選書への干渉を止めると宣言する校長が出るなど、学校図書館への露骨な干渉は減ったが、その後も学校図書館自体が自主規制するなどの課題を残した。


愛知県の問題に対応して、日本図書館協会では1982年に全国の公立高校図書館に対して調査を行った。調査内容は選書組織・購入禁止の有無と事例、図書館の自由に関する質問からなっていた。

調査結果からは、購入禁止が全国的に見られること、自己規制あるいは学校図書館の体質に問題があることが示された。

なお、愛知県の事例では校長が購入図書を禁止していたが、これが検閲にあたるかどうかは意見が分かれる。学校図書館も校長の管理権限の範疇に含めるとすると、選書の最終決定権も校長にあるとみなせる。一方で、図書館が学校内でも独自の権限や責任を持つとすると校長の介入は権力による検閲とみなせる。現実には学校図書館は自立した組織ではないことが一般的で、責任を持って業務にあたる組織や体制ではない。このため知る自由を保障し、多様な情報を提供するという図書館の機能を果たせないことが多いのだ。


次回はアメリカの事例について紹介する予定。

>> 学校図書館と検閲の事例 (2) - 火薬と鋼

(追記)

需要がありそうなので禁書リストの残りも引用してみる。

家永三郎『日本の歴史』ほるぷ出版(全十巻) 理由「裁判の被告(ママ)に当たる著者の本は入れることができない」等

黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』講談社 理由「芸能人の書いた本はふさわしくない」

家永三郎・赤松俊秀・圭室諦成監修『日本仏教史』法蔵館(全3巻) 理由「家永三郎編と書いて申請したら『編者がだめだ』と言われた。翌年、圭室諦成編と書いて出したら、購入が許可された」

家永三郎『日本文化史』岩波書店 理由「一斉学習用に50冊まとめての購入を申請した時、『50冊もそろえる本としては不適切』という言い方で拒否された。

重松鷹泰・岸俊彦『わかる授業の進め方』第一法規 理由「偏向している」

深谷昌志『現代っ子と学校』第一法規 理由「偏向している」

朝日新聞高松支局『何のための学力か いま香川の学校で』明治図書 理由「偏向している」

平野或『子どもが感動する時』明治図書 理由「偏向している」

フィリス・バッテル、常盤新平訳『カレン・アンの永い眠り 世界がみつめた安楽死』講談社 理由「偏向している」

山崎たつ江『母が語る子育て論』明治図書 理由「偏向している」

田代良三ほか編『講座・現代の高校教育 2巻、3巻、6巻』草土文化 理由「偏向している」

戸田唯巳『学校と家庭の間』明治図書 理由「偏向している」

五十嵐顕ほか編『講座日本の教育』新日本出版社(全11巻別巻1) 理由「闘争という言葉が出てくるから」

新聞『朝日新聞』 理由「中日新聞(スポーツ)にかえよ。生徒はそのほうがよく読むし、地元の新聞だから」

雑誌『世界』岩波書店 理由「読む人が少ないから"文芸春秋"に変更せよと言われ、いろいろ話し合ったが結局『世界週報』にかえさせられた」

日教組『日本の教育(全国教研集会記録集)第30集』一ツ橋書房 理由「校長『内容がいかんとはいっていない』『ある一定の規準を設けないと図書選定に混乱をきたす』『本来、学校の図書館は主に生徒のためのものである』『団体の発行したものは入れない。わしが校長である限り入れない』『図書部会を開いたとしても判断できないだろうし、開いても同じことであろう』『寄贈本についても、わしがすべてチェックしている』以上、確認されたもの」

新日本文学会『反天皇制論』亜紀書房 理由「"反"がついているからいけない」

稲田耕三『高校放浪記』サイマル出版会(全3巻) 理由「書名をみただけで『いけない』」

高校生文化研究会『高校・四季の祭典』高校生文化研究会 理由「出版社がいけない」

羽仁進『初恋・自殺・不良少年』(のびのび人生論10)ポプラ社 理由「著者、書名ともいけない」

高橋金三郎『教師への道』(君たちの将来は6)ポプラ社 理由「著者がいけない」

秋山良照『中国戦線の反戦兵士』徳間書店 理由「"反戦"はいけない」

澤地久枝『妻たちの二・二六事件』中央公論社 理由「"女"だからいけない」

しおはま・やすみ『ファッション革命』日経新聞社 理由「"ファッション"はいけない」

松本清張『白と黒の革命』文芸春秋 理由「著者がアカだから」

石子順『日本漫画史』上下 大月書店 理由「"漫画"はいけない」

小林初枝『こんな差別が』筑摩書房(ちくま少年図書館) 理由「書名がいけない」

日本放送出版協会『日本の消費者運動』日本放送出版協会 理由「"運動"はいけない」

佐々木賢『高校生の意識と生活』三一書房 理由「出版社がいけない」

杉本苑子『対談にっぽん女性史』文芸春秋 理由「"女性"はいけない」

西平正喜『双子の高校生』三一書房 理由「出版社がいけない」

宮崎清『詩人の抵抗と青春 槙村浩ノート』 理由「"抵抗"はいけない」

富村順一『韓国の被爆者』JCA出版 理由「戦争を扱っているから」

大城立裕『沖縄歴史散歩』創元社 理由「戦争を扱っているから」

日高六郎『戦後思想を考える』岩波書店 理由「戦争を扱っているから」

宇野一『高校教師三十年』日本放送出版協会 理由「"組合"がでてくるから」

和田典子『女生徒の進路』(岩波ジュニア新書)岩波書店 理由「女生徒だけでは不公平だ。本文中"たちあがれ女性"とある」

服部正巳ほか『高校生狂詩曲』高校生文化研究会 理由「校長が預かったまま戻らない」

加美越生『高校生讃歌』高校生文化研究会 理由「校長が預かったまま戻らない」

田村宣征『海に鳴る序曲』高校生文化研究会 理由「校長が預かったまま戻らない」

比嘉春潮ほか『沖縄』岩波書店 理由「外部からクレームがつけられると困る」

川端治『安保条約下の日本』新日本出版 理由「外部からクレームがつけられると困る」

「三一新書」 理由「職場のある人から『こんな本大丈夫でしょうか』といわれた」等

遠山啓の本 理由「教研集会の講演者に呼んだりした人だから」

全民研『学習資料 政治経済』ほるぷ出版 理由「偏向している」