火薬と鋼

2010-11-20

[] USBを悪魔の印とした教団は存在するのか

 先日、ブラジルのキリスト教原理主義者団体がUSBを悪魔崇拝者の陰謀だとした記事がネットに流れた。

no title

ブラジルの福音派キリスト教団、USBのマークは悪魔の刻印であるとし使用を禁止 : カラパイア

 USBのマークは悪魔の槍の印だというのだ。宗教団体にはときに突拍子もない主張をする人間がいるから、これもその類のニュースかと思われた。しかし私はこの記事を読んでいてどうにも疑わしく思えてきた。Bluetoothはキリストの目が青いから大丈夫とか、あまりにオチがうまく出来すぎている。それとコンピュータ技術を悪魔と結びつけた怪しいニュースは過去に前例がある。


悪魔が宿るコンピュータ

 2000年3月頃から、コンピュータに悪魔が宿るという主張をした人物の情報がネットに流れた。

一例 Digital Demons

 Jim Peasboro曰く、アメリカのコンピュータの10台に1台は悪魔に支配されているとか、コンピュータが古代メソポタミアの言語で神を冒涜する言葉をタイプしたとかいった現象が起きているのだという。1985年以降のコンピュータの容量は悪魔の精神が宿ることができる容量なのだと。同氏はDevil in the Machineという本を出版する予定とされていた。

 しかしこの情報、色々なところでコピペされたが肝心の本も著者もその後全く出てこなかった。実はこの情報の大本は、嘘ニュースで名高いウィークリーワールドニュースの記事だったのだ。

Googleブックより該当記事 Weekly World News - Google ブックス

 作り話かどうか、徹底的に追求されたわけではないが、非常に出所の怪しいニュースである。

 USBを悪魔崇拝と結びつけた教団の記事を見て、この一件を思い出した。


疑う読者たち

 今回の記事は英ガーディアン紙Webサイト内のScienceカテゴリのMartin Robbinsのブログで紹介されたものだ。

 この記事掲載は11月15日。

USB - Satan’s Data Connection | Science | The Guardian

 さらに遡ると情報源はブラジルの個人ブログの記事BOMBA: Em SP, culto evangélico proibe uso de tecnologias USB | BobolhandoBobolhandoであり、しかもそこはユーモアとして嘘記事をよく載せているところだったのである。そのため、ブログのコメント欄には疑う読者も登場、話題となっている教団の存在が確認できないとの情報を寄せる読者も登場した。また、そもそもブログの今回の記事は真偽の責任が取れないといった趣旨の逃げの姿勢が出ていた。

 分かりやすく言うと、このニュースは、「ブラジルにこんな噂がある」というレベルの話で、なおかつ信憑性の低い話なのである。


その後

 そして11月19日、英ガーディアン紙のMartin Robbinsのブログであの記事を載せた理由とその後の反応とそれに対する心情についての記事が掲載された。

Won’t get fooled again: satanic USB and Poe’s Law | Science | The Guardian

 要するに「ポーの法則」から考えてありえそうだと思った、面白い事を共有したかった、このブログも個人的な場だから、等が真偽を確認せずに噂を載せた理由だというのだ。

 「ポーの法則」とは原理主義者の行動とパロディの判別が難しいことを元にした法則。メモ「ポーの法則」: 忘却からの帰還が詳しい。

 心情が全く理解できないわけではないが、これは不用意だったと思う。ガーディアン紙のWebサイトの内部にあるブログは、個人ブログというよりは報道の一つと受け取られる傾向が強い(しかもカテゴリーではScienceの一角である)のだから。日本でもこの一件はガーディアン紙の情報として、嘘の可能性が高い噂だと認識されないまま話が広がっている。


[] ビートルズの教科書初出を探す

ビートルズ・・・・ - Togetterまとめ

 これに関連して「ビートルズは教科書にも載っている」という話が出ている。自分も見た記憶はあるが、副読本の類だったかもしれない。気になったので、いつ頃が初出なのか調べてみた。

 まずは手軽に調べられる音楽教科書のデータベースを見る。

小学校音楽 教科書題材データベース

 このデータベースは昭和26年以降の小学校音楽教科書に掲載された楽曲を調べられる便利なものだ。ただし曲名の表記が少しでも違うとうまくみつけられないし、演奏者では調べられない。だから今回のような場合、検索キーに「ビートルズ」と入れても「Beatles」と入れてもヒットしない。作曲家で調べるとみつけやすい。ここで「レノン」と入れて検索すると「オブラディオブラダ」が6件みつかる。最も古い例は1979年(昭和54年)だ。なぜこの曲なのか、えらく疑問があるが早い時期の音楽の教科書で確認できたのはこれだけだ。

 高校や中学の教科書の例については、遡及的に調べることは難しい。また、音楽以外の教科書で採用された例もあるだろう。そこで今度は新聞データベースで記事を検索してみた。ビートルズを教科書に載せるといった事は報道されている可能性が高いからだ。

 そこで図書館で朝日新聞データベースの「聞蔵II」で検索してみた。

 すると1977年5月22日東京朝刊に「ビートルズ 教科書にデビュー」と昭和53年版の中学校英語の教科書に初登場したという記事がみつかった。登場したのは三省堂の『ニュークラウン』で1年生用と3年生用にビートルズにまつわる文章が載ったという内容だ。特に3年生用ではビートルズに1章を割き、編曲した楽譜も掲載している。

 簡単に調べた結果は以上だ。他社の教科書や副読本に載っていった経緯もあるはずだが、手近で調べることしかできなかったので一旦調査はストップ。思うに、これほど教科書に載った歴史が古いことを把握している人は少ないのではないだろうか。