火薬と鋼

2011-01-16

[][] 軍隊格闘技におけるカランビットの優位性と問題点

 ゲーム「Call of Duty: Black Ops」の武器にカランビットが登場している*1

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 前からカランビットの技術については書こうと思っていたので、この機会に書いておこう。

 カランビットというナイフは、興味のない人には全く知られていないが、軍隊格闘技の世界では2000年頃から注目され、製品も多い。映画やドラマ、マンガにも登場している(日本では高橋慶太郎『ヨルムンガンド』など)。

カランビットの特徴

 カランビットは東南アジアで伝統的に使われている鎌状の刃物を武器としたものだ。鎌、鉤爪のように屈曲した刃体をもち、ハンドルエンドに指を通す輪(フィンガーリング)がついている。多くのサイズや形状があるが、現在広く使われているのは小型ナイフだ。

 ちょうど今月入手した二つのカランビットがある。上はフランスのバスティネリ・クリエイションズが作ったもの、下はアメリカのリース・ウェイランドによるカスタム。

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 上のカランビットについている鋸刃(セレーション)は、人体に引っ掛ける際に使う。空手の外受けで、手の代わりにナイフの背で相手の攻撃を受ける状態をイメージしてほしい。その際、このセレーションが相手の手首に食い込むのだ。

 カランビットには両刃のものと片刃のものがあり、両刃のほうが技法が豊富になる。

 カランビットを使う格闘技はフィリピン、インドネシア、マレーシアにいくつもあるが、多くの場合逆手に持ち、人差し指をリングに通して握る。順手に持つ場合もあり、その時は小指を輪に通す。指をどの程度輪に通すかは流派によって異なるが、深く握る流派が目立つ。

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 カランビットを使う武術は東南アジアに古くから存在し、伝説めいた逸話が多く起源ははっきりしない。古くから存在するこの武器の技法が1972年出版のDonn F. Draeger "Weapons and fighting arts of the Indonesian archipelago"などの書籍で西洋に紹介されたこと、そして2000年頃アメリカでナイフ格闘を指導するスティーブ・タラーニの紹介により軍隊格闘技や護身術の武器として爆発的に広まったことははっきりしている。

カランビットの技法

 ナイフ格闘を知らない人がナイフショーでカランビットを見ると、使い方どころか持ち方さえ分からない事が多い。全くなじみのない形状のナイフだが、こうした鎌状のナイフというのはカランビット以外にも古くから存在し、その技法も確立している。

 最大の特徴である鎌状の刃と輪にはそれぞれ利点がある。

 鎌状の刃は、通常の直線的なナイフよりも大きな傷を与える事ができる。これは、例えば猫に引っかかれた経験のある人なら分かりやすいだろう。鎌状の小さな刃は、鉤爪と同じく「突き刺してから引き裂く」結果をもたらすため、傷が深く大きくなりやすい。カランビットは歴史的に小型の隠し持つ武器として使われたとされているが、それも小型でも殺傷力が高いという特性のためだ。こうした鎌状の刃は力が逃げにくいため、刃に相手の武器を引っ掛けて落とすとか、人体を引っ掛けるといった事もできる。

 もう一つの特徴である輪は、カランビットが手から抜け落ちないという意義がある。輪があることで手が滑ってナイフに十分力が入らないということはないし、相手に武器を奪われる・落とされるという可能性も激減する。また、輪の部分で殴るという技法もある。

 輪があるので手を開いてもカランビットを落とすことはなく、他の作業も並行して行える。兵士向けのテクニックにカランビットを持ったまま銃を操作するものがあるが、これもそうしたメリットの一つだ。

 そして握り方を変えることでエクステンデッド・グリップという持ち方に切り替えることもできる。

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 上の写真のように持つ。通常のグリップから瞬時に切り替えることで拳ひとつ分遠い間合いを攻撃できる。

 これまで挙げた特徴は、ナイフ格闘において極めて優位に働く。例えばナイフ格闘では相手のナイフ(あるいは手・腕)をさばいて優位を得るが、屈曲した鎌状の刃は攻撃範囲が広く、さばきにくい。また、ナイフを引く動作で深い傷を与える点も対処しにくい。そして軍隊格闘技では、鋭い鎌状のナイフは装備やボディアーマーの無い部位を狙って抉る事にも適している。

カランビットの欠点

 カランビット最大の欠点は、その利点の裏返しである。まず屈曲したブレードも輪もナイフのサイズを通常のナイフよりも増大させる。特にシースナイフでは鎌状の刃はシースから抜きにくい。また、普通のナイフよりも汎用性が劣る。例えば直線的なナイフは前後に切ることで刃体より大きなものを切ることができるが、カーブのきついカランビットでは刃より大きなものを切るのは極めて難しい。しかも研ぎにくい。こうした事情から、カランビットは特殊部隊などで使われている一方、軍でもマイノリティのままだ。

 そして何よりこの特異なナイフは扱いに習熟しないと武器としては役に立たない。普通のナイフや包丁で戦えと言われれば、経験がなくても少しは使える。ところがカランビットはそうはいかない。扱いにくいのだ。下手をすると屈曲した刃は自分を傷つける。練習の際に自分の手を怪我した人間は多いし、習う機会、場所も限られている。潜在的な危険のわりに悪用される可能性が低いナイフであるとも言える。

 こうした問題点もあって、兵士、武術家含め愛好家がいる一方で普及に歯止めがかかっている。

*1:余談だが、モデルになったナイフはEmerson Knivesの製品で、ゲームの舞台の1960年代には存在しない。オーパーツだ。

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