『ハヤテのごとく! CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』第二夜のシステマを解説する

テレビアニメ『ハヤテのごとく! CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』にロシア格闘技のシステマが登場するというので見てみた。システマを練習している人間として色々と気になる点があったので、ちょっと紹介してみる。


http://www.hayate-project.com/ アニメ公式サイト


このアニメは少年サンデー連載の漫画のアニメ化だが、アニメオリジナルのストーリーとなっている。しかしアニメ本編も公式サイトも、原作未読の人間には理解しにくい不親切な内容だ。とりあえず綾崎ハヤテという執事が主人公の話で、ギャグ寄りだということだけ認識しておいてくれれば十分だろう。
ステマが大きく登場する第二夜では、登場人物の一人ツグミ・ルリが自分の特技であるシステマを見せる。システマがマイナーであることを配慮してか、登場人物の剣野カユラ春風千桜が解説を入れている。


まずはシステマを知らない登場人物(及び視聴者)にカユラがシステマを解説する場面。
「システマっていうのはロシアの特殊部隊が近接戦闘用に開発し、現在地上最強と言われる格闘術のことだ」という説明がなされる。「言われている」って誰が言ったのやら…。それと開発はロシアというよりソ連だろう。
その説明とともにロシア軍っぽい服装を着たキャラクター(カユラ)が熊と戦うイメージシーン。

両手を後ろに伸ばして走る。なぜこんなポースなのかは不明。少なくともシステマの走り方ではないので、「システマをやっている人はこういう走り方をする」と誤解しないように。

熊の右手の攻撃をかいくぐって接近。

相手の斜め後方に回りこんであびせ蹴り。システマの蹴り技はまずこういうものではないので誤解しないように。

掌を下から叩き込んで熊が吹っ飛ぶ。威力を誇張した表現以前にかなりおかしい。

ステマを見せるというルリ(右)に対して、その強さを危険視しないハヤテ(中央)はとりあえず肩をつかもうとする。


次の瞬間、ルリの拳によってハヤテが吹っ飛ぶ。なお、先程の熊もハヤテもなぜか回転しながら飛んでいく。ほとんど全てのシーンで相手は錐もみ回転しながら飛ぶが、もちろんこれは現実の技術ではなく演出だ。この辺は車田正美的。
「でもあんなに体格差があるのにどうして」というキャラクターに対し、カユラは「システマはロシアの合気道と呼ばれ、力を受け流しその方向を変えることによって大きな破壊力を生む格闘術」と説明する。

相手のパンチをかわしてコントロールし、後ろから打撃を行うシーンが説明にあわせて挿入される。
説明の内容にはツッコミ所があるが、この黒褐色のモデルを使ったシーンはまだ比較的システマに近い動きを見せている部分ではないかと思う。でも後頭部殴るのは危なっかしい。

拳を下に打っているという図。手首が曲がっていて、これで打ったら手首を痛めやすいし力が伝わりにくいのではないかと思う。それと下方向に打ってなぜ相手が斜め上に吹っ飛ぶのか。

そして一方的に何度もやられるハヤテ。
ここで「さっきから打撃は軽いのに痛みが骨に響く」(ハヤテ)、「あれもシステマの特徴」(カユラ)、「骨に直接ダメージを伝えているんだ」(千桜)という説明が入る。恐らく今回一番トンデモない説明。これ以外にもハヤテは「この子の攻撃、全く強く感じないのに立っていられない」と言っている。
これだと骨にだけダメージを与えて他に影響を及ぼさないように思う人が間違いなくいるだろう。全国のシステマインストラクターと練習者の人は、今後システマ未経験者から「システマって骨にだけダメージを与えるんですか?」といった奇妙な質問を受けることがあるかもしれない。
この一連のアクションでは前後の動きも少なく、妙なポースで相手をふっ飛ばしているだけの場面だ。システマの技術よりも「一方的に攻撃されている」という感じだけが表現されている。左下は連打を浴びて落ちてこないというところ。

そしてより強力な一撃を打つシーン。両手を開いたまま腕をくねらせて打つという不可解な攻撃だ。今回の話を通して見ると、どういうわけか拳よりも掌の攻撃が多く、拳の攻撃の時も最初は手を開いて攻撃の途中で拳を作っている。
また、攻撃の後は必ず腕を伸ばしたままにして見得を切っている。これはアニメ的な演出の都合だろうか?システマはもちろん多くの格闘技でこんなことはしない。

そして屋外にまで飛ばされるハヤテ。

追撃をしてくるルリに対して、ハヤテは「向こうがロシアの近接格闘ならこっちは日本古来の近接格闘術だー!」と技を仕掛ける。
ハヤテはルリの肩に手を伸ばし、ルリはそれを払おうとする。ハヤテはその動きに乗ってルリの後ろに回り、手刀を首の後ろに、そして同時に足を払う。

錦絵っぽい「けたぐり」カットの後、ルリは地面に叩きつけられる。泣いたかと思ったら逆襲として最後に一撃。ここでもルリの攻撃は掌である。


以上のように、ちょっと…いや、かなりおかしなシステマの扱いだったが、これでもシステマについて検索する人は増えたらしい。これを機に実際のシステマに興味を持ってくれる人が増えるといいのだが。