トンファー型警棒というものがある。沖縄空手(琉球古武術)の武器として知られるトンファーと同様の形状をした警棒で、サイド・ハンドル・バトンとも呼ばれる。1970年代にアメリカで生まれ、多くの警察、警備会社によって使われた。映画に出てくることも多く、『ターミネーター2』(1991年)や『ザ・レイド』(2011年)にも登場した。
今回はこのトンファー型警棒の進化の系譜について紹介していきたい。なお、製品の画像は全て公式サイト、カタログまたはパテントの画像から必要な部分を切り出した。
PR-24 トンファー型警棒の誕生
1971年、アメリカのロン・アンダーソンという警察官がある事件で犯人の攻撃を通常の警棒で防御しようとして怪我をし、病院でトンファーの使用を思いついたという。
その後、ロン・アンダーソンは警棒メーカーのモナドノック社とコンタクトを取り、最終的に1974年にトンファー型警棒PR-24が発売された。
下の画像はサイドハンドルを改良したモデル。
USD230150S - Police club or similar article - Google Patents
PR-24は全長24インチ(60.96cm)のポリカーボネード製の警棒で、その後伸縮式などの派生モデルを生み出し、現在も販売されている。このPR-24がその後登場した他社のトンファー型警棒の基となった。
トンファー型警棒は単なる棒状の警棒と異なり、多様な防御・攻撃に使える。相手の武器や手足に絡めて取り押さえることもできる。
こうして様々な長所を備えたトンファー型警棒は瞬く間に普及し、アメリカを中心に多くの国の警察官・警備員に使われることとなった。
進化したトンファー型警棒
PR-24には従来の警棒よりも重く、かさばるという短所がある。全長については後に伸縮式モデルのPR-24が登場したが、これも通常の伸縮式警棒と比べると大きく、根本的な解決ではない。横に突き出たサイドハンドル部分がある以上、どうしようもない問題だった。このため、その後登場した他社の製品は、欠点をなくすよりも、その多様な技法を強化する方向に発展していった。
- Kuobota Tonfa
US4703932A - Police baton with hooked crosshandle - Google Patents
1987年、護身用のクボタンの発明で知られる空手家の窪田孝行氏は、より複雑な形状のトンファー型警棒を発明した。
これはサイドハンドルの形状を工夫し、手の滑り止めや多様な関節技への応用を考慮した警棒で、現在では販売されていない。なお、特許の被引用特許の部分のリンクを見ると有名な空手家の芦原英幸氏による伸縮式のトンファー型警棒の特許があることもわかる(Aバトンの名称で製品化されている)。
- AKD-48(Altering Kinetic Directing)
USD315391S - Police club - Google Patents
1989年にはAKD-48(Altering Kinetic Directing)という、サイドハンドルが互い違いに2本ついた警棒が出願されている。どうでもいいけど名前がAKB48っぽい。これもサイドハンドルを増やす事で関節技、制圧技法を増やすものだった。現在では販売されていない。
- D.L.D (Defensive Leverage Device)
紹介記事The Tonfa Enters the 21st Century with the Defensive Leverage Device - USAdojo.com
US4982960A - Two-handle baton - Google Patents
1991年に発明されたD.L.D(Defensive Leverage Device)は2つのサイドハンドルのうち一つが可動するものだ。携行する際はサイドハンドルを寄せておいて、必要な時にロックをはずして先端のほうに片方のサイドハンドルを移動する。内部にはスプリング機構が仕込まれている。デザインしたのはアメリカで格闘技の指導をしているRobert David Margolinだが、彼の道場のサイトは今では消えているし、この警棒も既に販売されていない。
- Winston Police Baton / Winston Control Baton
公式サイトWinston Police Baton - official web site
US5320349A - Curved police baton with cross-handle - Google Patents
1994年、コネチカット州ノーウィッチ警察の警官である Winston Terrenceによって発明されたのがWinston Police Baton(W.C.B=Winston Control Batonともいう)だ。これは全体に微妙なカーブを描いたトンファー型警棒で、この独特の曲がりが打撃や関節技に効果的だとされている。この警棒はまだ販売されており、折りたたみ式のバリエーションもある。(→記事公開後にサイトが消えたのでもう販売されていない)
- TSB45 (Tactical Safety Baton 45)
公式サイトTactical Baton
2002年、ニュージーランドのTank Toddによって発明されたTSB45(Tactical Safety Baton 45)はこれまで紹介してきたものと比べて複雑な機構をもつ警棒だ。2つのサイドハンドルを備えており、伸縮と一つのサイドハンドルを収納することができる。現在でも公式サイトがあることから購入可能だと思われるが、一般に流通していないので詳細は分からない。
- Quick Stick Baton / XTB (Xtreme Tactical Baton)
Quick Stick BatonまたはXTB (Xtreme Tactical Baton)と呼ばれたこの警棒は、トンファー型を基にしているがだいぶ違った形状のものだ。シャベルの柄のような形状で、トンファーのようなサイドハンドルがない。この警棒は2011年頃まで販売されていたが、その後公式サイトが消えた。恐らくもう販売されていないだろう。
- Sidewinder Baton
公式サイトSidewinder Baton(archive)
US5494283A - Crosshandle police baton with hook and arm trap - Google Patents
2005年に誕生したSidewinder Batonはこれまで紹介したトンファー型警棒の中でも突出して曲がりくねった形状をしている。こうなるとトンファーとしての機能よりも制圧、拘束技法、関節技に特化していると考えていいだろう。これは現在も入手可能だが、一般向けにはほとんど流通していない。
- ロシアのトンファー型警棒
ロシアにもトンファー型警棒があり、独自の発展を遂げた。
CAV-2(ПУС-2)という警棒シリーズがそうで、標準モデルで全長660mmと、PR-24よりも長い。そしてサイドハンドルの数が増えたバリエーションがある。
四方にサイドハンドルがあるモデルは持ち歩きにくくないかと思う。
トンファー型警棒の特殊化と衰退
トンファー型警棒は、その応用技法の多彩さから広まったが、それに伴う短所はどうしようもなかった。それは上述した大きさの問題であり、もう一つは使いこなすには訓練時間を要するということだった。やがて警察・警備会社はよりかさばらない、訓練時間が短く済む装備品を求めるようになり、非致死性武器(催涙ガスやティーザーなど)と伸縮式警棒が1990年代には主流となっていった。
PR-24のようなトンファー型から進化し、特殊化していった警棒は、いずれも特化しすぎたために滅びるか狭いニッチにのみ残っている。今回紹介しきれなかったものもあるが、どれも同じような道を辿っている。今後、かつてのように広く受け入れられるトンファー型警棒が新しく生まれることはそうそうないだろう。