シルビア・ラビンも挙げるようにリチャード・ジョセフ・ノイトラの住宅にはいくつかの特徴がある。スパイダーレッグと呼ばれる独特の柱梁構成、交差隅部(mitered corner)、隅部でのガラスの突付などである。最後のものはガラスという工業製品のテクノロジーの顕示ではなく、アンビエントな効果を演出する装置なのであるという。パーキンス邸のクライアントであるコンスタンス・パーキンスは寝室ではなく、やがてこの独特の隅部に置かれたカウチで就寝するようになったともいう。同様のものはもちろん、ほかの住宅にもある。カリフォルニアLSDの支持者でありジッドゥ・クリシュナムルティへの傾倒者であったというロバート・チューイのための住宅にも、これらは登場する(「健康住宅」のロベルといい、ドクター中松のような晩年のウィルヘルム・ライヒといい、LSDとかクリシュナムルティとかオジェイとか、ノイトラは意外と原・ヒッピーのヲッサンみたくカリフォルニア文化のいかがわしさにどっぷりとしている)。
ところで、それ以外にも、ノイトラの住宅によく登場するものがある。パーキンス邸でも、チューイ邸でも、オジェイのムーア邸でも、有名なカウフマン邸でもまず目がいくもののひとつに、水盤がある。水盤はナルシスの寓話にも登場するように、精神分析的には恰好の手がかりになりそうなものである。ビアトリス・コロミーナフロイトの部屋にかかっていた鏡(の位置)を見落とさなかった。
ラビンはなぜか隅部については詳述し、ノイトラの住宅にたびたび登場するこの建築要素にはほとんど言及しない。