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アジア雑語林

2012-09-25

447話 映像がもつ力   ―活字中毒患者のアジア旅行

 

 先日、内容も確かめないまま、昔の番組を放送する「NHKアーカイブス」を見ていたら、その回は「きょうの料理」(1987年放送)の再放送だった。テーマは秋田きりたんぽ鍋。スタジオ収録ではなく、秋田の家庭に行って撮影している。
比内鶏を使うのが、正式なきりたんぽ鍋なのだという。家庭では肉だけでなく、骨も肉と一緒にたたいて肉団子にして鍋に入れるそうだ。「ニワトリは、くちばしと鳴き声以外すべて食べる」というナレーションが流れた。「でも、羽は食わないよなあ」と、チャチャを入れた。
 古い家できりたんぽ鍋を食べるシーン。40代後半と思われる主婦がしゃべりだす。
「昔は、トリの血も使ったね。血を丼に入れて置いて、固まったら鍋に入れて食べてました」。
 不勉強だった。日本人は肉は食べても、血は食べないと思っていた。血を固めたものを初めて見たのはバンコクだった。たいていの日本人は、最初はレバーと勘違いする。タイの食事情を伝えるテレビ番組でも、レポーターが「レバーがありますね」としゃべっているのを何度か見ている。
 鶏の血の話から、『環境考古学への招待』(松井章、岩波新書)や『下級武士の食日記』(青木直己、NHK新書)に触れるという構成を考えていた。江戸武家屋敷跡を発掘すると、庭から動物の骨が出てくるとか、幕末の武士の日記に、肉を買って藩屋敷に帰るという文があったり、江戸の武士も肉を食っていたことがわかったという話をする予定だったのが、気が変わった。NHKに文句を言いたくなったからだ。
 いまも心に残るNHKの番組がある。放送したのは80年代なかばだったと思う。「米作り日本一」(単位あたりの収穫量日本一)となった男をとりあげた1960年代初めの番組があった。その男が、米を作るなという政策になった減反の時代をどう生きているかというドキュメントだ。この30年ほどの間に、日本の農業政策がどう変わり、米農家はどう変わったのかを、過去と現在の映像で見せていくすばらしい番組だった。
 NHKにある膨大な映像資料を生かして、過去と現在をつないでほしいと思ったのだ。現在、「NHKアーカイブス」と「新日本紀行ふたたび」の2本を放送している。数十年前に放送した「新日本紀行」の場所が現在どう変わったかという視点で作った番組で、まさに私が見たかった番組なのだが、実際に放送を見ていると、まったく楽しめない。現在の再取材部分が、あまりにあっさりとしていて味気ない。そのせいで、数回見たらもう見る気はなくなった。「NHKアーカイブス」の場合もやはり数十年前に放送したドキュメントをほぼそのまま放送するだけで、「その後」の取材は電話をかける程度のことしかしていない。取材費に数十円しかかけていない。
 ドラマなら、そのまま再放送してもいい。しかし、紀行番組でもルポルタージュでも、再取材して「今・昔」を紹介すれば、それなりにおもしろい番組になるはずだ。この欄で本の話を書いたときに、出版社は新刊を出すことばかり考えずに、復刊や再編集をもっと考えたらいいと提案した。テレビ番組でも同じだ。過去の財産をもっと有効に使ったほうがいい。
 場合によっては、再取材などせずにそのまま放送してくれてもいい。そう思ったのは、カラーで撮影した戦前期の日本を特集した番組で、日本だけでなく、上海ジャカルタの映像も出てきた。撮影者の名前を見て、びっくりした。岡野繁蔵だ。彼は戦前期に蘭領印度(現在のインドネシア)で百貨店を経営していた日本人で、『南方周紀』(1924年)や、私が大好きな雑学本『南洋の生活記録』(1942年)という本を書いている。岡野が撮影した映像に、戦前期のジャカルタを走る三輪自転車ベチャが映っていた。当時、すでにベチャ走っていたことは、資料を読んだのでもちろん知っている。しかし、活字で読んだことがあるというのと、当時の風景を動画で見たというのでは、感動がちがう。映像がもつ力だ。                                 (2006)
 付記:今調べたら、NHKの米作り日本一のその後を取材した番組とは、「もう米はいらないのか〜「米作日本一」の秋〜」(1981年11月放送の49分番組だ)とわかったが、私はどうやら再放を見たらしい。 

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