880話 イベリア紀行 2016・秋 第5回


 イベリア半島

 ミラノと同じか、あるいはミラノよりは暖かい場所にしようと考えた。ミラノの北ではなく、西に注目すれば、イベリア半島がある。ミラノからマドリッドに飛んだらどうだと航空運賃を調べたら、高い。ミラノ経由にしないで、日本から直接マドリッドに飛んだ方がはるかに安い。そうだ。それならば、きっぱりと北イタリア案を放棄して、スペイン旅行にすればいい。おお、そうか、スペインだ。スペインを思い浮かべただけで、心が躍る。旅行事情の勉強などいらない。スペインがおもしろいことは、すでに知っている。食い物がうまいこともわかっている。
 スペインに行くぞ!!
 スペインの北部、ガリシアバスクにはまだ行ったことがない。スペインの北部と島嶼部にはまだ行ったことがないが、とりあえず島に行く気はない。スペイン全域制覇しようなどという気はないが、ほんのちょっとおじゃましたくなった。カタルーニャと同じように、バスク独立の運動があり、自治州として認められているから、州政府首班(日本語で言えば、首相か大統領ということになる)がいる。おもしろそうだ。
 決まった。スペインなら、廃案にする弱点欠点がなにひとつ思い浮かばない。ガリシア州は、イベリア半島部のスペイン最西端で、州都は巡礼の最終地として知られるサンティエゴ・デ・コンポステーラだ。一方バスク州は、スペイン北部のビスケー湾に面し、フランスと国境を接している。スペイン北部の西と東に行く旅だ。
 飛行機はマドリッドに着く。そのあとガリシア州に行くなら、ポルトガルに寄り道するルートもおもしろい。そう思ったら、リスボンポルトの街が頭に浮かんだ。どちらも、大好きな街だ。ルートを工夫すれば、また、リスボンに行ける、ポルトにも行ける。
 よーし、スペインとポルトガルに行くぞ!!
 そう思ったら、うれしくなった。「よーし、行くぞ!」という衝動が全身にみなぎってきた。私を旅に誘い出すこういう感情が必要なのだ。「ああ、いいな。行きたいな」という感情が湧き出てくる何かがないと、私は旅に出られない。1週間程度の旅なら、香港でもハワイでもいい。何も考えないで、どこに行ってもいい。しかし、ひと月ほど好奇心を持ち続けるには、「よーし!」と私の心を揺さぶる何かが必要なのだ。旅の候補地に選んだニューヨークやサンフランシスコや、マドリッドポルトは、その名を聞いただけで、「行きたい」と思う。下調べなど必要ない。行けば、楽しめるのだ。
 だいたいのコースは決まった。もちろん、いつもの気ままな旅だから、「コース(仮)」でしかない。航空券を買うために、おおまかなコースを考えてみただけだ。東京・マドリッドは、バルセロナ旅行のときに使ったカタール航空にしよう。ポルトガルへは、前回は鉄道とバスを使ったので、今回は飛んでしまおう。マドリッドリスボンの片道航空運賃を調べてみたら、LCCの安い便なら3000円しない。
 スペインの資料はすでにだいぶ買っているので、バスクガリシアの資料を注文した。聖地巡礼の資料が多く出版されているが、私には縁がない。巡礼のまねごとさえする気はない。バスクの資料を読みながら、航空券情報を集め始めた。すると、これが大変なことになりそうだとわかってきた。