929話 イベリア紀行 2016・秋 第54回

 DVDを買ってみる


 散歩をしていて、中古DVD屋を見つけた。2枚で5ユーロという表示がある。スペインのDVDは日本のDVDプレーヤーだと再生できないことが多いが、幸運ならパソコンでは見ることができるかもしれない。以前、ポルトガルで買ったアマリア・ロドリゲス主演の映画は、パソコンで見ることができた。カーボ・ベルデの歌手セザリア・エボラのコンサートDVDは、プレーヤーでも見ることができた。だから、スペインの映画DVDも、もしかして見ることができるかもしれないという賭けをやってみようとも思ったのである。
 基本的に、DVDケースの表示はすべてスペイン語なので、「スターウォーズ」のように、写真を見ればすぐにスペイン映画じゃないとわかるものはいいが、見慣れない役者の顔だと、どこの国の映画かすぐにはわからない。知らない映画のDVDを探すのだから、1枚1枚点検していく根気はない。
 「スペインの映画を買いたい」という表現は、ちょっと問題がある。英語で“Spanish Movie”といっても、スペイン語で”Cine Español”と言っても、「スペインの映画」と「スペイン語の映画」の両方の意味がある。スペインで公開される映画はタイトルがスペイン語というだけでポスターに原語なく、映画の会話も吹き替えられている。だから、基本的にはすべて「スペイン語の映画」ということになる。初めて行った映画館の窓口で、“Spanish Movie”だというので見た映画は、スペイン語に吹き替えられたアメリカ映画”The Accountant”(2016)だった。そういうことがあるから、要注意だと気がついたのだ。
 中古DVD店で、「スペインで作った映画」と説明すると、店長が10枚ほど選んでくれた。そのなかから、私の趣味に合わないアクションやホラーかもしれないという作品をのけると、5枚になり、さらに選別して3枚になった。
 「このうち、1枚外すなら、どれですか?」と聞いたら、「2枚買うなら、1枚はおまけだよ」と太っ腹だったので、次の3枚を購入した。
 ①“BETIBU ②Una Palabra Tuya ③Todo Sobre Mi Madre
 帰国して、パソコンに挿入すると、②が受け付けない。かなり汚れているので、きれいに掃除すると、見られるようになった。③は受け付けたが、再生できない。タイトルをよく見ないで買ったのだが、これは「オール・アバウト・マイ・マザー」じゃないか。すでに見ているし、日本語字幕版を安く売っているので、まあ、よし。
 ①は、最初の2分は、ヒッチコックのようで、うまい。レコードプレーヤーのアップ。自動演奏になっていて、レコードの針が下りると、ベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」が軽快に流れ出す。カメラが窓の外を向くと、家に入ってくる中年女性の姿。どうやら家政婦らしい。音楽が流れている2階に上がる。ステレオに向かって座っている「ご主人様」の胸が血だらけで、家政婦の絶叫。この音楽と殺人現場という組み合わせがいい。おもしろそうだが、会話が多く、筋をつかめなかった。この映画は、アルゼンチンとスペインとの合作で、インターネットで調べると、なんとYoutubeで丸ごと見ることができるとわかった。だから、今解説した、冒頭部分も見ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=Jks379BQ9po
 辞書をひいてもタイトルの意味がわからなかったが、それもそのはず主人公である作家の愛称だった。演じているのは、「モーターサイクル・ダイアリーズ」のメルセデス・ラモーンといった情報は、次の文章でわかる。調べれば、日本語の情報もある時代なのだ。
http://c-cross.cside2.com/html/a10he014.htm
 ②は、2008年の作。「あなたのひと言」とでも言った意味か。日本でも翻訳書が出ている作家エルビラ・リンドの小説の映画化。予告編は、これ。
https://www.youtube.com/watch?v=3O-kvVzQTK8
 30 代後半の女性の友情と愛情と家族の物語。高校時代の友人ロザリオとミラグロスは、マドリッドでばったり出会う。ふたりとも仕事がうまくいかず、いっしょに道路掃除の仕事をすることになった。ロザリオはアルツハイマーの母とふたり暮らしのうんざりする生活のなか、恋をする。その恋人が、アントニオ・デ・ラ・トーレだ。しかし、ミラグロスは同性のロザリオを愛していて・・・という構図に、それぞれの家族の問題がからむ。わかりやすいが、取り立てておもしろいわけではない。しかし、退屈で途中で見るのをやめるほどつまらないわけではない。だから、一応、最後まで見た。同世代の女性には、感動作かもしれない。