985話 大阪散歩 2017年春 第24回

 大阪とそば


 長い間気になっていたのは、大阪とそばの関係だ。関西はうどん文化圏だということはわかっているが、そばの事情がわからない。京都ではニシンそばが有名で、ニシンうどんというのもあるが、圧倒的知名度は「ニシンそば」だ。それに匹敵する大阪のそばを知らない。
 タウンページによる全国そば屋店舗数ランキング(人口10万人当たり)では、大阪府は36位で、以下香川、奈良、和歌山などがいる。「そんなもんか」と理解できないでもないが、うどん屋店舗数ランキングで全国31位だというのは変だ。この数字は、うどんとそばの両方を出す店の扱いが不明だし、そば店ランキングで沖縄が上位にいるのは、「沖縄そば」(うちなーすば)をそばに分類しているからで、これはそば粉の麵ではなく、小麦粉の麺だ。
 こういう統計は役に立たないが、好奇心あふれる人が調査した資料は説得力がある。
 鈴木弘毅による著作『ご当地「駅そば」劇場』(交通新聞社、2010)と『東西「駅そば」探訪』(同、2013)を紹介する形で、そばとうどんの話は、このアジア雑語林の480話と640話でしている。今回取り上げる東西比較の話は640話に概要を書いている。
http://d.hatena.ne.jp/maekawa_kenichi/20141122/1416632345
 鈴木氏は「駅そば」という語を好んで使う。かつては「立ち食いそば」と呼んだ店は、現在は店舗面積に余裕があれば、椅子とテーブルを用意した店舗に改装が進んでいるので、「立ち食い」ではなく、「駅そば」という表記を使っている。鈴木氏の調査では、そばとうどんの両方を扱っている店だと、客の注文は関東では「そば7:うどん3」、関西では「半々」だという。「関西は、圧倒的にうどんが優勢」というほどの差はないらしい。そういう予備知識があって、大阪を歩くと、なるほど、「そば」という看板、のぼりをよく見かける。ランチタイムに行列ができているそば屋もある。食品サンプルを見る限り、その店で出す料理のほとんどはそばだ。
 散歩をしていて見かけるそば屋の食品サンプルには、汁そばが多く、ざるやせいろは肩身が狭そうだ。「関西人は、ダシの味が大好きで・・・」といった話は何度も耳にしているから、私の勘は当たっているのかもしれない。ただ、「ここ10年ほど、関西でもそばが流行っていて・・・」という京都や大阪の知人の話もあるが、うどん屋チェーンも増えているので、うどんとそばの勢力関係はよくわからない。
 大阪散歩のある日、駅周辺で「そば・うどん 阪急そば」という看板を見かけた。「阪急うどん」じゃないんだ。「東京ではよく『そば屋』というが、関西では『うどん屋』が普通」だと年配の関西芸人が言っていたが、その発言が正確ではないのか、時代が変わって「そば」が優位になったのか。
 「阪急そば」が気になって、写真入りメニューを読む。
12枚の写真があって、そば6品、うどん6品というバランス。このメニュー写真だけで見る限り、鈴木弘毅氏が書いていたように、そばとうどんは、半々のシェアーだ。
「これは、東京ではあまりないだろう」というのは、にしん、きざみ(油揚げを細く刻んだもの)、こんぶ、そして、肉そば(うどん)などだ。ただし、関東では今までマイナーだった「肉うどん」は、丸亀製麺やはなまるなどでは、「肉うどん」や「牛肉うどん」はある。
 店の品書きを見ると、「こぶうどん」や「牛すじうどん」などが東京にはあまりない料理かもしれない。
数年前に、大阪でうどんばかり食べてみたことがある。昆布ダシと青ネギのせいで、丼のうどんの風味が関東のものとだいぶ違う。汁の味は、私は関西風が好きで(それよりも、うどんも汁も、讃岐の方がより好きなのだが、それはともかく・・・)、東京のうどんにいいところなどなにひとつないのだが、大阪のうどんの汁が塩辛くて飲めなかった。10店中、8店の汁は半分も飲めなかった。
 大阪のうどん専門店の、この写真のカレーうどんは、いままで食べたなかで最悪だった。こういう味が、大阪好みなのだろうかとも思ったが、いままで大阪や京都や奈良で食べたカレーうどんと比べても、別格にまずかった。カレー風味の葛湯に浸かったふにゃふにゃのうどんだった。


 [雑談をちょっと]5月20日、東京日本橋で天下のクラマエ師&小川夫妻に会った。帰りがけに「アメ横に寄って行きますが、一緒に行きます? 今はケバブ屋のアメ横ですよ」と誘うと、「じゃあ、行ってみますか」と乗ってきた。そのあとのセリフが恐ろしかった。「そういえば、前にも、いっしょにアメ横に行ったよね」と蔵前さんが言うと、小川さんが「そうそう、前川さんの案内で行ったね」という。オイオイ、ソンナ記憶ハナイゾ。3人でアメ横に行った記憶は、ナノレベルに至るまで、まったくない。
 小川さんに再確認をすると、「記憶違いじゃないよ」と自信を持って言う。私が覚えていないことを、蔵前さんが覚えている。オカシイ!! 蔵前さんといえば、記憶力の脆弱さでは他の追従を許さないというほどの自信を持っている人で、「まるで覚えていないんだ」が口癖だ。その人の記憶力よりも、「そんな細かいことを、いつまでも覚えていて・・」と馬鹿にされる前川の記憶力の方がはるかに劣るという現実。甲子園出場常連校が、地区予選の第一戦で10人しか部員がいない新設校にコールドゲームで負けたような敗北感。