1058話 イタリアの散歩者 第14話

 いつものように、トイレの研究。今回は、ちょっと深い。 その2


 体験2 便座がない
 個室の便器は腰かけ式で、アルベロベッロでは便座があったが、便座がない方が多い。博物館などで、ペーパータオルを常備している施設があるのだが、「紙タオルを買うカネがあるなら、便座を買え!」という意見に日本人は大賛成してくれるだろうが、イタリア人は違うらしい。「他人が使った便座は汚くていやだから、便座がない方がいいと考えている」という説がブログなどで紹介されているが、そういう人は便座を使わなければいいのだ。ということは、家庭のトイレには便座があるが、公共のトイレでは便座を使わないという人が多数ということなのだろう。
 便座がないということは、「空気椅子」スタイルで用を足すか、便器に乗ってしゃがむなどの方法がある。「便器に乗るな」とい注意書きが世界のいくつもの国にあることは知っている。ということは、便器に乗ってしゃがむ人が少なからずいるということである。タイでもほかのアジアの国々でも、便座に足跡がついていたという報告を何例も耳にしている。便座に登ってしゃがむ人がいるから、便座がすぐ割れて、撤去ということになる。だから、初めから便座をつけないのだ。
 あるテレビ番組で、ヨーロッパのどこかの国で、「便座なしで、どのように用を足すのか」の街頭調査をやっていた。おばちゃんが、「こうするのよ」と見せてくれたのは、空気椅子スタイルだった。
 日本人でも、便座が要らないという人がいる。潔癖症の人は、誰が使ったかわからない便座に腰掛けるのが嫌なので、外出時に日本では、しゃがみ式便器を探して用を足すという人がいる。腰かけ式しかない場合は、空気椅子方式だそうだ。
 体験3 「大小」
 「便器に『大小』を区別するレバーがついているのは日本だけだ」という説を何かで読んだ。こういう「日本だけだ」説というのはあてにならないという例はよくあるのだが、この説を検証するには数をこなさないといけない。
 カンボジアで使った便器には「大小」の区別があり、「ああ、外国でもあるんだよな」と思ったあと、「大小? 日本語だぜ」と気がついて二度見した。TOTOの製品で、日本仕様品を輸入したのだ。そのときふと思ったのは、衛生機器に中古品市場というのがあるのだろうかということだ。ホテルや事務所などが大規模リフォームを行う場合、中古品も洗浄すれば使えるのだから、中古便器の輸出もありうるのだろうか。
 カンボジアで「大小付き便器」を見つけてから長い年月が流れ、イタリアで出会った。日本製ではない。水量に大小の区別があるタンクだ。私が見たのは、便器とタンクが別になっているスタイルがほとんどだったのだが、タンクの上に三角の押しボタン状のものがあり、小さな三角とそれを含む大きな三角があって、「大小」を選べるようになっている。イタリア人も、節水を考えたということか。
 体験3 男女の別がない
 日本の喫茶店や食堂などで、トイレがひとつだけだから、男女共用になっているというのは、日本の常識ですぐわかる。ところが、これとは別の男女共用トイレをイタリアで体験した。ある博物館でのこと、トイレに行くと、入り口に男女の絵文字が並んでいる。通常、天井からぶら下げた看板などに、男女のマークと→があって、それがトイレの位置を示すサインだということはある。その矢印の指示通りに進むと、トイレがあり、男女それぞれのトイレに分かれるというのが世界標準だと思っていた。
イタリアにもそういうトイレがある。しかし、違うトイレもあった。イタリアで私が何度か体験したのは、男女マークがあるドアを押して入ると、個室がふたつ並んでいる。それぞれのドアに男マーク、女マークがついている。洗面所とドアの前が男女共用の空間である。当然、ここには男子小用便器はない。
 こういうトイレをどう解釈したらいいのか考えていて思い出したのは、アメリカにおけるジェンダー・フリーのトイレのことだ。体は男だが、男用のトイレには入りたくないが、女用に入ると、警察に通報されるというような人でも、これなら使えるというトイレがこれではないか。たぶん当たっていると思うが、アジアの女性はダメだろうな、おばちゃんは平気だろうが。
 体験4 ホース付き
 安ホテルの共用トイレ&シャワーだったと思う。普通はそういうトイレでもビデはあるのだが、そこにはビデはなく、その代用だと思われるのが、便器脇にある水道ホースだ。その姿は熱帯アジアでよく見るものと同じで、そういうトイレでは、水と左手がトイレットペーパー代わりだ。便器がビデにも使えるという設備だ。イタリア在住の非ヨーロッパ人にもありがたい設備だろう。
 まだ、書いていない話題があるから、この章はまだ続く。


 このように、便座がない。B&Bは民宿なので、便座もフタもあった。ホテルでもある。公共トイレに「便座なし」が多い。


 こういうホテルのトイレ。タンクの上部をよく見ると・・・


 このように三角形があって、小さい三角は小用、大きな三角は大用。