1125話 ダウンジャケット寒中旅行記 第9話

 オーディオガイド

 博物館などのオーディオガイドはあまり利用しないが、どうしても詳しい説明を聞きたいときには、英語対応の機器を借りることはあった。日本語対応の機器を初めて借りたのは、台北超高層ビル台北101だった。台北の雑学を知りたいと思っていた時に、日本語対応の機器が用意されていると知って借りた。
 アルハンブラ宮殿の入口近くでオーディオガイドの貸し出しを熱心にやっているスタッフがいた。
 「いかがですか、役に立ちますよ」とにこやかに語りかけてくる。
 「日本語版があればいいんだけどねえ」と婉曲的に断ったら、「ありますよ!」言われてしまい、借りることになった。数年前から、旅の資料を日記に張り付けているので、その日のレシートもある。GVAMという会社がやっているもので、貸し出し料金は4.96ユーロ、それに「IVA21.00%」(付加価値税)が1.04ユーロかかり、合計6ユーロになる。21%は最高税率だ。外国人の利用が多いから、最高税率にしたのだろうか。
 借りたガイドの日本語が、どうも怪しい。スペイン語ができる日本人が翻訳したのだろうが、その日本語がおかしい。日本語の単語が並んでいるのだが、ちゃんと聞くと意味がつかめない。直訳だ。もしかして、日本語を勉強したことがあるスペイン人がパソコンの協力を得て翻訳したものかとも思ったが、自動翻訳ほどはひどくないので、日本語が不自由な日本人が翻訳したのだろう。その翻訳原稿を読んでいる人も、ど素人だ。翻訳がおかしいので、耳を澄まして、注目ならぬ注耳していると、「ゆば」という訳の分からない語が出てきて、頭をひねっていると、もう一度「ゆば」。住宅の説明だから、これはたぶん「浴場」のことだ。この漢字が読めないのですなあ。「ゆ」は「湯」であって、「浴」じゃないし。


 前を歩いていた学生ツアーのガイドが、「ここが昔のトイレです」と説明しているのが耳に入り、どれどれと覗いて写真を撮った。以下、住宅跡があれば、トイレを探した。下の写真が、それだ。この型からして水洗方式なのだろう。住居址のなかで、唯一生活の残滓を残しているのがトイレだった。穴が二つあるのは、二人用か? わからん。


 夕方になり、アランフェスが見わたせる丘に登った。

 高性能カメラなのでこんなに明るく映ったが、家の影に入ると、すでに人の顔がよくわからない。旅行者は、夕焼けのアランフェスを期待して丘を登る。混む前に、私は坂を下った。