1165話 桜3月大阪散歩2018 第19回

 うなぎと卵焼き

 関東と関西を比較する意味で、大阪で食べてみたいものがふたつあった。
ひとつは、うなぎだ。関東式のうなぎは、背開きで、白焼き→蒸す→タレをつけて焼くという順で加熱する。関西式は腹開きで、蒸す過程がない。それがどういう感触で、味に違いがあるのか知りたかったのだ。
 実は、私はうなぎをそれほど好きではない。しかも、うなぎは高い。5000円もするうな重を、ひとりで寂しく食べるのもつまらないとも思っている。それだけのカネを一食に使うなら、もうちょっとましなものを食べたいという気がする。大阪の、その辺のうなぎ屋で食べると、今は関東式が多くなったという情報に逆に助けられた。ご飯とうなぎしかない食事は退屈しそうで、高いカネを使って退屈するのは嫌だなあなどという、「食べなくてすむ屁理屈」を見つけて安心した。
 大阪で食べてみたいと思っていたもうひとつは、卵焼きだ。関東の卵焼きは甘いが、関西の卵焼きは甘くないという話をよく聞く。今まで、旅先で卵焼きを食べることはなかったので、大阪の卵焼きも食べたことがない。旅館に泊まらない私だけの常識かもしれないが、旅先で卵焼きはあまり食べないものだ。だから、この機会に、大阪で卵焼きを食べてやろうと思ったのである。
 大阪に行く前に調べておいたのは、卵焼きの「甘い」と「甘くない」の全国分布はどうなっているかということで、ネットで調べたら簡単にわかった。これによれば、関西だけが甘くないらしい。
https://youpouch.com/2017/09/09/457948/
 上の資料はあまりに単純化してあるので、さらに資料を探すと、こういうのがあるし、これ以外にも多くある。
http://j-town.net/tokyo/research/results/212476.html?p=all
 偶然だが、大阪第1日目から、卵焼きを食べることになった。
 新今宮駅周辺には飲み屋はあるが、食事ができる店は少ない。その日の夜も、食事をしないまま宿近くまで来てしまい、「さて、どうしようか」と考えた。新世界に行くと食事ができる店はあるが、酔っ払いといっしょに食事をする気はないし・・・と考えていたら、目の前にオリジン弁当があった。卵焼きが入っている弁当を買って宿で食べることにした。卵焼きの量は少ないが、甘くないことがよくわかる。ダシが勝負の卵焼きだ。

 このオリジン弁当で「大阪らしい」のは、多分、甘くない卵焼きだけだと思う。

 卵焼きに出会った2度目は、天神橋筋の定食屋。普段の生活では、定食のようなものは自宅で食べているから、外食で注文することはないのだが、今回は大阪人の普通の食べ物を知るのが目的だから、定食が便利なのだ。この店のメニューに「卵焼き定食」があるとこを確認して店に入った。普段、定食を食べないので、「卵焼き定食」なるものの全国各地に普遍性があるのかどうか知らない。特に関西に多いのかと思ったが、ネット情報ではほかの地方にもあるようだ。「卵焼き定食が関西に多い」と考えたのは、関東の甘い卵焼きはおかずになりにくいと思うからだ。目玉焼きやオムレツなら朝定食向きだが、大阪の甘くない卵焼きでも、昼や夜のおかずがそれ1品だけでは物足りない。だからこの、「卵焼き・トリから揚げ定食 600円」は安くてありがたい。この店には、卵焼きともう一品を組み合わせた定食がいくつかある。
 考えてみれば、一度にこれほど大きい卵焼きをひとりで食べるのは初めてだ。カウンターの向こうが調理場なのだが、卵焼き係の手元がよく見えないので、卵に加えた調味料が何かわからない。ダシと塩は確かだが、それ以外わからない。この店の卵焼きは、予想していたとおり甘くはない。砂糖はまったく入っていないか、それとも隠し味程度に少量入っているのかは、私の舌ではわからない。味に関して特筆すべきことは何もない。「まずい」という味ではもちろんないが、「特段、うまいというわけでもない」という味で、それは「いつもの普通のご飯を提供する定食屋」として正しい姿勢だと思う。
 定食屋で出入りするようになって気がついた話は、次回に。


 トリから揚げにはしっかり味がついているが、レモンかカラシが欲しかったが、どちらもなかった。この日の昼は、じつは大阪では古くからあるメニューのひとつ、ビーフカツサンドにしようかと思ったのだが、店頭に長蛇の列ができていたこともあり、サンドイッチの半額の定食にした。