報告書「IPv4アドレス枯渇に向けた提言」

ついに出ました。リリースまでは、山登りの気分。ここが頂上かと思ったらもう少し上があるぞ、みたいなことを何回かやって、やっとたどり着きました。

ここ1年くらい、APNICのGeoff HustonやciscoのTony Hainがレポートしているように、IPv4アドレスが枯渇する日も近いのではないかと言われています。彼らの報告によると、一番早い線を引いて2009年、遅くても2016年には、RIRからIPv4の在庫がなくなるということです。但し、こういったことは英語では報告されているのですが、日本語になったものがなかったし、ちゃんと精査してみたという人も少ないように思いました。自分も含めて。

そういうわけで、JPNICに専門家チームという仕組みがあるのを利用して、チームの名前がちょっとながくなっちゃったのですが、「番号資源利用状況調査研究専門家チーム」というものをIPアドレス検討委員会のサブワーキンググループ的に2005年12月に設立しました。
近藤邦昭チェアの下毎週宿題つきのミーティングをやるくらいの勢いで上の論文の精査や枯渇状況で何が起こり始めるのかの予測などの作業をやって、最終的にはISP,ベンダ,サービス提供事業者,ユーザといったいろいろなプレイヤーの方々に対する提言という形で報告書に仕上げてもらいました。

http://www.nic.ad.jp/ja/research/ipv4exhaustion/
こちらからご参照いただけます。


上の2つを含む英語の論文の和訳読み下し部分が50ページ含まれますが、全部で100ページを超える大作となりました。

僕自身も「IPv6シングルスタックが今のインターネットにつながってきたらどうなるか」という部分を執筆したりしました。全体的に冷静に、何が起こったのか何が起こりそうなのか、ということを書き連ねてあります。

そういう意味では淡白な報告書になっているのですが、こういう形でひとまとまりになった論文は、今まで世界的にないと思いますんで、結構注目を浴びると思っています。英訳版も5月にはリリースしますし、それを全世界的に見てもらって、予測の精度を上げて、定期的に改版した報告書が作れればいいなと考えています。そう思うと一大事業となっちゃいますね。

もうひとつ大きなことは、ちょっと変な話ですが、IPv6推進に携わる方々が執筆陣に入っていないことが挙げられるんじゃないかと思います。
最近のIPv6推進はインターネットからちょっと離れているように思うんですね。テレメトリック,nonPC,ビルマネジメントといったところで、その技術的優位性を発揮しているところですが、インターネットをIPv6にしていくというのは、そういったIPv6技術自体の推進とはまた違う、「インターネットの運営」という観点のテーマだと思うんです。そういう観点にこだわって作った、という感じで見ていただけると嬉しいです。

合言葉は、「近いうちになくなるけど、騒ぐな。淡々と準備をしよう」という感じでしょうか。

リリース前にやっとIPv6担当理事である荒野高志さんに目を通してもらったんです。実は荒野さんもご自身の会社でインターネットの移行というテーマのご研究もやっていらっしゃるらしく、もしその方向性と違うなんてことになったらどうしよう、と内心びくびくだったのですが、返ってきた反応は、「凄く良く書けてます、宣伝しまくりますね」でした。良かった。

 
Geoff HustonはIPv6にいつかは移行しないといけなくなるということを、淡々と論拠を挙げて行くような仕事をしています。が、http://d.hatena.ne.jp/maem/20060307 に書いたとおり移行は相当に難しいという観測をしています。一言でいうと移行投資の経済合理性を満たすといえるのがもっと先だ、と言っているのですが、業界の中の風通しが割りと良く、やるべきことを生真面目にやるような性質の日本のコミュニティで、鶏と卵の問題をいち早く解くキッカケを作っていけたらいいなぁと思うのです。

荒野さんがblogに書いてくださったので、トラバっておきます。