今日の長門有希SS

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 テストが目前に迫り、ハルヒが気まぐれで始めたSOS団での勉強会がすっかり恒例行事となり始めたある日の事だ。
「珍しく真面目にやってるんだな」
 コスプレ衣装を見る事が出来ないとの理由で早々にリタイアした谷口が教室で机に向かって勉強をしていた。さすがにテストの日が近づいて来ているから、こいつでも必死になるのだろう。
 しかし、虫眼鏡を持っているのは何故だろうな。
「聞いて驚け、テストの為の秘術があるんだ」
 どうせロクな事じゃないと思うが言ってみろ。
カンニングペーパーだ」
 聞くんじゃなかった、と俺は思った。
「ただのカンニングペーパーじゃないぞ。ほら見ろ、肉眼じゃ判別できないんだ」
 米に書いた文字みたいなもんか。で、肉眼で判別出来ないものをテスト中にどうやって見る気だ?
「はっ……」
 今まで気付いていなかったのか。正真正銘のアホだな。
「そんなの作ってないでちゃんと勉強すればいいのに」
 国木田はしょうがないなあという顔で「勉強会に参加したら?」と言うが、谷口は嫌そうな顔でそれを拒否する。思惑通りにいかなかったのがそんなに尾を引いているのか。
「楽してテストで良い点取れる機械でもあればいいのにな」
 最終的に谷口はどこかの国民的知名度の眼鏡少年みたいな事を言いだした。確かに便利だとは思うが、そんなもんがあるはずはない。どうしようもない奴だな、全く。


「休み時間に話してるのがたまたま聞こえちゃったんだけど」
 放課後、隣に座っていた朝倉が小声で囁きかけてきた。
 休み時間って……なんの事だ?
「ほら、テストでいい点取れる機械が欲しいとか言ってたよね」
 そういえばそんな話もしていたな。まあ、谷口の戯れ言だから気にするな。
「ちょっと考えてみたんだけど、小型のイヤホンを耳に入れて、誰かに答えを教えてもらったらどうかな?」
 そんなもんを真剣に考えるな。と言うか、それ答えを教える役は誰がやるんだよ。
「駄目かなあ」
 そもそもあいつの言っていたのは、勝手に答えを書くペンとかそんな感じの便利アイテムだと思うぞ。
「それでしたら、片方の眼球にコンピューターを仕込んで問題を見ると答えを脳に投射するような機械はどうでしょう」
 そんな事のために片目を失いたくはないです、喜緑さん。
「そうですか、残念」
 もし「良いですね」なんて賛同したら速攻で埋め込んでくるような気がした。この人相手には油断できない。
「ちょっと、なにおしゃべりしてるのよ」
 声のした方に目をやると、ハルヒが口を尖らせて俺を見ていた。そういや朝比奈さんや鶴屋さんと勉強していたはずの喜緑さんがいるのだから、ハルヒが怒るのも無理はないかも知れない。
「テストでいい点が取れる機械がないかという話だ」
「……」
 ハルヒは呆れた様子で、ふうと深くため息をつく。
「そんなもん出来るわけないでしょ」
 それはまあごもっともではあるのだが、この二人の技術があれば実現不可能ってわけでもないんだろうなと思った。


 さて、その帰り道。
長門ならどういう風に実現する?」
 いや、別に長門にその機械を作って欲しいとかいうわけではないが、興味本位で聞いてみた。
「……」
 長門は首を傾けてしばらく沈黙。俺の質問に呆れてる……ってわけじゃないよな。
ニューロンに刺激を与える事によりシナプスの伝達効率を向上させる」
 ややこしい専門用語ばかりだが、どこかで聞いた単語だ。
 えーと、つまり……
「勉強しろって事か」
「そう」
 長門はこくりと頷いた。