カエルの声がかまびすしい

 近所の田んぼに水が入って、空を映し時々風のざわめきを現している。今年も田植えの時期が迫ってきた。夕方にT製材の社長Iが「一週間以内に建屋を壊すので祭のヒソの置き場所を考えてもらいたい」と言ってきた。県道拡幅工事で製材所が立ち退きになり、代替の猿川地区に新工場が完成したので移転するのだ。これまでは秋祭りの幟の柱をずっと工場の軒下に吊るしていたのだ。
 4月の川掃除の折に出ていた課題であったが、お寺あるいはM家で保管できないだろうかとその時の仮結論はある。明日以降に当事者に聞いてみよう。

 思えばT製材は旧我が家に隣接し、操業時間中、動力であった大型発動機の運転音が家中に響き渡った。さらに、振動さえも家を揺るがしていた。そのリズムは「タンヤ、タンヤ、タタタンヤ」だと誰が言ったか知らないが子供の頃の記憶の底に今も残っている。
 旧家の二階への階段を上がって折り返したところに少しのスペースがあって、そこには少しばかりの書籍棚があり、私の勉強場所にしていたが、小さなガラス窓を空ければ1メートルほどで製材所の壁があった。窓はいつもは締まっていたが、桟にはひきこ(おがくず)が積もっていた。小学校5年生までの記憶であるが懐かしいというよりも今思えば腹立たしい思いが強い。現代では明らかに騒音公害である。
 親戚の家業であったので何も言えずにがまんしたのであろうが、自然が奏でるカエルの声とは雲泥の差であった。