無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

生存者のロック。

スクリューボール・コメディ

スクリューボール・コメディ

 傑作ライブ盤『ハイ・タイド・アンド・ムーンライト・バッシュ』と映画『UNCHAIN』のサントラをはさみ、オリジナルとしては『ウィンズ・フェアグラウンド』から実に2年半ぶりとなる新作。素晴らしい。ソウル・フラワー・ユニオン(以下SFU)として、間違いなく現時点での最高傑作と言っていいアルバム。民謡、アイヌ、沖縄、アイリッシュ、様々な音楽を取り込んできた彼らだが、これまではその雑食ぶりがどうも曖昧な印象を与えていたフシがあったと思う。単なる好奇心ではないのは分かるにしても、そのゴッタ煮音楽の着地点が見えていなかったように思う。しかし、前述のライブ盤をはじめ、ここ最近のライブでは明らかにその焦点が絞られてきているのを感じた。キーワードは「ロックンロール」。実にシンプルに、ピンポイントで狙いを定めている。バンドのグルーヴも美しいメロディーも盛り上がるコーラスもおはやしやチンドンも、すべてがロックに向かっている。本作ではビッグバンド風の「ダイナマイトのアドバルーン」、ラテン系の「オーマガトキ」などまた新たな趣向ものぞかせている。これぞ雑種天国。
 音楽的な面で言えば、これまでのSFUに比べてゲストミュージシャンの数が少ない。フィドル、ホーンセクションなど、必要最小限のサポートにとどまっている。本作ではドラマーも固定だ。インディーになり、単純に制作費が少なくなったというのもあるだろうが、これが実にいい作用をもたらしている。アルバム全体に一貫した熱のようなものが流れていて、統一感がある。この4人で出きることを突き詰めたらこうなった、というバンドのコアな部分がしっかり見えるのがいい。そして精神的な部分では、どんとの死が中川に与えた影響は大きかったのだろう。どんとへのオマージュ、供養と言える「サヴァイヴァーズ・バンケット」でこのアルバムは幕を開ける。「みんなどんどん死んでいくねんね。生き残った奴らはどないしていくねや、みたいなね。はっきりと出さなあかんな、って」と最近のインタビューで中川は言っていたが、これが全てを表しているだろう。過去を振り返るでもなく、毎日をお気楽に過ごすのでもなく、しっかりと前を見据えて今を踏みしめる意思。それがロックンロールとして鳴らされている。で、このアルバムが実は今の日本のシーンのド真ん中を撃ち抜く破壊力があることが、うれしくてたまらないのだ。
 このアルバムは「死んでいない=生き残った」者の決意表明だ。しかし、決して「生きろ」とは言っていない。でも、確実にこうは言っている。「お前らはどないやねん」と。そして生存者たちの宴は続く。
High Tide And Moonlight BashUNCHAIN