『黒冷水』(羽田圭介)

黒冷水 (河出文庫)

作者は当時17歳だったそうだ。なめていた、と言ったら言い方が悪いが、実際そうだった。
貧困な語彙力、独りよがりなストーリーを覚悟していた。
ただ、若さが訴えかける情熱的な主張に興味があって、この本を開いた。


しかし・・・
思っていたのと全然違った。なんだ、これ?
話はうまい。いやらしいような上手さ、本当に17歳の高校生が書いたの?これ。
執拗で陰険な争いの描写といい、劇中劇のような巧みな物語の構造といい、ちゃんと小説という商品になっている。


さて、兄弟ってこんなに憎しみ合えるものなのか。
私にも妹がいる。5歳も離れているから、喧嘩なんかしないでしょうとよく言われるが、そんなことはない。よく大喧嘩をしたものだ。
私が小6のとき妹は小1、私が高3のとき妹は中1、相手になるわけがないのに、それでもよく喧嘩した。
怒られるのは決まって私の方だった。ま、それは今思えば当然なのかもしれないけど、当時は不公平だと思っていたような気がする。


私が大学に入って家を出た後、両親が転勤になり、高校生の妹はついていかず下宿することになった。
私も妹も親元を離れる形になり、たまに手紙をやり取りしたり、カセットテープを交換したりした。
もともと、そんなに仲が悪い方ではなかったのだ。
じゃあ、なぜ一緒にいるとき、あんなに喧嘩をしたのかと言うと、親の目が気になったせいだったんじゃないかと、自分なりに分析する。
妹が何か侮辱するような一言を言う。別に相手にしないこともできるのだけど、親がいなければもちろん、そうするのだけど、親の前では自分が侮辱されたままでは我慢がならないのだ。上手く言えてないけど、ひどいことを言われて、それに言い返さず我慢する「良い子」になりたくなかった。
妙な天邪鬼だったからな。親の前ではいつも、悪い子でいたかったのだ。というか、照れくさいので誉められたくなかったのかな。その分、外では良い子だったのだけど。


その後、妹も高校を卒業と同時に上京し、社会人2年目の私と生活することになる。
たまに母親が様子を見にくると、やっぱり喧嘩をしてみせる。
いないときは、喧嘩なんて全然しないのに。変だな。
妹も、私と二人のときはそんなこと無いのに、親がいる前だと私に向かって辛らつなことを言い出す。何なんだろう、あれは。


そんな感じで、とにかく今でもまあまあ、姉妹の仲は良い方なのだが。


こんな兄弟がいるのか? いるものか、いや、やっぱりいるかも。
そんなくらい、この小説にはリアリティがある。
やっぱり、ありかな。
男兄弟は、多かれ少なかれ、叩き合いはあるものだよね。多分。
それでも心の奥のどこかで、お互いを認めるものだけど、彼らにはそれがない。徹底的なまでに。そこがフィクションとして面白い。うん、面白かった。
兄弟は一番近くにいる他人だということ。
生まれて最初に出会う競争相手でもある。
兄はチャンピオン、弟はチャレンジャー。
だからこそ、いつかは認め合わなきゃいけないんだけどねぇ・・・。