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明日のコンステレイション

2009-01-05

佐藤春夫「美しき町」

| 18:26

建築マニアの幸福な小説〜

佐藤春夫がどんな作家かと定義するのは難しい。大正中期から昭和30年代と活動期間が長く、「田園の憂鬱」のような純文学作品から「神々の戯れ」のようなエンターテイメント色が強い作品まで広い作風で小説を書き、詩人でもあった。

そんな佐藤春夫は普段から「作家よりも建築家になればよかった」とぼやくほどの建築オタ。彼のその趣味が溢れ出し、しかも文学的に高い完成度を持つ未曾有の小説、それが1919年に書かれた「美しき町」だ。

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)

美しき町

画家である主人公は資産家となった旧知の友人・川崎と再会する。川崎はこの資産を使って東京の一角に理想都市区画を建設する計画に主人公を誘う。場所の選定、老建築技師の参加、そしてミニチュアの完成模型の作成などを経て計画は着実に進んでいく。ところがある日、川崎の口からこの計画の驚くべき事実が話される。

長い作品ではないがその中にかなりたくさんの要素が詰まっていて読者を次々と刺激してくれる。何より純文学とエンターテイメントの折衷的なところを狙ったバランス感覚が心地よく、建築関連の描写は相当マニアックで実にリアルでそそられる。実際、大正のこの時期は五島慶太田園都市計画にしろ武者小路実篤の新しき村にしろ個人中心の大規模プロジェクトが特別突飛というわけではなかった。もちろん構成も秀逸で、衝撃的な展開から導きだされる佐藤春夫らしい味わい深い読後感は小説として至高の出来だ。

SF的発想とリアルをうまく織り込んだ「美しき町」はラノベ好きから文学オタまでも満足させ、しかも作者がばっちり趣味を発揮できたという点で非常に幸福な小説と言えるだろう。

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