40歳アリリタ(早期退職)達成者のブログ

メインは書評(自分語り)。色々と経験する中で自分の生き方が固まり、2014/11/02の記事を集大成に方針確定。2020年3月末、40歳にてアリリタ達成!

菊と刀

菊と刀 (講談社学術文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

アメリカが終始一貫して物量の増大に専念したように、日本は非物質的手段を利用する点において完全に首尾一貫していた。彼らの言によれば、精神が一切であり、永久不滅のものであった。


日本人はたえず階層制度を顧慮しながら、その世界を秩序づけてゆくのである。家庭や、個人間の関係においては、年齢、世代、性別、階級がふさわしい行動を指定する。政治や、宗教や、軍隊や、産業においては、それぞれの領域が周到に階層に分けられていて、上の者も、下の者も、自分たちの特権の範囲を越えると必ず罰せられる。「ふさわしい位置」が保たれている限り日本人は不服を言わずにやってゆく。


日本人は従来、常になにかしら巧妙な方法を工夫して、極力直接的競争を避けるようにしてきた。日本の小学校では競争の機会を、アメリカ人にはとうてい考えられないほど、最小限にとどめている。「恩」に立脚する倫理には競争を容れる余地はごくわずかしかない。それぞれの階級の遵守すべき規則を細かに定めている日本の階層制度全体が、直接的競争を最小限度にとどめている。家族制度もまた、それを最小限度に制限している。
どんなところにも姿を現す仲介者の制度は、日本人が互いに競争しあう二人の人間が直接顔を合わせることを防ぐ顕著な方法の一つである。もし失敗すれば恥を感じるような場合にはいつでも中間者が必要とされる。


日本人の恒久普遍の目標は名誉である。他人の尊敬を博するということが必要欠くべからざる要件である。その目的のために用いる手段は、その場の事情の命ずるままに取り上げ、かつ捨て去る道具である。事態が変化すれば、日本人は態度を一変し、新しい進路に向かって歩みだすことができる。日本人は態度変更を、西欧人のように、道徳問題とは考えない。彼らは古い主義を固守する道徳的必要を感じない。



感想
日本人論については前々から深めていきたいと思っていた分野なんだけど、このたびようやくその原典・古典ともいえる本書を読むことができた。一読して思ったのは、訳者も言ってることだけど、著者の日本人についての理解の深さ。日本に来ずして、ここまで分析できるんだなあ。すごい。
そして、アメリカ人の戦略性の高さも感じた。この日本人分析は、日本占領に利用するために行われた。実際、上手いことやり遂げたもんなあ。(まあ、イラクの時はどうだったんだ?とは思うけど。著者みたいな人がいなかったのかねえ。)
日本人は大局から見るよりも、現場の積み重ねを重視する。「もしも」に備えないってのもそれと同じ。それが、あの原発事故を招いた。本当、これは昔から続く日本人の性向なんだろう。
もしも日本人が、韓国併合の際に同種の調査をしていたら、現代まで残るほどの根深い確執を生まずに済んだのかなあ。それを考えるような戦略性があったら、大東亜戦争の結果も違ったものになったのかもね。それより、そもそもあの戦争は起こらなかったか。


「恩」について。孝と忠。確かにそれは、日本人の大きな特徴・伝統だったんだろう。今でも残ってはいるけれど、往時の強制力はない。同じことは「義理」や「分をわきまえること」にも言える。そういったしがらみから解放されてきた日本人。でもこれが、社会に一体感や秩序をもたらしていた面も強いんだろうな。競争社会が、それを薄れさせた。現代においては否定されるような慣行も、実は日本人の性向に合ったやり方だったってこともある。何でもかんでも近代化させるものではないんだろうな。まあ、自由を獲得できたことは、僕にとってはありがたいことだけど。


日本人の名誉について。尊敬を獲得するためだったら、いくらでも主義を変えるという。これはどうなんだろう。僕は、日本人の行動原理は「豊かさ」だと思ってたけど。でも、既にどんどん貧しくなってきており、先の見通しも暗いのに動き出さないのは、「尊敬」がキーワードだったからなのかなあ。行動原理とまでは言わなくとも、よそからどう見られているかを気にするっていうのはあるよな。
「周りからの評判」という意味では、現状かなり成功している。今年の「世界に良い影響を与えている国」ランキングでは一位を獲得したし。円が高騰してるってのも、消去法だとしても、それだけ信頼されているってことだし。もしこれがキーワードだとすると、変化するのにはまだまだ時間がかかるのかも。ある程度「評判」は「豊かさ」に比例するだろうけど、豊かさほど急速になくなるものでもないし。
まあ、そのどちらが理由だったとしても、日本に抜本的な変化が起きるとしたら、ギリシャみたいに経済が破綻した時、だろうな。「その日」における大転換が楽しみだ。周りに合わせて自分の方針を柔軟に変えることのできる日本人は、ダーウィンの進化論のごとく、どんな環境においても最適化し、生存していけるんじゃないかなあ。もちろん、みんながみんな生き残れるわけじゃないだろうけど。


国民による違いってのは本当に千差万別で面白い。韓国人しかり、中国人しかり。その違いを互いに受け容れられる世界になるといいよな。そのためには、相手の主張や背景をよく知ることと合わせ、自分の側の主張を広く知らしめること、だよな。