たまごまごごはん

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現実と夢とネットと〜映画「パプリカ」


最近は映画+カレーというすごし方が幸せでなりません。たまごまごです。
というわけで用件ついでに念願の「パプリカ」見てきました。
パプリカ公式サイト
パプリカ・サウンドトラックより「白虎野の娘」無料配信
今敏監督の最新作。「妄想代理人」をご存知の方は非常に見やすいのではないかと思います。
とにかく映像と音楽の異常さを見るだけでもお金払う価値はあるので、迷っている人はすぐ見に行きましょう。
さて、ネタバレは避けるようにして、この作品で非常に面白いテーマについて語られていたので、感想を交えながら書いてみたいと思います。

  • 夢を飛び回る女性はやはり夢

この話は、夢の中と現実の境界線をぼろぼろと突き崩す話です。「パプリカ」というのは夢の世界に飛び込んでその人の心の傷や悩みを解決する「理想の女性」。
いやね、理想の女性とは言われていますが、ものすごい美人ってわけじゃないんですよ。そばかす顔だし、結構自分勝手に動き回るし。だけどこの「普通っぽさ」が非常にかわいいんだこれが!
このキャラデザがほんと巧みだなーと思うのは、そういう「男性の心理が超絶美人よりも安心できる女性」「がんがん引っ張っていってくれる女性」を求めているのをキャッチしているから。しかも、色々な人の好みを全部足して、それを頭数で割って平均化したような「かわいらしさ」なんですよね。実際この宣伝のイラスト見て「あんまりかわいくないなー」と思う人も多いかもしれませんが、劇場を出たらあら不思議、みんなパプリカに夢中です。
といっても、パプリカは夢の世界の人です(正体は序盤で明かされます)。夢だから、それぞれの夢の中で理想の女性になります。平均化された理想なので、顔や声はかわりません。まあこういったらイメージ停止になりかねないんですが「その人の萌え&燃えのツボ」なんだと思います。
実際、萌え&燃えを空想するのは自由。誰にも侵害されることはありません。自分だって乃梨子瞳子を空想するのは自由で誰にも侵害することはできないんですヨ。
「男の夢ばっかり?」といわれると確かに男の夢ばっかりですね。夢のシーンは大抵男性の頭の中ばかり。女性の夢のシーンはというと…それは見てのお楽しみに。
はて、個々が夢を見て妄想するのは自由ですが、それがつながりはじめると別問題。「夢なんてつながらねえよ」と突っ込みたいところですが、SF手法でそれがつながります。でもね、ただそれがSFだから、で終わらないのがこの作品。

  • 寝ながら自由に夢見ていいじゃない、ネットで自由に夢見ていいじゃない

人の夢の中に飛び込むためにはやはり機械の力が必要になります。
当然、ネットワークもつかわなければいけません。
はて、この作品の中では「夢もネットも自由に飛び回るという意味では同じ」というようなセリフが出ていました。これすごい意味深だと思うんです。
自分のトラウマと夢で戦う人もいれば、夢に流されてしまう人もいます。夢だけどしっかり自分を探す人もいれば、他の夢の流れすらも食いつくそうという人もいます。
「夢」を全部「ネット」という言葉におきかえれるんですよネ。
自由に自分をさらけ出し、好きなところに飛び向かい、自分の思うままの楽しいことができる。それが浅い眠りの「よい夢」です。また同時に、自分の苦しみにいつまでもさいなまれ、見たくもないカオスに飲まれる、そんな「悪夢」も人は持ち合わせています。
ネットも同様、自由に楽しめて思うままに飛び回れます。ほんと便利だよネットっつうのはさ。夢ですよ。
しかし夜見る夢と違うのは「他とつながっている」こと。いやがおうにも現実も突きつけられるし、時には人の「夢」に流されてしまいます。人のたわいのない「夢」に簡単に傷つけられてしまいます。ネットのそれらの「夢」から逃れ、脱出することでせいいっぱいの難民も多いことでしょう。
「パプリカ」の世界では、そのへんはにおわせる程度であまり明確に語られることはありません。しかしそれを「夢」ととるか「現実」ととるか「ネット」ととるかは、見ている人の感覚に任されているとも言い換えられます。もちろん、全部ととることも自由です。
イメージの中の自由とはなんだろうか、と今敏監督は問いかけてきます。夢は人とつながらないけれど、つながったときのことを考えたことがあるかい?実際にはもうネットでつながっているんじゃないかい?つながっているとしたら、現実との境界線は一体どこなんだい?

「うつし世は夢。夜の夢こそまこと。」
江戸川乱歩

  • パプリカの映像表現

とにかく夢と現実とコンピューターの世界がごっちゃなので、どこまでが現実なのかわからない、というのは今敏監督のお家芸。「妄想代理人」や「パーフェクトブルー」では気が狂いそうなほどその境界線は曖昧でした。
今回は特に夢のシーンの映像の描き込みっぷりが異常です。とにかく詰め込めるだけ詰め込んだかのような夢の行進は「寝てるときに見たくない!」という夢パワーを持っています。が、不思議にそれがデジャヴュだったりするから困る。
それらをうまくミックスし、誰が何で、何がどれなのかわからない映像づくりがなされています。まあほんと、あれだけごっちゃごちゃしたカオスをよくもまあ全部バラバラに動かすものです。
また、こちらを見つめてくる独特の視線どりは健在。「こっちみんな」とついつい言いたくなる自分に対して乾いた笑いをするのも相変わらず。ついでに映画の中で映画の視点のとり方解説なんかもまじっているので、ちょっと面白いです。なるほどねー、そんなテクニックがあるのね。
あと、映像的に特筆すべきは、古谷徹さん演じるデブ。すごいデブ。でもすごい天才。あんなに贅肉がにくにくしてる映像、久しぶりに見ました。
しかし、今回のパプリカ、意外とさっぱりと楽しめます。小難しいことを考えながら見るのも面白いですが、映像と音楽のマッチっぷりがよく、ストーリーも明快なので「普通に楽しむ」見方もできます。押井守の「イノセンス」のように「事前勉強があるとさらに面白い」というようなのとはちょっと違います。事前準備ナシでOK。なんとなく入ってなんとなく見ても楽しいんですよ。
もちろん、深読みする要素や、ちりばめられたたくさんの小道具を楽しむことも出来ます。平沢進師匠の音楽にどっぷり耽溺するのもまた楽し。林原めぐみさんや古谷徹さん達のナイス演技にホレルもよし。ほんとはやくDVDを買って家でコマ送りしたいくらいですヨ。
今敏作品はなかなか人にすすめずらい(人を選ぶ)んですが、これは素直におすすめできます。そして、これを見た日の夜は、「どんな夢見るべきなんだろ」とか考えてなかなか眠れないかもしれません。それもまた一興。
…はて、どんな夢見て寝ればいいんだろ。助けてパプリカ。
 
あ、そうそう、原作の筒井康隆さんと監督の今敏さん、ヒッチコックみたいな感じ?で結構登場するので、探してみてください。
 

パプリカトレーラー(再掲)

妄想代理人OP