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たまごまごごはん このページをアンテナに追加 RSSフィード


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2007-12-21 大黒黒客日記

[][]少女たちの夢と希望は丘の向こうに…「ブラッドハーレーの馬車」

●聞こえるかしら、ひづめの音●

Anne「We've got a long piece to drive yet, haven't we? Oh, I'm glad, because I love driving.」

赤毛のアン「ちょっと遠いんですよね?嬉しいわ、私、馬車に乗るのが大好きなの」

 

馬車は、いい。

自動車と違ってゆっくり景色を楽しむことが出来るし、流れている風を肌で感じることができます。

「赤毛のアン」は希望に満ち、抱えきれないほどの夢を見つめながら、馬車に乗りました。グリーンゲイブルスの丘には、きっとあふれんばかりの幸せな未来が待っている。

今でも、丘を越えていく馬車にはロマンを感じます。だって、今の世界ではそんなことありえないんだもの。馬車なんて日本の普通の街にはない。

だから、それが駆け抜ける世界を想像するだけで、その向かう世界を考えるだけで、心がワクワクしてきます。

きっと、その馬車に乗っていけば、どこか新しい幸せがつかめるような、気がするのです。

沙村広明先生のマンガ、「ブラッドハーレーの馬車」はまさにそんな、少女たちの憧れから始まります。

なんせ、始まりの舞台は、孤児院です。みんながきらびやかな舞台を、華麗な貴族を夢見て、細々と暮らしているのです。

そんな中やってくる一台の馬車ですよ。そりゃ、そこに乗り込むことは、夢が現実になる一歩です。

いつもつつましく暮らしているけれど、確かに馬車は夢を運んできてくれます。

あの馬車に乗れば。あの馬車に乗って、丘の向こうに行けば。

きっと夢は。

 

高鳴る胸。抑えられない喜び。

ああ、未来への希望はなんと心地よいのだろうか。

普段見たこともないような美しいドレスに袖を通す少女の心は、無限に広がる世界への希望で満ちているのです。なんせ田舎の孤児院です。知っているのは年に一度の演劇の華麗な舞台だけ。そんな彼女たちが、馬車に乗り夢心地にならないわけがありません。

 

迎えに来るの 迎えに来るのね

誰かが 私を連れてゆくのね

(「赤毛のアン」OPより)

 

●夢と希望の果てに●

<注意>ここまできて、キナくさいものを感じた人、いやな予感のする人は引きかえしてください。

ストーリー的なネタバレはないですが、一切ネタバレが嫌な人は注意。

収納しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

作者の沙村広明先生は、陰惨の美を知っている漫画家です。

アフタヌーンの長期連載「無限の住人」も確かに加虐美を描いていますが、今回のこの作品は彼のその方向性に磨きがかかっています。

美しいドレスと、希望に満ちた馬車。少女たちが夢を見れば見るほど、強烈な落差を読者に感じさせます。

どのような方向に物語が進むかは読んでいただくべきだと思うので書きません。というか書けません。

沙村先生の描く少女は、非常に生々しいかわいらしさを持ち合わせていますが、同時に、非常に被虐的な眼をしています。戦おうとする意思、抗おうとする希望、未来を夢見ようとする光が宿っているのに、破滅に向かうあぶなっかしさで満ち溢れています。

まるで、毎日蹴られ続けた子犬のような眼です。

 

この物語は、そんな少女たちを手加減なしで描いています。

物語はきれいごとでまとめようとはされません。時折そのような部分も出てきますが、ひっくり返すように少女たちはねじ伏せられていきます。

 

これはなんなんだろう?

作者は、そこにある陰惨さを「よくないよね」とは言いません。また、陰惨さを「すばらしいよね」とも言いません。ただひたすらに後味の悪い世界を淡々と描くんですよ。

2話ではそれが直接的な表現で描かれます。これがまた、執拗に少女の様子を描くんだもの。彼女の姿をよく観察すればするほど、何が起きたかわかる仕組みになっています。そして、それが読者の心にひどく陰を刻みつけながら、眼をそむけられなくなってしまう描写力の絵をつきつけてくるのです。

そして、そこに嫌悪感だけではなく、美が描きこまれていることに恐怖を覚えます。人によっては生理的な嫌悪感だけにおぼれることになりますが、ある人には震えてしまうような少女被虐美を感じてしまうと思います。

ええ。ひどいはなしです。ほめ言葉として。

 

●人の心なんて。●

もう一つ秀逸なのが、5話。この話は直接的な状況は一切描かれません。

それを遠巻きにしながら、少女の心の動きと混乱を追っていくんですが、今まで4話分で何が起きるかしっているだけに、読者の心は大いに乱されます。

特にこの話は、もう善も悪も意味がありません。あるのは、「悲惨」と「絶望」だけ。

救い?贖罪?そんなものありませんよ。

沙村先生の描く少女は被虐的、と先ほど書きましたが、同時に偶像のような顔をすることがあります。ええ、ある意味陰惨な世界に巻き込まれた少女は、偶像なのかもしれません。それは最後の最後に描かれる絵画にも表現されています。

ならば、本当に彼女たちは無垢な天使だったのだろうか、と問われたら、その答は正でも否でもありません。あるのは、ただの事実だけです。

時に挟められる、良心的な人間たちの行動。それが物語をキュっとしめてくれるんですが、それが偽善ではないという保証すらありません。

熱意と行動で救われるものなんてありません。こっそり贖罪をしたとて、許されるものなんてどこにもありません。

少女たちは、そんな勝手な波の中で、思いうる最悪のカタチでもまれるだけなのです。

人の心は、光り輝く希望は、馬車に乗ってどこに向かっていってしまったんだろう。

確かにあった、丘の向こうのまばゆい世界。

それは、カゲロウよりももろい幻。

 

●破壊の美学

沙村先生は、知る人ぞ知る、陵辱絵の達人でもあります。

人でなしの恋 (いずみコミックス)

成年誌に掲載された、恐ろしいほどに描きこまれた美しく醜悪な画集として有名な「人でなしの恋」。

SMスナイパーを資料にしている」と作者本人が言うのは伊達ではありません。

彼の描く女性は非常に艶かしいのに、ものすごく無機質なんですよ。痛めつけられ、愛情ではない部分での破壊を行われる様子は見るに耐えないのですが、そこにおそらく美を描きこもうとしているのだと思います。あくまでも絵画だからできる世界です。

 

とてもじゃないけれど、この作品は万人にオススメできる作品とは言いがたいです。ものすごい技術と美学で描かれているんですが、だからこそ苦手な人はとことんダメな作品だと思います。

そして、同時にとことん共鳴を覚えた人は、共鳴しっぱなしでワンワンと耳の中で鳴り響く音に酔うと思います。ストーリーの陰鬱さもさることながら、やはりそこに至るまでの救いのない世界にいかに浸るか、でしょうか。

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

帯の文章がわりとネタバレなので、しっかりダイブして読みたい人は注意です。

にしても。本編がアレなだけに、最後の文章があいかわらずいい具合にトばしていて癒されました。

この作品、陰惨の美学としても読めるんですが、同時に残酷さを楽しむタイプの映画と同じような楽しみ方もできます。あと、本当にこういうのが苦手な人が、もうどっぷりと鬱になるために読むのもありです。

それによって、最終話のシーンの見方がすっかりかわるのですが…さて。

 

〜関連リンク〜

群青色の戯言日記(駄文)さん感想

面白いか、と言われると確かによくわかりません。とりあえず自分は苦手だ苦手だと思いながら、もう3回読んでました。「かわいそう」なんて言葉でどうこうできるものじゃあない。

少女達を待ち受ける残酷で凄惨な運命 - ブラッドハーレーの馬車(真・業魔伝書庫)