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2009-10-28 私立桜が丘高校軽音楽部日記

[][]男性が作る、少年漫画百合物語としての「ささめきこと

オトナアニメ」に載っている、倉田英之さんの「ささめきこと」インタビューが面白いです。

「ささめきこと」が光っているのはどこだと思われます?

倉田『実はキャラクターの中身が男だというところですね。原作者のいけだ(たかし)さんも、菅沼(栄治)監督も男ですから、百合ものに見えるんだけどキャラクターの行動原理がぜんぶ男子。普通に学園ものじゃないの、みたいな。夜中の風呂上がりに、パンツ一丁でケツを掻きながらラフな気分で観られる。こういうこと言っていると、また怒られちゃうんですが。』

(中略)

『普通の子が普通に悩んで学園生活を送るという意味では、昔のアイドル映画や青春映画でやってたラインでいけるのかなと。』

(中略)

『冷静に考えたら、あのころから男女交際には興味はなかったのかな。結局マンガ以上のことって起こらないし。女の子と仲良くなっても、その子は宇宙から来ていたりすることもなくてつまらないなと。』

(「オトナアニメ」Vol.14より)

ケツは掻かなくてもいいけど言いたいことは分かりました。

 

百合ってすーんごい難しいジャンルだと思います。

「百合っぽい」というネタなら、まだ簡単なんです。記号だから。

今まで何回か書いてきましたが「決定的に男性視点と女性視点が違うこと」「どこからどこまでが百合なのか分からないところ」「キャラクターがリアルな女性なのか形骸化した『オンナノコ』なのかの差異」など、とにかく読者層のどこを狙うか考えないとものすごい墓穴を掘りかねないジャンルです。恋愛なのか憧れなのか友愛なのか性愛なのかを明確にしないと、へたするととんでもないフォアボールになりかねません。

王道なところでいえば、「マリア様がみてる」シリーズは女性視点での女の子の「キレイ」への憧れと距離感をうまく描いていました。温室的な優しさ満載です。

青い花」は逆にリアルな恋愛として相手を好きになったときの葛藤も描いています。出発地点は似ているのですが、到達地点が全然違う。

 

で、「ささめきこと」はうまいこと「男性の百合ファン」の気持ちをつかみながら、女性も安心して観られる作品になっていると思います、アニメもマンガも。

 

●男性が見る女の子の位置●

たとえば、このコマを見てみてください。

5巻の一コマ。

この作品、「なんちゃって百合」ではないです。

ようするに、適当に女の子が女の子を好きになってワー、みたいなキャラが密集するだけの作品ではありません。もちろん「なんちゃって百合」にも需要はあります。見ていて華やかで楽しいんですよね。

「ささめきこと」が目指す百合の姿は、このキャラクター、風間の思考経路そのものだったりします。

最初は可愛い子への憧れだったりで「好き好き!」と女の子尻をおっかける女の子、なわけです。本気半分、ノリ半分。

しかし過去のエピソードなどを挟み、彼女の中にある「女の子が私は好き」という思いがどんどん形になるにつれて、彼女自身がもうどんどん困惑していくわけです。

私の気持ちってなんだろう、私はどんな思いで今まで生きてきたんだろう?

 

どんどん内にこもって、自分のインナースペースに突き進んでしまい、お互いがその距離を分からなくなってしまう、というのはまさに女の子同士の間隔が重要な「百合」というジャンルをよく捕らえていると思います。

風間もすみちゃんも、すっごいすっごい悩むんですよ。どうしようもない袋小路に行き当たりまくりですよ。

 

ところが、この作品実は「ものすごい内側」に突入したかと思うと、突然突き放したところから見たりするんです。

バスの中のシーン。

風間もすみちゃんも、とんでもなく思い込みが激しいため自分の世界にすぐ没頭するクセがあります。

で、読者はそれを外側から見させられるんです。

上記に引用したコマは非常にそれが端的に出ています。インナーな感情のたかぶりは左のコマなんです。で、実際に見ているのは右のコマ、特に手前にいる名もない男の視点と同じなんですよね。

同じ構図が4巻のラストでも、その二人の手だけで描写されるんですが…これは実際に見て下さい。

 

この「第三者視点」が非常に男性的です。

男性的、というとちょっと弊害があるかもしれませんが…ようは「自分は女の子じゃないよ」ということなんです。

女の子達が悩んだり苦しんだりしながら一生懸命であってほしいというのは、百合の重要なファクターの一つです。真剣に感情を露わにする女の子はかわいいんです。

でも男視点だと女の子になりたくてもなれない。だから「究極の女の子像」を作ろうとします。しかし自分はその女の子像そのものではない。別の視点から二人を眺めるカメラが必要になります。

逆にキャラにいかに感情移入出来るかに焦点があわせられると、女性的になっていきます。キャラが女の子なので当然ですが。

読者の目がキャラ側なのか、外側なのか、どこに置かれるかで印象はがらりと変わります。

 

実は重要だと思っているのが、キョリちゃんの存在。

キョリちゃんかわいすぎですよさすが俺の嫁

「ささめきこと」は共学の学校が舞台ですが、出てくるキャラはほとんどが女の子、しかも女の子が好きな女の子ばかりです。なので「百合で当たり前」になってしまいそうな空気も確かにあります。

さっきも書いた「なんちゃって百合」ですね。女の子だらけのクローズドな空間で「女の子好きキャッキャ」に傾くと、作品はまったく別のベクトルをたどることになります。

しかしそれだと本当に「閉じた世界」になってしまいます。女性がそれを描くことでより一層彼女たちの思春期独特の厚みを出すこともできますが、第三者的な男性視点で見ると女の子の皮をかぶった男の欲望になりかねません。それはそれですごく面白いんですけどね。

キョリちゃんはそんな中、一人だけノンケです。別に女の子が好きではありません。むしろこの作品では異質にすら見えます。

 

ちょうどこの位置が、「女の子達が一生懸命恋をしている」のを眺められるいい位置なんですよ。しかも彼女の存在、作品の重い部分と軽い部分をリセットしてくれます。

キョリちゃんについては言いたいことが多いのでまた別の時にでも。自分は彼女がいることで非常に安心感を得られます。

 

●妄想のライト感と、現実味のヘビー感●

「ささめきこと」で描かれる風間とすみちゃんの感覚は、非常に丁寧に作られていると思います。だから時々とても重いし、共感も出来ます。自分男だけど。

近寄っては離れ、離れては近寄る。

どうすればいいのか分からないくらい行き詰まるし、苦しむ。

そんな二人の姿のもどかしさは思い切り心をわしづかみにするだけの力を持っていると思います。単に好きだからくっつけばいいとはならないじわじわ感と、行ったり来たりして迷う混迷感がとても歯がゆくもあり、…心地いいんだなあ。

これが熱湯だとすると、すっごいライトな冷水もあるのがこの作品。

あい、男の娘です。万歳。

ハイテンションで「ないない!」というネタも平気でほおりこんできます。アニメではまだ出ていませんが、ロッテのエピソードのかっとびっぷりがまたすごいんだなあ。

また暴走風間(女の子好きーーー!っていうやつ)と、王子さま状態のすみちゃんの炸裂っぷりも突拍子がなくなる時があります。じわじわとリアルな感覚に迫っていたのに、突然放り投げられる感覚がすごい痛快。そちらは最初のインタビューでもあったように、「キャラクターの中身が男」であることがうまく作用していると思います。

 

この温度差がくせもので、両極端であるがゆえに熱い部分、二人の感情が高ぶって苦悩してしまう部分がえらく熱くかんじられます。

あとは読者がどうとらえるか、次第です。

倉田さんのおっしゃるようにケツ掻きながら気楽に見るもの、として第三者視点になりきるもよし。

風間やすみちゃんの思いにのめりこんで「彼女たちはどうしてこういう行動をとるんだろう」「私はこうする」「自分もこうなるだろう」と重ね合わせるもヨシ。

アニメはいい具合にその合間を縫っている感じがします。比較的に言えば「共感させる視点」に見せかけた、「風間とすみちゃんの心を観察する」視点であるような気もします。背景の色使いとか挙動がものすごくボリュームアップしていて面白いんだなあ…。

個人的にはキョリちゃん視点でニヤニヤしながら二人をながめつつも、風間を理想の女の子像として見てみたり、すみちゃんの「私が守る!」と動きながらへたれる心理に痛く共感したり、行ったり来たりしながら見ています。こんだけ色々な方面から見ることができ、しかもてんこ盛りなのでなかなか飽きない作品も珍しい。てんこ盛りすぎて、時々本筋が分からなくなって最初から読み直したりとかもしますが、そのへんの具合も上手いもんです。

 

〜関連リンク〜

ささめきこと第02話 主張する赤と色の演出の解説 - karimikarimi

『ささめきこと』第2話が面白い〜視線のやりとりと細かい仕掛け〜 - あしもとに水色宇宙

リアルなようでリアルじゃない。浮いた世界のようでどことなく生々しい。キャラクター達の心理は多方面から描かれていくことになります。

 

ささめきこと 1 (MFコミックス アライブシリーズ) ささめきこと 2 (MFコミックス アライブシリーズ) ささめきこと 3 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 4 (MFコミックス アライブシリーズ) ささめきこと 5 (MFコミックス アライブシリーズ)

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アニメの方は、今後出てくるキャラがちゃんとモブとしてわんさか最初から登場しているのも、原作ファンにはうれしいところ。なるほど最初から彼女たちがいると、こうなるのねー、と。主人公二人が自分没入型だからこそ、なおのこと外からの目線やキャラクターの心情が多角的に入ることで、二人を見直すことができます。

なにはともあれ、この作品の一番のキモは「泣き顔」だと思ってます。真剣に人が好きで泣ける女の子は、それだけで尊いんだよ。