たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

少年少女が死ぬのには理由があるからさ、ね。『ストロボ』

表紙も、紙面の絵もきれいなので一瞬忘れがちになりますが、これは殺し合いの物語です。
正確には死んだ者たちによる、凄惨な殺し合いの物語。
ようするにバトルロイヤル物です。
でも、読んでみて表紙の絵の印象は決して間違っていない、とも思いました。
青春を懐古して、途方にくれる物語。
 
この『ストロボ』の設定が非常によくできています。
場所は、一見普通の街なんですが、実は生者も死者もいない、狭間の場所。
集められたのは、中高生と思われる少年少女。
彼ら・彼女らは、死んでしまった人間達です。
親より先に死んでしまった少年少女。その不徳を贖うために、最後の一人になるまで殺し合いをすることになります。
生き残った一人は、特別に生き返る権利が得られる。
このへんのシステムはバトルロワイヤルと同じですね。
 
もう一つ。
この作品は特殊能力バトルものでもあります。
自らの死因を凶器に変えて、武器として扱うことができる。
「死因兇器」と呼ばれるシステムなんですが、これが非常に面白い。
 
死因と言っても色々あるわけですよ。
他殺、事故死、自殺、etc・・・。
明確に覚えている子もいます。死んだのかどうかすら覚えていない、わかっていない子もいます。
基本、覚えていればその死因兇器は使えるんです。
しかし、はっきり思い出せなければ何も出すことが出来ない。
間違いなく、死因兇器は持っているのに。
ここがこの作品の重大なキモになってきます。
 
で、ですよ。
それでいきなり「はいバトルです!」ってなったら、まあそういう話だよね、で終わるんですが。
違うんですよ。
死因があるということは、少年少女達が死ぬだけの理由がある。
それはなんだったのかを、死後に再び思い出させ、死んだ子たちのつながりができていくのが話のメインなんです。
この作者はそこがすごい。
 
メガネの少女、菫川水純の死因は、首吊り自殺でした。
彼女が首をつって自殺したのには、結構意外な、でも思春期の彼女ならではの理由があります。
それによって彼女が身につけたのは、「ゼンジドウコウシュダイ」という、緊縛能力です。
非常に便利ではあるんですが、いかんせん縄なので、そんなに強くはない。
戦いでそれをどう使うかも面白いんですが、その縄を出すたびに彼女は思い出すわけですよ。
自分が、首をつって自殺をしたという、事実を。
 
一方、はねた髪のショートカットの少女兵衛花火は、火事で焼け死にました。
彼女の能力は「アカイロレッカ」。眼に入るものをなんでも燃やすという、かなりチート気味な能力です。
彼女は水純と違い、自分から死んだわけではありません。ある理由で焼死しました。
 
その他に、この世界でなんとか生き延びようと、記憶が全くないショートカットの少女真宮七尾と、おさげでちょっと気が弱く、死因を覚えている番匠チヅの4人の少女が、不思議な逃亡生活を送るのです。
 
ただ、その4人の中にいても、自ら命を断った水純は、居心地悪いわけですよ。
「死にたくなかった」
「生きてたかった」
チヅはそう言って泣きます。
死んだのに、この世界にいて過去を思い出さなければいけない。
それ自体が拷問なんです。
 
このあたり、『灰羽連盟』のテーマに通じるものがあります。こちらでは死んだ理由を名前にして、街で生きています。
『ストロボ』は、殺しあわなければいけないという嫌な行く末はあるものの、4人の女学生が集まって、それぞれが死んだことを確認しあいます。
事故死系の子たちは、当然死にたくなんてなかったんです。当たり前です。
自殺の子、水純だって、「死にたくない、死にたくない」と泣きわめく体をくびり殺したんです。
確かに大枠は能力バトルロイヤル漫画なんですが、テーマになっているのは思春期に死んだ少女たちの感情の描写のほうです。
少年も出てきますが、現時点では少女メイン。
自分たちが死んだ現実を、苦しみながら噛み締め、能力を手にする物語なんです。
 
だから、かどうかはわかりませんが、このマンガすっごいカッサカサしてます。
乾いた感じが凄まじいんです。
トーンをあまり使わず、白を多目につかう手法。
非常に細い線。
モノローグと人物の配置のバランス。
無機質にすら感じるのに、緻密に描かれた背景。
このカサカサ具合、不気味なほどです。
エドワード・ゴーリーの『ギャシュリークラムのちびっ子たち』と通じるものがあるから、カサカサしている、と言うとわかりやすいかもしれません。死を描くって、そういうことなのかもしれない。
無機質なほど、不穏で不気味です。
 
出てくる少女達は非常にみずみずしく、肉感的で、かわいらしいです。
とても柔らかそうで、だからこそ死んだ事実があまりにも儚い。
この世界が乾燥して見えるようにわざと描かれているのは、彼女たちが死に、その事実と向きあうことでどうしようもない悲しみがねじれこんでいるから。
湿っぽかったらだめなんだと、僕は思いました。
諦念と、感情の爆発の、中間なんです。
生と死の中間の場所であるのと同じように。
 
バトルロイヤルものですし、能力すごく面白いんですが、それは付加的な要素だと感じました。
あくまでも、彼女たちが「なぜ死んだのか」、それを「どう受け止めるのか」。
再度噛み締めることが、別の子たちと出会うことで思いを交わすことが、一巻では重要になってきます。
 
もちろん、他にも多数の少年少女がいて、能力を使える子もいれば、まだわからないまま逃げ惑っている子もいます。
これが残虐な世界なのか、それとも生き返るチャンスがもらえただけラッキーなのか、ぼくにはわかりませんし、物語には謎が多すぎます。
特に、最初に能力を発動したツインテールの少女はぞっとするほどツボに入りました。
制服に裸足。使う死因兇器は「ケンザンジゴク」。刃を無数に出して、なんでも切り裂けるというとんでもない能力で、他の少年少女たちと違い、刃を使うことにためらいがありません。
彼女がゾクゾクするほど美しいんだ……。作中ではキラーマシーンみたいになっていますが、どんな過去があるかが描かれるのが楽しみ。
そして、もう一人。記憶を失っていた七尾。彼女は花火とは別の意味で、最凶の死因兇器を使うようです。
現時点ではさっぱりわからないので、これまた楽しみ。
 
蛇足。
男の子たちも出てきますが、まあ、あんま中心じゃないです。あくまでも女の子。
女の子たちが死を超えて通じ合うのもいいですし、派手に殺しあうのも美しすぎる。
アクションは非常に特殊な描かれ方なので、なれないとびっくりするかもしれませんが、少女達のポーズや仕草ひとつひとつを美しく描くためにそうなっているととらえたら、納得できるくらいに、いい意味でケレン味にあふれています。
女の子たちが殺しあうマンガが好きな人にオススメ。