ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ/ジョン・キャメロン・ミッチェル

makisuke2002-02-28

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]
これ、アタシがみなくて誰がみんのよ!!
これ、アタシが書かなくって誰が書くのよ!!

と、相変わらず勘違い甚だしい私ですが。今日は、今日の所は許してね。だって、久しぶりに映画が呼んでる!!アタシを呼んでる!!ヘドウィグがアタシを呼んでる!!そんな気がしちゃったんだもの。仕方がないでしょ。

そして今、最高にいい気分で力みたいなヤツがこみ上げてきていて。コトバにするなら、揺るぎない幸せとか探していた答えとか私がここにこうしている理由とか。そんなものかもしれないけれど。もう理屈はいいから。聞き飽きたから。でも、どうにか伝えたくって、伝えなくちゃアタシの気がすまなくって。もう、なりふりだって構っちゃいられなくって。見苦しいけれど、暑苦しいけれど、これがアタシなんだもの。構うものかって。構うものですかってわけなのよ。

これは、カタワレ探しの物語。自分のカタワレを探し求める魂の物語。骨太の物語。揺さぶってくる物語。壮絶なまでに美しい物語。そして、自分を受け入れる物語。私は声を殺して、カラダを振り絞るようにして、ただ泣いた。エンドロールの流れる薄暗い映画館で、誰にすがるでもなく、ただ泣いた。

人間はもともとは二つの体が一つになった生き物だったんだよ。二つの頭に二組の手脚。二人で一人だったんだよ。それがある日、神の怒りを買って、つながっていた体が二つに引き裂かれた。それから以後、人間は淋しい二本脚の生き物となって、失われたもう一つのカタワレを探し求めるようになった。そして、そのカタワレに出会ったときに生まれる感情--それが『愛』なんだよ

そう言い聞かされて育った少年が、女装のロックシンガーとなって、自分のカタワレを探し求める。

それでも、いいことばかりはありゃしない。好きな男と結婚するために性転換手術を受ければ、手術ミスで股間に「怒りの1インチ」が残されるわ。必死で脱出を試みたベルリンの壁は、いとも簡単に崩れていくし。夫は新しい男の子と去っていくわ。魂の恋人と出会ったと思えば、自分の魂--歌を盗まれて、その歌でロックスターへの道を駆け上がられちゃう。ダメダメダメのオンパレード。もう、これだけで、ほとほと情けなくってつくづくと悲しいでしょう。

だから、ヘドウィグは常に怒っている。怒って歌っている。その運命に、どうにもならない現実に。やり場のない気持ちそのままに。皮肉な運命。その運命に。何もかも自分を残して去っていく。逃げていく。その繰り返し。どうしようもないぐらい惨めな自分を残して。

だけど、私はあんな悲しい目を見たことがない。彼女は怒ってそして愛している。愛してそして歌ってる。だからこんなに胸を打つんだ。彼女のカラダはきっとつぎはぎだ。いろんな人に付けられた傷で。つぎはぎの醜いコラージュだ。さもなくば、穴だらけだ。その穴を穴という穴をすべて見せつけて、半分ちぎれたカラダを見せ物にして、歌い続ける瀕死のヘドウィング。

ああ、なんて美しいんだろう。

私はもう、すっかり釘付けで、目が離せなくなってしまった。彼女が愛しくて愛しくて、たまらなくなってしまった。ずっとこのままここにいたくて仕方なくなってしまった。きっと何一つ彼女には叶わない。

当たり前だろ、かなうわけがないよ。

そして、エンディング。すべてを脱ぎ去って、ウイッグも外して、生まれたままの姿で歩き出すヘドウィグ。悲しいくらいにみっともなく。みっともないまでに胸を打つ、最後の姿。本当にみっともなくなれることは、こんなにも美しく、こんなにも胸を打つってこと。私は今日しっかりと教えてもらいました。