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法科大学院生 ゆっくりFの法律・知財レビュー

2013-09-16

クロロホルム事件判決 最判平成16年3月22日

クロロホルム事件判決 最判平成16年3月22日 

第1 クロロホルム判決

1 クロロホルム判決は、客観的に存在した第1行為だけでは実行の着手を認めるのが困難であったため、行為者の計画を考慮することにより、すなわち、主観的に行為者が想定した第1行為と第2行為の一体化をはかることにより、第1行為の時点で客観的に実行の着手を認めたものと考えることができる。

行為の一体化の基準は、実行行為同士であれば、客観的関連性と主観的関連性で判断すればよい。しかし、

2 行為の一体化の基準

(1)基本要件

実行行為 + 実行行為

2つの行為を1個の行為とみる一体化の基本的要件は、2つの行為との間に客観的関連性と主観的な関連性が認められることである。

*客観的関連性

 法益侵害の同一性

◆〇間的場所的近接性

*主観的関連性

 意思の連続性

(2)加重要件

予備行為 + 実行行為

*客観的関連性がより強いことが必要となる。

そこで、

上記の客観的関連性の加え

 ‖茖厩坩戮和茖温坩戮魍亮造つ容易に行うために必要不可欠なものであること(必要不可欠性)

◆‖茖厩坩戮棒功すれば、被害者を殺害するという計画を遂行する上で障害となる特段の事情は存在しなかったこと(遂行容易性)

 第1行為と第2行為との時間的・場所的に近接していること

第2 因果関係の錯誤

クロロホルムを吸引させて失神させた上で、自動車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手して、その目的を遂げたのであるから、認識と異なり第1行為により死亡していたとしても、殺人の故意に欠けるところはない。故意には〃覯未稜Ъ韻鉢⊆孫垤坩戮鮃圓ηЪ韻必要であるが、因果経過の認識は必要はない。

第4 全文

       主   文

 本件各上告を棄却する。

       理   由

 被告人Aの弁護人佐藤榮一及び被告人Bの弁護人福島昭宏の各上告趣意は,いずれも単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,殺人罪の成否について職権で判断する。

 1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

■ 事案の概要

(1) 被告人Aは,夫のVを事故死に見せ掛けて殺害し生命保険金を詐取しようと考え,被告人Bに殺害の実行を依頼し,被告人Bは,報酬欲しさからこれを引き受けた。そして,被告人Bは,他の者に殺害を実行させようと考え,C,D及びE(以下「実行犯3名」という。)を仲間に加えた。被告人Aは,殺人の実行の方法については被告人Bらにゆだねていた。

(2) 被告人Bは,実行犯3名の乗った自動車(以下「犯人使用車」という。)をVの運転する自動車(以下「V使用車」という。)に衝突させ,示談交渉を装ってVを犯人使用車に誘い込み,クロロホルムを使ってVを失神させた上,最上川付近まで運びV使用車ごと崖から川に転落させてでき死させるという計画を立て,平成7年8月18日,実行犯3名にこれを実行するよう指示した。実行犯3名は,助手席側ドアを内側から開けることのできないように改造した犯人使用車にクロロホルム等を積んで出発したが,Vをでき死させる場所を自動車で1時間以上かかる当初の予定地から近くの石巻工業港に変更した。

(3) 同日夜,被告人Bは,被告人Aから,Vが自宅を出たとの連絡を受け,これを実行犯3名に電話で伝えた。実行犯3名は,宮城県石巻市内の路上において,計画どおり,犯人使用車をV使用車に追突させた上,示談交渉を装ってVを犯人使用車の助手席に誘い入れた。同日午後9時30分ころ,Dが,多量のクロロホルムを染み込ませてあるタオルをVの背後からその鼻口部に押し当て,Cもその腕を押さえるなどして,クロロホルムの吸引を続けさせてVを昏倒させた(以下,この行為を「第1行為」という。)。その後,実行犯3名は,Vを約2km離れた石巻工業港まで運んだが,被告人Bを呼び寄せた上でVを海中に転落させることとし,被告人Bに電話をかけてその旨伝えた。同日午後11時30分ころ,被告人Bが到着したので,被告人B及び実行犯3名は,ぐったりとして動かないVをV使用車の運転席に運び入れた上,同車を岸壁から海中に転落させて沈めた(以下,この行為を「第2行為」という。)。

(4) Vの死因は,でき水に基づく窒息であるか,そうでなければ,クロロホルム摂取に基づく呼吸停止,心停止,窒息,ショック又は肺機能不全であるが,いずれであるかは特定できない。Vは,第2行為の前の時点で,第1行為により死亡していた可能性がある。

(5) 被告人B及び実行犯3名は,第1行為自体によってVが死亡する可能性があるとの認識を有していなかった。しかし,客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった。

■ 判旨

■ 因果関係の錯誤を論ずる前提

2 上記1の認定事実によれば,実行犯3名の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上,その失神状態を利用して,Vを港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるというものであって,

■  ”要不可欠性

第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,

■ ◆/觜塒動彑

それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,

■  時間的・近接性

第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,

実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

■ 当該実行行為開始時に殺意が認定できるか否か

また,実行犯3名は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上自動車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手して,その目的を遂げたのであるから,たとえ,実行犯3名の認識と異なり,第2行為の前の時点でVが第1行為により死亡していたとしても,殺人の故意に欠けるところはなく,実行犯3名については殺人既遂の共同正犯が成立するものと認められる。

そして,実行犯3名は被告人両名との共謀に基づいて上記殺人行為に及んだものであるから,被告人両名もまた殺人既遂の共同正犯の罪責を負うものといわねばならない。したがって,被告人両名について殺人罪の成立を認めた原判断は,正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

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