最判平成17年7月15日 法人格の否認と第三者異議の訴え

最判平成17年7月15日 法人格の否認と第三者異議の訴え

事件番号
 平成16(受)1611
事件名
 第三者異議事件
裁判年月日
 平成17年07月15日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第59巻6号1742頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成16(ネ)727
原審裁判年月日
 平成16年06月23日
判示事項
 第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用
裁判要旨
 第三者異議の訴えの原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されない。
参照法条
民事執行法23条,民事執行法38条1項,民訴法115条,民法33条,商法52条


判旨
         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人早稲本和徳ほかの上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) D株式会社(以下「D」という。)は,昭和42年11月8日に設立された会社であり,ゴルフ場の建設,管理及び経営等を目的としている。


 平成4年5月29日に栃木県矢板市で開場したEゴルフクラブという名称のゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)に設けられた同名の預託金会員制ゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)の会則には,① 本件ゴルフ場のゴルフコース及びこれに付帯するクラブハウスその他の施設は,Dが所有し,かつ,管理,経営する,② 本件クラブに入会しようとする者は,D及び本件クラブの理事会の承認を得て,所定の期間内に入会金及び預託金をDに払い込むものとする旨の記載がある。

 (2) Dの関連会社として,株式会社Eゴルフクラブ(平成元年8月1日設立)と株式会社F(平成4年5月22日設立)があり,いずれもゴルフ場の建設,管理及び経営等を目的としている。株式会社Fの旧商号は「株式会社Eゴルフクラブ」であり,株式会社Eゴルフクラブの旧商号は「株式会社F」であったが,両社は,平成4年8月21日,互いの商号を交換した。D,株式会社F及び株式会社Eゴルフクラブの役員構成は,ほぼ同じである。

 そして,平成4年5月8日,Dを委託者,設立予定の株式会社Fを受託者,株式会社Eゴルフクラブを受益者とし,信託の目的を「管理並びに処分」とする信託契約が締結され,また,同月27日,本件ゴルフ場の敷地について,信託を原因として,Dの持分38分の36を株式会社Fに移転する旨の持分移転登記が了された。

さらに,平成8年12月31日,株式会社Fが株式会社Eゴルフクラブに対し本件ゴルフ場の付属建物を期間3年の約定で賃貸する旨の短期賃貸借契約が締結された。

 本件クラブの上記(1)の会則①②は,上記各契約が締結された後も,変更されていない。

 (3) 上告人は,平成12年2月2日に設立された会社であり,ゴルフ場の管理及び運営等を目的としている。上告人の旧商号は,G株式会社であり,平成14年10月10日に現在の商号に変更された。

 平成12年3月21日,株式会社Eゴルフクラブが上告人に本件ゴルフ場の運営業務を委託する旨の契約が締結された。

 (4)ア 被上告人B1株式会社は,宇都宮地方裁判所大田原支部執行官に対し,Dに対して金員の支払を命ずる判決を債務名義として,Dを債務者とする動産執行の申立てをした。同支部執行官は,平成15年5月3日,同申立てに基づき,本件ゴルフ場において,第1審判決別紙第1物件目録記載の物件を差し押さえた。

 イ 被上告人B2は,同支部執行官に対し,Dに対して金員の支払を命ずる判決を債務名義として,Dを債務者とする動産執行の申立てをした。同支部執行官は,同月27日,同申立てに基づき,本件ゴルフ場において,同判決別紙第2物件目録記載の物件を差し押さえた。


 (5) 上告人は,上記各差押えに係る物件は上記(3)の契約に基づく運営業務の一環として上告人が本件ゴルフ場において所有又は占有しているものである旨主張して,被上告人らに対し,上記各強制執行の不許を求める本件第三者異議の訴えを提起した。

 (6) 上記(2)の各契約は,Dが債権者による強制執行を妨害する目的で締結されたものであり,また,Dは,上告人をその意のままに道具として利用し得る支配的地位にあり,本件クラブの多数の会員がDに対して預託金の返還を求める訴えを提起し,その勝訴判決に基づいて強制執行に及ぶことを予想して,これを妨害するという違法不当な目的で上告人の法人格を濫用している。

 2 甲会社がその債務を免れるために乙会社の法人格を濫用している場合には,法人格否認の法理により,両会社は,その取引の相手方に対し,両会社が別個の法人格であることを主張することができず,相手方は,両会社のいずれに対してもその債務について履行を求めることができるが,判決の既判力及び執行力の範囲については,法人格否認の法理を適用して判決に当事者として表示されていない会社にまでこれを拡張することは許されない(最高裁昭和43年(オ)第877号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号511頁,最高裁昭和45年(オ)第658号同48年10月26日第二小法廷判決・民集27巻9号1240頁,最高裁昭和50年(オ)第745号同53年9月14日第一小法廷判決・裁判集民事125号57頁参照)。



 ところで,第三者異議の訴えは,債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく,執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものである。そうすると,【要旨】第三者異議の訴えについて,法人格否認の法理の適用を排除すべき理由はなく,原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。


 これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,Dは自己に対する強制執行を回避するために上告人の法人格を濫用しているというのであるから,法人格否認の法理が適用され,本件第三者異議訴訟において,上告人はDと別個の法人格あることを主張して上記1(4)の各強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。これと同旨をいう原審の判断は正当である。所論引用の前掲最高裁昭和53年9月14日第一小法廷判決は,本件と事案を異にし,本件に適切でない。
論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 津野 修 裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男 裁判官 今井
 功 裁判官 中川了滋)