最判昭和58年6月7日 計算書類承認決議取消しの訴え・翌期以後の計算書類が承認された場合と訴えの利益

最判昭和58年6月7日 計算書類承認決議取消しの訴え・翌期以後の計算書類が承認された場合と訴えの利益

事件番号
 昭和55(オ)17
事件名
株主総会決議取消
裁判年月日
 昭和58年06月07日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第37巻5号517頁
原審裁判所名
大阪高等裁判所
原審事件番号
 昭和49(ネ)669
原審裁判年月日
 昭和54年09月27日
判示事項
 計算書類等承認の株主総会決議取消の訴えの係属中にその後の決算期の計算書類等の承認がされた場合と右取消を求める訴えの利益
裁判要旨
 計算書類等承認の株主総会決議取消の訴えの係属中、その後の決算期の計算書類等の承認がされた場合であつても、該計算書類等につき承認の再決議がされたなどの特別の事情がない限り、右決議取消を求める訴えの利益は失われない。
参照法条
 商法(昭和49年法律第21号による改正前のもの)247条1項,商法(昭和49年法律第21号による改正前のもの)283条1項,民訴法2編1章 訴

判旨
         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人村松俊夫、同野田純生、同加嶋昭男、同明石守正の上告理由第一点(
その補足を含む。)について

 株主総会決議取消の訴えのような形成の訴えは、法律に規定のある場合に限つて許される訴えであるから、法律の規定する要件を充たす場合には訴えの利益の存するのが通常であるけれども、その後の事情の変化により右利益を喪失するに至る場合のあることは否定しえないところである。


しかして、被上告人らの上告人に対する本訴請求は、昭和四五年一一月二八日に開催された上告会社の第四二回定時株主総会における「昭和四五年四月一日より同年九月三〇日に至る第四二期営業報告書、貸借対照表損益計算書、利益金処分案を原案どおり承認する」旨の本件決議について、その手続に瑕疵があることを理由として取消を求めるものであるところ、その勝訴の判決が確定すれば、右決議は初めに遡つて無効となる結果、営業報告書等の計算書類については総会における承認を欠くことになり、また、右決議に基づく利益処分もその効力を有しないことになつて、法律上再決議が必要となるものというべきであるから、その後に右議案につき再決議がされたなどの特別の事情かない限り、右決議取消を求める訴えの利益が失われることはないものと解するのが相当である。

 そこで、叙上の見地に立つて、本件につきかかる特別の事情が存するか否かについて検討する。


この点に関し、論旨は、本件決議が取り消されたとしても、右決議ののち第四三期ないし第五四期の各定時株主総会において各期の決算案は承認されて確定しており、右決議取消の効果は、右第四三期ないし第五四期の決算承認決議の効力に影響を及ぼすものではないから、もはや本件決議取消の訴えはその利益を欠くに至つたというのであるが、株主総会における計算書類等の承認決議がその手続に法令違反等があるとして取消されたときは、たとえ計算書類等の内容に違法、不当がない場合であつても、右決議は既往に遡つて無効となり、右計算書類等は未確定となるから、それを前提とする次期以降の計算書類等の記載内容も不確定なものになると解さざるをえず、したがつて、上告会社としては、あらためて取消された期の計算書類等の承認決議を行わなければならないことになるから、所論のような事情をもつて右特別の事情があるということはできない。



また、論旨は、修正動議無視の瑕疵は、その後右動議にいう水俣病補償積立金及び水俣病対策積立金以上の額の水俣病の補償金及び対策費が支出され、右動議の目的がすでに達成されているので、右瑕疵は治癒され訴えの利益は失われたというが、被上告人らの上告人に対する本訴請求は、株主の入場制限及び修正動議無視という株主総会決議の手続的瑕疵を主張してその効力の否認を求めるものであるから、右修正動議の内容が後日実現されたということがあつても、そのことをもつて右特別の事情と認めるに足りず、他に右特別の事情を認めるに足る事実関係のない本件においては、訴えの利益を欠くに至つたものと解することはできない。これと同旨の原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 同第二点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

 同第三点について

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件決議には修正動議無視の点に重大な瑕疵があるとした原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。

論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

 同第四点及び第五点について

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件株主総会招集の手続又はその決議の方法に瑕疵があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解せず又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 同第六点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件決議には重大な瑕疵があつて取り消されるべきものであり、かつ、このような場合には裁量棄却することは相当でないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の各判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治