野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

若者たちと楽団員のエネルギー

岡山で、島袋道浩くんの新作制作のためのリサーチ。本日は、昨日のリサーチに加えて、作品に出演していただく予定の演奏家の方との顔合わせなど。通常の奏法でない演奏なども、いろいろ試行錯誤。

その後、大阪に戻り、日本センチュリー交響楽団+ハローライフで行っている「The Work」の最終リハーサル。

本日のリハーサルの最後の演奏の音が、とんでもなく雄弁でした。3週間前に、ぼくが譜面を書いていた時の想像(こういう響きに、こういう音楽になるだろう)を遥かに越えた音が出てきていました。音を聞くと、声を聞くと、若者たちの中に秘められたエネルギーが渦巻いているのが、感じられます。こんなエネルギーを持つ若者たちが活躍できる場が不足しているということは、今の日本の社会の仕組みが変わっていくべきなんだと、彼らと共演してみて、ぼくは実感しています。

ぼくの作曲した曲は、下手すれば、若者が演奏しているバックで、オーケストラのメンバーがパート譜を譜面通り、仕事をこなすように演奏してしまうことでも、形式上は楽曲として成立する、そういう譜面です。若者と楽団員が本当の意味で音として交わらなくても、表面上は成立し楽曲の体裁は保てます。しかし、昨日のリハーサルで、センチュリー響の楽団員たちの音は、譜面に書かれた楽譜を、譜面通りに演奏していながらにして、(非常に深いところで)音を通して若者たちと呼応する/コミュニケーションをしようとする、そういう気持ちが詰まった音を発していました。若者たちと楽団員たちは、譜面上は全く違う演奏していますし、音楽上のスキルも全く違いますが、でも、本当に一緒に音楽を作り上げていて、音楽に命が宿るような、そんな有機的な音楽を生み出していました。

指揮者を置かない代わりに、ちょとした合図の担当を、一人ずつに分担してもらっています。その多くは、若者たちの誰かが担当しています。ぼくの書いた曲は結構厄介で、演奏者は20名近くいて、しかも、ワークショップの中で生まれたトリッキーなリズムもあり、アンサンブルは一筋縄ではいかないのです。それを、お互いに気を配り合いながら支え合うことで、アンサンブルが崩壊しないだけでなく、絶妙なバランス感覚で、進んでいきます。プロの音楽家だけでも、素人の人だけでも生まれ得ない音楽が、確かにここに生まれています。こんなグルーヴ感やサウンドが出て来たのが、嬉しいことであります。

これは、他の何でもない「音楽」であります。音楽以下でも音楽以上でもない、ただただ音楽です。音楽は、説明とか意味を越えていきます。意味や効果に還元できないもの、我々が言葉で説明しようとしても、それを遥か越えた一音の中に、何かが発せられ、人はそこに何かを感じる。その何かは、滲み出てくる。だから、ぼくらは、ただただ音楽をする(もちろん、このプロジェクトを、3人のレポーターの方が、分析して言語化することを試みて下さっていて、それも大変嬉しいことなのです)。

先入観や偏見で勝手にイメージしていた若者像やオーケストラ像が覆されていきました。今の若者って、オーケストラの楽団員って。先入観は吹っ飛びます。そんなことを飛び越えて、ぼくたちはシンプルに、自分たちが創造した音楽を、丁寧に演奏している。ぼくたちは、役割や役職や経歴や社会の仕組みや、色々なものを飛び越えられるんだ。もっと飛び越えていきたい。そんな感情が、ぼくの中に沸き起こったのかどうかも、分からないくらいに、何かが飛び越えていき、何かがかき混ぜられる。

明日、大阪は豊中市立ローズ文化ホールで、若者たちと日本センチュリー交響楽団の楽団員と野村で、演奏します。お時間が許すようでしたら、この場に、是非、立ち会いに来て下さい。応援に来て下さい。飛び越えられる気がします。