野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

點心地圖初日

香港の滞在も残り1週間。

本日の「點心組曲」ツアーコンサート「點心地圖」に向けて、午前中に「Happy Handsome Rock'n Roll」の場所決めなどをする。

あと、7月10日の打ち合わせをメキシカとしていると、ベリーニが加わってきて、意図が分からない、理解できない、と色々、言ってくる。こちらとしても、5日後の企画に、絵画やダンスの要素を入れたいと、今頃言うのも気が引けるので、昨日になって思ったんだけど、可能な範囲で何ができるかを考えたいと、言う。結局、マネジメント的に何が可能で、何が可能でないのかを判断できるのはベリーニなので、こちらの意図を汲み取ってもらい、ベリーニに決めてもらうしかないのだが、結局、無理を承知で言っていることを、恐らく無理も承知でかなり限界に近いのだろうけど、美術やダンスの要素を入れてのパターンで、考えてくれた。残りの1週間で今日を含めて、4つのイベントを控えている。かなりの負荷がかかっているのは確かだし、それに応えるだけの成果をあげたいと思う。

昼頃、暗雲がたちこめ、今にも土砂降りの雨が降りそうな空になる。天気がなんとかもってくれるといいのだが。

午後2時30分。大雨が降るかと思いきや、少し空が明るくなる。JCRCのロビーが賑わう。売店の前に普段とは違って人が集まってくる。1曲目「Improvised Cantonese Opera」を上演するべく、高齢者の5人が連れられてくる。同じ施設内とは言うものの、C棟4階から、D棟1階まで移動してくるのは、大旅行でもある。セレクトブックショップのYeungの姿や、明日藝術教育研究所のArvinの姿も見える。お年寄りたちと9曲のオリジナルソングをメドレーで歌い、楽器を奏でる。

そのまま、2階にあがり、中庭をバックに集まっているメンバー達。2曲目「ピアノ協奏曲」。いつも、「あー」と叫びながら、何かを指差す彼が、多数の観客を前に、大騒ぎで「あー」と言っている。もう、そのこと自体がパフォーマンスであるようだ。ピアノ協奏曲のソリスト1番手のシウハは、見事なピアノ演奏で、野村との連弾。フィリップの指揮で、オーケストラはタイコやベルを奏でる。シウハは、おじぎも大変愛嬌たっぷりで、ステージ映えがする。2番手のオイミンは、急遽代役でソリストを担当した。そして、3番手のチザオは、演奏しながら舌を出すし、グリッサンドはするし、アクションはあるし、見事なソリストぶり。本番が圧倒的だった。本番、強い。

そして、中庭近くのカフェにて、3曲目「ハッピーハンサムロックンロール」。ハッピーハンサムさんは、体調が悪く出演できないので、作曲者不在で上演。たまたまのカフェ利用者、通りがかりの人など、多くの人々に聞いていただくこともでき、間キャにも声でも参加してもらった。

4曲目は、エレベータで再び1階まで降りて、キッチンへ。千人以上の人々の食事をつくる大キッチンにて、衣装をまとった「キッチンミュージック」メンバーたち。そして、ぼくも衣装に着替える。このツアーの観客だけでなく、キッチンの人々にも聴いてもらうことができたのが嬉しい。3ヶ月、毎日のランチをありがとう。

5曲目は、「温水浴プール療法ファンファーレ」。温水浴プールの中で、メキシカとメンバーたちが小日山拓也さんの湯笛、バケツ、銅鑼などを鳴らしている。ぼくも、鍵ハモや銅鑼を外で鳴らす。水の外と中でのセッション。初めて、プールの外から参加した。


6曲目は、屋上まであがる。この時点で、想定の時刻よりも、30分ほど早かったようで、まだ出演者が来ないうちに、観客が到着してしまう。そこで、屋上での野村誠のピアノ独奏タイムが突然できる。そして、メンバーが集まり、いよいよ「Afro-Brazilian Big Band」が始まる。これは、このメンバー全員が一つのコミュニティ。施設職員も含めて、みんなで音楽を楽しんでいる様子を丸ごと見せたかった。歩き出したり、それぞれが自由に楽しむ。そして、演奏後に、ピアノソファ君と野村の連弾タイムも行われた。

7曲目。本日最後の「木々の音楽」。7階まで降りて、木琴を始めて気づく。この木琴の楽団は、どう聞いてもお葬式のお経にしか聞こえない、とベリーニが言っていて、これはどの場所が合うか、悩んだ末に決めたのが、ここだった。そして、この7階の住人のゲラゲラ木琴さんが、先週、急逝された。ここで、木琴で、お経のような音楽を奏でることは、ぼくたちができる彼女への供養かもしれない。どうして、今日、この場所でこの音楽を奏でることを、彼女が生きているうちに、計画してしまったのだろう?そうした複雑な思いを抱きながら、彼女の冥福を祈りながら、共演してくれている3人の今のこの瞬間の演奏に耳を澄ましながら、この音楽の時間を生きる。そして、今日のツアーパフォーマンスは、これで終わる。

観客の方々と、色々、話し合うこともできた。カナダで音楽療法とコミュニティ・ミュージックを学んだという人と話せたことも大きかった。JCRCという福祉施設の魅力を、音楽作品として提示できたことも嬉しかった。

その後、インタビュー。「最初の15分だけいて、先に帰るから」と言っていたベリーニは、結局、1時間インタビューに付き合ってから帰って行った。彼女も疲れているだろうに。ありがとう。

コタロー君とアバディーンで夕食。香港でのイベントは残り3つ。