雨宮まみの「弟よ!」

2008-03-28 美人という職業

 なにかと気になってしまい、やっているとついつい観てしまう番組に『ビューティーコロシアム』があります。最初はもちろんヒドすぎる(誉めてます)キャッチコピーのセンスや、変身のカタルシスに素直に酔いしれていたのですが、だんだんなんかいろんなことが謎に思えてきて、目が離せなくなってしまいました。


 ところで、とつぜんですが、あなたはなぜ、女が整形をすると思いますか?


 「キレイになりたいから」。そりゃそうです。じゃあ、「キレイになりたい」って、なんでそうなりたいんでしょう? 「ナルシシズムを満たすため」? 「モテたいから」?


 『ビューティーコロシアム』の巧みなところは、この「キレイになりたい」という欲望を「ナルシシズムを満たすため」ではなく、「劣等感からの解放」という形に言い換えたことだと思います。「苦しんでいる人が救われた」という形にすれば、整形への抵抗感はぐっと減る。


 では「モテたいから」の方はどうでしょうか。出演者のうち、数名に一人は「変わったら何をしたい?」という問いに「恋をしたい」と答えます。


 「モテたいからキレイになる」って、すごく自然に聞こえる言葉ですが、そこに整形が入ると話は別です。ショウビジネスの世界では整形はよく行われているようですし、エロの世界も例外ではありませんが、誰かが整形すると、必ずと言っていいほど私の周りの男性は「整形する前の方がカワイかった!」と力説します。カワイイ女の子が大好き。でも整形は大嫌い。そういう男性は、かなり多いのではないでしょうか。「なんで整形が嫌いなの? キレイになるんだよ?」と言ってみると、返ってくる答えはいろいろあります。「表情が自然じゃなくなるから」「胸とかニセモノだと感じてないような気がする」「カンペキすぎる顔になると怖い」……。じゃあ、見抜けないような整形だったらどうなのか。そう尋ねてもやっぱり浮かない顔。そんなにイヤか、整形。非常に理論的に「なぜ整形がイヤか」を説明してはくれるのですが、みんな冷静なようでいて内側はめちゃめちゃアツいです。たとえ何時間、何ヶ月この話題を続けたところで、絶対に「そうだよね〜。整形しててもカワイかったらいいよね」という結論には決してなりません。


 「モテたいから整形したい」。でも、男の人は整形嫌いが多い。すでに矛盾ではないですか。


 どうして男の人(私の身近な人にしか聞いてないので、男の人といってもほんのちょっとの人数ですが)は、整形が嫌いなんだろう? というのは、けっこう疑問でした。女の容姿の欠点を信じられないほどシビアに酷評する一方で整形もこきおろされたら、もーいったいどーしろというのよ、と言いたくもなります。けど、その一方で「整形がイヤ」という気持ちは、なんとなくわかるような気もするのです。


 昨年、日本画家の松井冬子さんの写真を、知人の男性数名に見せました。単純に、あまりにも美人すぎて驚いたから見せたのですが、その反応がすごかったんですね。「すごい、キレイな人だね〜」「かなり好み」みたいな反応はまったくなくて「写真映りいいだけじゃん」「ムードある風に撮ってるだけで、実は大したことないんじゃないの?」「写真公表してる時点で『美人日本画家』って言われること自分で認めてるようなもんだよね」……。これ、女の嫉妬じゃないんですよ? 男の意見。うわっ、と思いました。


 これって何なんだろう? とずっと思っていたんですけど、女の場合の「美人」って、ある意味社会的な成功と同じ意味でとらえられていることが非常に多いと思うんです。実際に美人でどれだけトクしているか、とかに関わらず、「美人はトクする」と誰もが思い込んでいるからそうなんでしょうけど、とにかく「美人なだけで恵まれている」という思い込みが、男女ともに激しくある気がします。


 そりゃ確かに「美」という才能には恵まれているでしょう。それを才能として使っている人には誰も文句は言わない。女優やモデルの美しさには、多くの人が感心したり惚れ込んだりして、ポジティブな意味で「美人」であることを受け止めています。問題は、「美人」が本職ではなく、余技の場合です。


 「美人○○」(○○には職業が入る)という言い方が使われるとき、それは「男性を喜ばせるため」に使われていると思いがちですが、実はそうではなくて、半分くらいは男のイヤ〜な気持ちを掻き立てるために使われているのではないかと思うんです。特に雑誌の見出しなんかは、嬉しい気持ちより意地悪な気持ちにフックをかけていったほうがずっと引きがいいわけで。「美人○○」って、ホメ言葉のように見えるけど、雑誌の記事などでそう書かれている場合、かなりの確率で蔑称として使われていることが多いように思います。実力を認めている場合は、たとえ美人であってもいちいち「美人」とは書かないでしょう。美人○○、なんて、一見ホメてはいても軽く見ている場合がほとんどだって、わかる人にはわかるでしょうから。


 「美人○○」に対する嫉妬は、美ともうひとつ別の才能、ダブルで成功をおさめている者への嫉妬なのです。だから嫉妬もダブルスコアに跳ね上がり、強烈なものになるのでしょう。「もう何もしなくても『美人』という成功を手にしてるんだから、これ以上オレらのシマ荒らすなや!」(何弁?)という嫉妬が根底にあり、それが「美人○○」を取り巻く変な状況の原因になっているものと思われます。


 「モテたい」が整形の理由だとしたら、なぜうちの母親(50代・夫大好き)までもが「整形、してみたくなるよねぇ……」とつぶやくのでしょう。ヘタな美人など風圧で吹き飛ばしかねないほど濃厚なフェロモンを持っていて男には不自由してない友人が「一度でいいから周りの人に『あの人美人だよね』と噂されてみたい」と言うのでしょう。それは、もちろんただ単に「美しい自分になってみたい」というナルシシズムなのかもしれませんが、「美人という勝ち組の仲間入りをしてみたい」という気持ちが、あるのではないでしょうか。


 男の人が整形美人にドン引きするのは、この「勝ち組になりたい」という、女の強烈な欲望をはっきり言語化できない領域で敏感に感じ取っているからではないかと思います。「大好きなあなたにかわいいと思われたいから、普段履かないスカート履いてきちゃった」的な、かわいくなりたい願望は嬉しいものとして許容しても、「サクセスしたい!」と同じ意味合いの「メス入れてでも美人になりたい」という欲望には完全にアテられてしまう。


 私が『ビューティーコロシアム』で気になるのは、「キレイになる」ことに、あまりにも重きを置きすぎているところです。キレイになりさえすれば、まるですべてがうまくいくかのような演出がされている。そりゃ、容姿に強い劣等感がある人間にとって「キレイになる」のはとてつもなく大きなことです。でも、キレイになって変わるのは、キレイになったというただそれだけのこと。通りすがりに「ブス!」とののしられるつらさからは逃れられる? 美人になったら平和になんて生きていけませんよ。美人になったら何と言われるか知っていますか? 同じく「ブス!」と言われるのです。松井冬子クラスの美人(歴代映画スターと並んでもひけを取らない、一般人が泣いてひれふすレベルの造形美)でもだよ。こわいよね。永遠に、誰もが認める「勝ち」なんて手に入らない。本当に美しかったらそんな言葉はね返せる? でも、人は誰でもトシをとるんですよ。その問題はどうする? 自己満足の美しさでいいとしても、どこで折り合いをつける?


 本当に大事なのは、キレイになることそのものじゃなく、タフになることのような気がします。「キレイになったら生きていることが楽しくなる」わけじゃない。「生きていくのを楽しくするための知恵を身につける」ことが大事なわけで。「生きていくのを楽しむ」なんて、そんな簡単なことじゃねえよ! とお思いの方も多いでしょうが、「楽しむ」なんて字ヅラはラクそうだけど、それが大変だからタフネスが必要なのです。涙と苦さと痛みと、激しいアップダウンに悩まされながらどうやって「楽しむ」のか。それは、ほとんど戦いでしょう。


 「キレイになったらすべてが解決する、人生うまくいく」みたいな切迫したものがないぶん、『おネエ★MANS』は楽しいんだよなぁ……。『おネエ★MANS』のみなさんも、最初は美しくなることがまさに「戦い」だったと思うんですけど、それを経てきたタフネスが見えるからあんなにもポジティブに感じるのでしょうか。今だから言いますけど、私、かなり長いことIKKOさんのことを女性だと思い込んでいました。ちょっと声の低い、男っぽさをみんなにからかわれている女性だと思ってたYO! 性別も見抜けないくらいですから、整形なんてまったく見抜けませんけどね。



※追記 あ、女の整形が嫌いな男性は、「整形して美しくなる」ということの目的が実は男への媚びではないということを感じ取っているのかもしれませんね。こっちの方が大きいかも。整形は「自分のため」にするものですから、男性はすごく「置いてかれてる感」があるのではないでしょうか。「男? モテ? そんなん眼中にないわよ」という女の姿勢にイラッと来たり、一抹の淋しさを感じたり、そういう姿勢を何か不自然に感じたりしているのかもしれない、と思いました。

imosiuimosiu 2008/03/28 15:37 気持ちが元気になる内容でした。
タフになること、しみじみしました。
いつも雨宮さんの日記に活力頂いております。ありがとうございます。

yozickyozick 2008/03/28 16:29 宇多田ヒカルもfight the blues で「金じゃ買えない目には見えない/答えはメンタルタフネス」と歌ってましたね。
心の安寧は戦わないと得られないものなんかも。

otokinokiotokinoki 2008/03/28 17:20 非常に面白い内容でした…。
身近にティーン誌編集者が多くいて整形の話題が出てくるのですが、膝を打つところが多かったです。

ryuzawaryuzawa 2008/03/28 17:35  私は男ですが、松井冬子さんは好きですよ。
あの、光線でも出ていそうな眼差しで、睨まれたいような恐いような。
作品も好きです。
男性はコンプレックスの塊ですから、成功した美人に嫉妬してしまうのかも知れませんね(でも、その姉ちゃんの周りの男性陣は酷く言い過ぎのような・・・)。
確か美輪明宏さんが、「悲劇を伴う美が、至上の美」と仰られていましたが、やはり美は「幸せ」や「楽しさ」とは違うもののようで。
私も整形にはドン引きしてしまうんですが、AVでもギャルとかオシャレとかが苦手でキラキラ感とか人工的な硬質な感じがダメで、どうしても「オーロラ」とか「無垢」とかの方へ。
要するに、大人になれてない、って事なのかな!
別に「オーロラ」だって演じてはいるんでしょうけど。
なんて言えばいいのか、とにかく整形嫌いは確かにありますよね。

espresso3389espresso3389 2008/03/28 20:21 あんまり本能とかに話を還元するのは意味がないとは思いますが、優秀な子孫を残すためという理由を前提にすれば、整形によって得られた身体的特徴は子孫に継承されないので、本能的に避ける部分があるのかもしれません。

TTTTTTTT 2008/03/28 20:22 言葉にしにくい感情をうまく言葉にできる姉ちゃんに感動していました・・・・。
でも、でも・・・
「IKKOさんのことを女性だと思い込んでいました。」
なんだと!!!!!
この落差にすっかりやられました。さすが姉ちゃん。いつまでも素敵(???)な姉ちゃんでいてね。

SMZSMZ 2008/03/28 22:31 うへー、わたしの周りには「整形でも入れチチでも何でもかまわん、抜くだけなら」と言い切ってる男子しか居ないや・・・
整形番組を見る女性の半分程度は「出演する女どもはこんなことしないと恋も出来ないなんて可哀想ねー。わたしはしなくても(恋できるから)大丈夫!!」っていう見下し気分を楽しみたいんじゃないかと分析してますが、どうでしょうか。
わたしは仕事柄、身体を切ったり縫ったり異物入れたりすることに抵抗が無いので、「本人の気持ちが楽になったり前向きになるならいいんじゃないの」派です。まあ残念ながら整形したことが人生最大地点と思ってしまい、そこで甘んじてしまう人も少なくない様ですが。

BeterBeter 2008/03/28 23:26 ここでも現れたかマッチョ論!

junmk2junmk2 2008/03/28 23:33 1男性としてespresso3389さんの意見に一票。
その上で、化粧と整形は変わらないと言ってみる。

でも僕の場合、むしろ整形は許容するけど、化粧は駄目だな。
綺麗になった人を見た事がない。

junmk2junmk2 2008/03/28 23:36 失礼、追記。
自分のアイデンティティの一つである顔面を根こそぎ変えてしまうようなものならともかく、
プチ整形程度ならそこまで露骨な嫌悪感は示さないような気がする。
1重→2重とかさ。
手入れのいらないアイプチと同じじゃない?

mamiamamiyamamiamamiya 2008/03/28 23:50 みなさんコメントありがとうございます〜。
宇多田のその歌は大好きですよ。宇多田ヒカルはセクシーですよね。

>ryuzawaさま
美輪さまは「化粧と整形、どこが違うの?」という観点(化粧している時点ですでに自然ではない。でも、自己演出としてそれをやることの何がいけないの?)から、整形を肯定してらっしゃいますね。
女の「無垢さ」が好きな人と、女の「装ってる感」が好きな人と、わかれますね〜。
うさんくさい援交モノとWATERPOLEを両方持ってるプレステージが最強ってことかもしれません。

>espresso3389さま
整形話のときに「子供が可哀相」という意見をよく見ますが、実感としてわからないというのがホンネです。
美しい子供が欲しいという気持ちは、「本能的に」とてもイヤですね。

>SMZさま
見下し気分……。あるでしょうね……。
私は整形についてや美人について、なんだか全肯定とも全否定ともつかない気持ちがあるんですよね。整形してる人を、うらやましく思う気持ちもあるし。いさぎよくてカッコいいと感じる部分もあります。
ピアスやタトゥーを入れるのと同じ、外見を改造することで内面を変えるという意味合いもあるかなと思うので、けっきょく本人の好きずきだとは思いますが。

それより私の周りは森山中村上の電撃結婚(しかもまだ処女!)に沸き返っております。
「全国の独身女性に希望を与えた!」とか言われてますが、希望なんて与えてないよ〜。村上のフェロモンすごいもん。ダウンタウン浜田に乳揉まれるだけのことはありますよ。
「なぜ一番カワイイ黒沢が一番フェロモンないんだろうね」と弟に聞いたら「なんかガツガツしてる感じがするから」とにべもない答えが返ってきました。
友人(女)は「色気っていうのは、男に対する受け入れ態勢ができてるかどうかだ」と語ってて激しく納得です。口説かれて卑屈な受け答えをするようじゃダメなんだろうな〜。

son-of-laurenson-of-lauren 2008/03/29 00:14 「生きていくのを楽しむための戦い」って、すごい説得力です!
いつも、楽しみにしてます。

SMZSMZ 2008/03/29 00:28 あー別に整形したら180度性根を変えろって話じゃないんですけどまあいいかー。
行き遅れ女性の皆様(わたし含む)から、チュート徳井氏と番組で熱いキスを交わした時も相当嫉妬されてましたが今回はそれどころじゃなかったです>村上さん。

FI_MisaFI_Misa 2008/03/29 10:55 凄く面白かったです。

mira12mira12 2008/03/30 14:56 男性の視点から一つ意見を。
おそらく、世の男性のある程度は、「女性を所有したい」と考えています。
そして、同じ所有物ならよりレアで美しいものを、という風に考えます。
女性の美しさを語る文脈では宝石と同じで装飾品としての意味合いが強くなりがちですよね。
ところが、整形がアリになってしまうと、この差が限りなくゼロに近づきます。
なので、天然モノ、養殖モノと差別化して、養殖モノを一段下に置くわけです。
違いなんてわからないけど、わかっている風に見せたい、という見栄が本音だと思います。
僕は整形だろうがニューハーフだろうが美人なら何でもいいですけどね。
むしろそこまでする根性が好きです。

ishikawajunishikawajun 2008/04/04 02:03  俺の仲のいい知り合いにも、整形している女が3人いる。その内の2人は、とんでも
ない美人だ。連れて歩いてると、擦れ違った男がみんな振り向く。その2人は、もともと
凄い美人だったのに、さらに整形までしている。
 2人とも、自分は100パーセントじゃないというコンプレックスが凄くある。その
残り1パーセントをなんとか埋めようとして、整形してしまったんだけど、今度は、
物理的な力で埋めてしまったというコンプレックスが、彼女たちを苦しめることに
なる。
 いわゆる芸能人は、ほぼ全員といってもいいくらいの確率で整形しているが、それは
商売道具だという理由だけでは説明ができない。
 どんなに美人でも、満足はないんだなあ。

mamiamamiyamamiamamiya 2008/04/06 23:27 >いしかわさま

整形したら整形したことがコンプレックスになるって……ひー! なんというスパイラル。
整形以外の方法で、容姿を自分が「美しい」と思う方面に演出した人はそのことが自信になる場合が多いように思います(例/「いつまでもデブと思うなよ」の岡田さんなど)が、複雑ですね。
幸せになる(というのも漠然とした言い方ですが)のに、必ずしも美しさは必要ないし、たとえ芸能人やモデルであっても、人気を取るために「パーフェクトな美しさ」は必要ないと思うんですが、おそらく整形の問題はそういうこととは別のところにあるのでしょう。
私は「美しくなければ女ではない」という思い込みに長いこと縛られていたので、こういう話を聞くと、苦しいです。「美しくなければ恋愛する資格がない」とか「美しくなければオシャレなカフェとか入っちゃいけない」とかに始まり、そこから一歩抜けても「美しくなければ彼の心を引き止められない」とか、そういうことにえんえんとらわれ続けるのって、きりがないんですよね。
きりがないけど、美しさ以外の魅力って、物理的にいじれない。魅力的な人間になるための努力なんて、何をどうやったらいいのかわからない。とか、そういうこともあるのかなぁ……。