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武蔵野日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-08-30

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある

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Twitter で存在を知って本屋で購入した「東大卒プロゲーマー」を読む。

東大卒プロゲーマー (PHP新書)

東大卒プロゲーマー (PHP新書)

「勝ち続ける意志力」と同じく、格闘ゲームのプロゲーマーによる本。「意志力」がベストセラーになったので、これも売れると判断されたのであろう。

内容的にはいわゆるスト2世代である自分にはおもしろかったが、格闘ゲームを全く知らない人には意味不明なんじゃないかと思う。「意志力」と同じく、毎日ものすごい量の練習を淡々とこなし、コンテストに備えるという話で、ゲームも遊びとしてやるのではなく、仕事としてやるような人はやり方も違うなぁ、と改めて思う。

個人的に読みたかったところは第2章の「東大で研究に没頭、そして転落」。学部生ながら研究に寝食を忘れて没頭し、最後は国際会議で受賞するほど(相当すごい)まで行ったのに、大学院の入試で点数が足りなかったために志望する研究室に行けず(というか、学部で配属されていた研究室に残れず)、進学した研究室から足も遠のき中退してしまった、という話。

 いまでも忘れない。慶應と京大の学生たち。彼らが、その研究室への合格切符を奪っていった。しかも、京大生に至っては、その合格を蹴った。だからといって、繰り上げはない。僕は、研究室に入ることさえできない立場になった。

 研究室の先生は、落ちた僕に対し、残念そうにいった。

「君は……惜しかったね」

(中略)

何よりも忘れられないのは、院試のあとのお疲れさま会での恩師Sさんの、見たこともない悲しそうな顔だった。

 Sさんは、普段はすごく穏やかな人なのに、僕が落ちたことに対し「ちきしょう!」と大声を上げた。僕は泣きたかった。もう、Sさんと一緒に研究することはできない。

 Sさんは、その年を最後に東大を離れた。研究室に残る道もあったのに、別の大学で新しいチャレンジをしたいといって、去って行った。別れ際、Sさんはこういった。

「お前がいるんなら、研究室に残ったかもしれないけどな」(pp.116-118)

東大は1研究室あたりの定員が厳しく(研究科にもよるが、2〜3名くらい?)、志望通り行かないとは聞いていたが、これはしんどい……(この章の40ページほどは全部こういうエピソードである。ちなみに「研究室の先生」はその研究室のトップである准教授、「恩師Sさん」は博士研究員つまりポスドクである)。研究は筆記試験ができるかより研究に情熱を注げるかのほうが重要だと思うのだが、制度上1大学・1研究科・1研究室で面倒を見られる人数は限られているので、そうなると筆記試験の点数順に並べて選抜する、というのがもっとも公平になるし、こういう悲劇はいまの日本の大学だと、どうしても起きうる。学科試験以外も評価できる専門のスタッフがいればよいが、大学教員が選考もする日本の現状を鑑みると、一発入試が最適解になるのであろう。

東大だけでなく、東工大でも東北大でも同様の話を聞いたことがあり、気の毒だと思うが、選抜が起きるほど人気の分野・研究室だというのは他の分野・研究室からするとうらやましいことだろうし、選抜があれば明らかに向いていなさそうな人を落とすことができるので(向いてそうな人を落としてしまうリスクとの引き換え)、教員側の都合からすると、定員があるのも都合がよいのであろう。

東大や東工大は他大学から受ける人も多いだろうから、こういう悲劇は防ぎようがないのだろうし、結果的にはプロゲーマーの道も開けたので、結果オーライだろうとは思うが、学部生のとき所属していた研究室の分野からすると、これほど研究に向いてそうな人を、筆記試験の出来がほんの少し届かなかったという理由で失ってしまうというのは、もったいないことである。東大は、入学してからいかなる理由でも研究室変更もできないらしい(少なくとも彼が所属していた研究科は)。NAISTでも首都大でも入学してからの研究室変更は可能だし、実際している人もいるのだが、せめて1年経ったら変更できるようにするとか、できないのかなぁ(今回のような理由を認めると、入試による選抜が形骸化するので、認められないのは仕方ないが、いかなる理由でも認めない、というのは厳しすぎる気がする)。

首都大は自分の所属するコースは指導教員がOKといえば研究室当たりの上限がないため、今年度うちの研究室は入試に合格したら全員受け入れることにしているのだが、1学年10人いると私学並みの相当の大所帯でもあるので、痛し痒しである(そのため、外部からうちの研究室を希望する人は、研究テーマが絞り込めていない場合、他の大学や研究室を積極的に勧めている)。来年度は物理的制約(1研究室に与えられたスペースは同じなので、限界が早晩来る)により人数制限をするかもしれないが、学生第一で今後も受け入れていきたいと考えている。