研究は温故知新がおもしろい

NAACL(自然言語処理のトップカンファレンス群の一つ)の PDF が公開されたようなので、研究室内で読み会を開催する案内を出す。今年は丸一日をこれに取ることができなさそうなので、結局4回に分けて開催するのだが、研究室の新入生はこれが初めての論文紹介になるので、一応それにはちゃんと出席してコメントしたいと考えている。

学部生の授業をしていても思うが、学生が話す機会をもっと増やさないとな、と思ったりする。ちゃんとアウトプットしないと、どこまで行ってもお勉強にしかならないので、他人に説明する、というのでもしっかりできるようになってほしい。(他人に説明でき、かつ自分でもサーベイできる人が他の人の論文紹介を聞きにこないのはいいが、まだそうなっていない人はちゃんと論文紹介に出て、自分でも論文を読み、そして他人に紹介する機会が重要だと思っている)

午前中は情報理論の授業である。首都大に着任して最初に担当を依頼されたのがこの授業なので、思い入れはあるのだが、今担当している授業の中でもっとも専門から遠いので、説明していてもいつも落ち着かなさを感じる。情報理論自身、日本の大学は歴史的経緯により情報系の学部生の授業にはだいたいこの科目が存在するが、欧米の計算機科学の学部のカリキュラムには普通は組み込まれていないようだし。(うちのコースは情報通信なので、この科目があるのは全然おかしくないが)

午後は進捗報告を聞く。M2 の学生たち、就職活動が終わった人はいいのだが、終わっていない人は就職活動と研究の両方をやるのは難しいのではないか?と思ったりしつつ、とある手法を試してみたら予想外にいい結果が出た、という報告を聞いて、少しホッとする。

ただ、結果が良すぎるとなにか間違いを疑うべきだし、いい結果を出さないと、というプレッシャーをかけすぎると悪い結果を報告しなくなって間違った方向に行きがちなので、いい結果が出ても悪い結果が出ても動じず、ちゃんと前に進んでいることを評価しないと、と思ったりする。

夕方はコース長と1時間ほど打ち合わせ。雑談で、どうも人工知能学会で「日本中の自然言語処理を目指す学生が小町研に集結している」という噂を聞いたらしいが、さすがにそれは尾ひれがつきすぎで、他にもたくさん自然言語処理の研究室はあるし、今年はどこも見学者が多かったと聞いているので、自然言語処理という分野への受験生の注目度が上がっただけではないか、と思う。

いいのか悪いのか不明だが、どうも深層学習ブームに関係しているようで、ブームが収束すれば落ち着くであろう。読まないといけない論文の数も多く、やたら新しい論文を追いかけないといけないが、古い論文をそこまで読まなくてもいい、というのが大きいのかな。もちろん研究者を目指す人は古典の論文を読んだり、分厚い教科書をしっかり読んだりする必要があると思うが、修士で修了したい学生にとっては、そういうところは共著者がサポートすればいい訳だし……。最初から古典に興味があるような人は(科学史専攻だった自分のような例外を除くと)稀で、新しいのを追いかけてみて、古い話に興味が出て、勉強する気になる、という順番が健全だとも思う。

しかし深層学習はそれなりに人数がいないと研究を続けるのが難しい一方、深層学習に研究室のリソースを割くことにすると、それ以外のテーマをやりたいという人に影響が出てしまうので、あまり不利益がないようちょっと気をつけたい。たとえば、去年の新入生8人のうち半分が言語学習支援グループで、深層学習の研究をしているのは現在2名だけ(うち昨年度からやっているのは1名のみ)だが、今年の新入生(B4/M1)は全員なんらかの形で深層学習的なことをしそう。